今回の「レコード評議会」もザ・フーのシングル盤。
いつの間にか、ザ・フーのシングル盤シリーズとなっているが、今しばらくお付き合いいただければ幸い。
The Seeker
UK盤(1970年)
Track Record
604036
SideA:604036 A//2 1 1 0
SideB:604036 B//1 1 1 13
A. The Seeker
B. Here For More
シングルでのみリリースの「シーカー」。
後にベスト盤「Meaty Beaty Big and Bouncy」に収録されるが、オリジナル・アルバムには未収録。
印象的なリフを土台にしたミドルテンポのロック・ナンバーだ。
さすがアナログのシングル盤といった音で、エッジが立っていて、しかも音に芯がある。
オーバードライブの掛かったギターでピート・タウンゼントがカッティングしながら弾くリフが気持ち良い。
リフをなぞるジョン・エントウィスルのベースもブリブリとした低音の圧が高く、曲に推進力を与えている。
さて歌詞の方は、seekerとは何かを探し求める人という意味だが、こんな感じだ。
人は私のことをシーカーと呼ぶ。
だが、どこを探しても、それは見つからない。
死ぬまで見つからないだろう。
では探している物は何かというと、歌詞の中にこんなくだりがある。
I've tried to find the key to fifty million fables
直訳すると、5千万の寓話・物語への鍵を見つけようとしている、となる。
5千万という数字は当時のイギリス人口(1970年頃のイギリス人口は5千5百万人)なので、全ての人達の物語を知るための鍵を探している、といった意味なのか?
そう考えながら歌詞を眺めると、人は何故そんなことをするのか、自分自身のことでさえ分からない(おそらく死ぬまで分からないだろう)、といった悩みを歌っているようだ。
ピート・タウンゼントは1967年にミーハー・ババ(インドの神秘家、霊的指導者)の教えに帰依しているが、色々と思うところがあったのだろう。
ところで、歌詞の中にはこんなフレーズが出て来る。
I asked Bobby Dylan
I asked The Beatles
I asked Timothy Leary
But he couldn't help me either
ボブ・ディランを聴いても、ビートルズを聴いても、その悩みに対して答えをくれはしない、と歌っているのだろう。
では、Timothy Leary=ティモシー・リアリーとは誰なのか?
ということだが、写真の中央手前の人物がその人だ。
この写真を見て、あれ?と思った方も多いだろう。
そう、この写真は1969年にリリースの"平和を我等に(Give Peace a Chance)"を録音した時の一コマなのだ。
1969年5月26日から6月1日にかけてモントリオールのクイーン・エリザベス・ホテルで行われた第2回目の「ベッド・イン」、その最終日に"平和を我等に"は録音されたのだが、その時の写真だ。
で、ティモシー・リアリーとは誰?
ということだが、ChatGPTによるとこうある。
ティモシー・リアリーは、20世紀後半のアメリカの精神医学者で、幻覚剤の研究者でした。彼はLSDやピサロシンなどの幻覚剤の影響を探求し、その効果を精神的な探求や意識の研究に応用しようとしました。彼の研究や著作は、サイケデリック・ムーブメントやカウンターカルチャーに大きな影響を与えました。
「ドラッグの教祖」とのあだ名もあり、何だかアブナイ人の様だが、ハーバード大学で心理学の教授を務め、至って真面目に幻覚剤の研究をしていた人だ。
ただ、現代の感覚で言うと、相当に変わった言動を取っている。
▷ 1960年代後半にアメリカ政府がLSDの違法使用を禁止する方針を打ち出したのに対し、精神を解放する媒体としてLSDを擁護。
▷ 1969年、ジョンとヨーコの「ベッド・イン」イベントおよび"平和を我等に"の録音に参加(上述の通り)。
▷ 同年、カリフォルニア知事選に出馬を表明。レーガン(当時の州知事)を更迭するべく「Come Together - join the party」というスローガンを打ち出し、ジョンにキャンペーン・ソングの制作を依頼(※)。マリファナ所持により逮捕、選挙活動を断念。
※ ちなみに、このスローガンのフレーズを使ってジョンが作った楽曲が"Come Together"。
…といった人なのだ、ティモシー・リアリーは。
ということで、I asked Timothy Leary …とは、ティモシー・リアリーに訊いても=ドラッグの力を借りても、その悩みに対して答えをくれはしない、と歌っているのだろう。
さて、そんなこんなの背景が分かって聴いてみると、ただのロック・ナンバーの割に奥深いテーマを取り扱っているんだな、と。
と、あれこれ書いてきたが、うーむ、この頃のザ・フーの楽曲としてはややパンチに欠ける気がする。
そう言えば、キース・ムーンが割とオーソドックスなドラム・プレイに徹しており、大暴れしていないところも物足りないような…
「トミー」「ライブ・アット・リーズ」「フーズ・ネクスト」といったアルバム収録曲の中には頭抜けて素晴らしいものが並んでいるだけに、どうしても見劣りしてしまう、ということなのだろうか?
そう思って、ザ・フーの全キャリアを見渡してみると、 "シーカー"も決して悪くない。と言うか、良い。
やっぱりこの当時の楽曲に素晴らし過ぎるのが多いために割を食っている、ということなのだろう。
まあ、カップリングの"Here For More"(ロジャー・ダルトリーの作曲によるカントリータッチの曲)はもろにB面といった曲ではあるが…
1段目左から:スカンジナヴィア盤、オランダ盤、フランス盤
2段目左から:シンガポール盤、ドイツ盤、メキシコ盤
3段目左から:スペイン盤、イタリア盤
4段目左から:ベルギー盤(※)、日本盤
※ ベルギー盤のデザインは「トミー」ではないか…
ということで、次回は爆発力、破壊力が凄まじい「ライブ・アット・リーズ」からのシングル・カット曲を採り上げよう。
まだザ・フーのシングル盤シリーズは続く…