ザ・フーのシングル盤シリーズ、いよいよ最後に近づいてきた。
ということで、今回の「レコード評議会」はこれ。
Doctor Jimmy / The Real Me
フランス盤(1974年)
Track Record
2094 118
Side1:B TRC POL 2094118 1 CIDIS
Side2:B TRC POL 2094118 2 CIDIS
A. Doctor Jimmy
B. The Real Me
1973年アルバム「四重人格(Quadrophenia)」からのシングルカット"ドクター・ジミー/リアル・ミー"のフランス盤。
英国ではこれらの曲はシングルになっていない。
一方、 Discogsによると米国などでは以下のカップリングでリリースされている。
米国、カナダ:A面"リアル・ミー"、B面"ぼくは一人(I'm One)"
ベルギー、オランダ:A面"リアル・ミー"、B面"ドクター・ジミー"
日本:A面"リアル・ミー"、B面"ウォーター(Water)"
さてフランスではどうなっているかと言うと、A面B面が入れ替わった両方のパターンでリリースされている。
A面"リアル・ミー"、B面"ドクター・ジミー"
A面"ドクター・ジミー"、B面"リアル・ミー"
何故このようなことになったのだろう?
私の手元にある盤は、A面"ドクター・ジミー"、B面"リアル・ミー"。
"ドクター・ジミー"がステレオ、"リアル・ミー"がモノラルだ(←またしてもこのパターン)。
おそらく、以下の様な経緯だったのではないだろうか?
ポリドール・フランス(フランスでの販売会社)の工場でステレオの"ドクター・ジミー"がA面なのだろうと勘違いしてレコードを作ってしまった。
間違いに気付き、モノラルの"リアル・ミー"をA面にし直したが、〈A面"ドクター・ジミー"バージョン〉は既に市場に出てしまっていた。
如何でしょう?
ということで、〈A面"ドクター・ジミー"バージョン〉は初盤と言うことも出来るし、一種のエラー盤であるとも言えるだろう。
さて曲の内容だが、それぞれこのような感じだ。
"ドクター・ジミー"は、凶暴な人格が現れた時と"Is it me(これは自分なのか?)"と冷静になっている時と入り混じった状態のジミーを描いた歌。
"リアル・ミー"は、精神科医に対して"Can you see the real me?(本当の俺が分かるか?)"と訴えるジミーを描いた歌。
両曲ともピートの作った曲の中でもレベルの高い曲であり、特に"リアル・ミー"はその疾走感と爆発力からザ・フーの中でも五本の指に入るカッコ良さだ。
では、この盤の音はどうなのか?
"ドクター・ジミー"はと言うと、海辺での嵐の音、シンセサイザー、ブラスが入り、激しさと静けさが入り混じる曲調なのだが、鮮度の高さが感じられるキレのある音で素晴らしいの一言。
"リアル・ミー"はと言うと、モノラル(ステレオ・ミックスからモノラル化したものと思われる)なのだが、これが凄まじく良い。鮮度の高い音がど真ん中からストレートに飛び出して来る。
ギザギザとエッジの効いたピートのギター、激しく動き回るドライブ感が凄いジョンのベース、全編フィルインの様に激しく叩かれるキースのドラム、ジミーの苦悩が迸る様なシャウトが凄いロジャーのボーカル。疾走感と爆発力が物凄い。
そして曲のエンディングは、アルバム(the real me, me, me, me...)とは違って、楽器の演奏途中でフェードアウトするのが面白い。
モノラルということで(前回記事の"5:15 (5時15分)"の例もあることだし)、さほど期待をしていなかったのだが、想像を超えて素晴らしい音だ。
フランス独自のペーパースリーヴもなかなか粋。
ということで、このフランス・シングル盤は大当たり。
それにしても、この頃のレコードは各国で曲目が違ったり、独自カッティングだったり、モノラルだったり、ステレオだったり、ジャケットが違ったりとバラバラで面白い。
と言うか、そういうことが許された面白い時代だったな、と。
左:ベルギー盤(The Real Me と Doctor Jimmy のカップリング)
右:日本盤(The Real Me と Water のカップリング)
ザ・フーのシングル盤シリーズ、いよいよ次回で最終回…