「B-SELSで買ったレコード」シリーズ:シーズン7が前回で終了、通常の「レコード評議会」に戻ります。
とは言っても、一旦ビートルズに取り憑かれると離れることがなかなか難しい。
かと言って、このままビートルズを続けると「ビートルズ評議会」になってしまうので、それも避けたい。
ということで、ビートルズっぽさを感じるこのバンドのアルバムを採り上げよう。
Skylarking
UK盤(1986年)
Virgin
V 2399
Side1:V 2399 A - 4U - 1 - 1 ⇀ X1
Side2:V 2399 B - 3U - 1 - 1 ⇀
Side1
1. Summer's Cauldron
2. Grass
3. The Meeting Place
4. That's Really Super, Supergirl
5. Ballet For A Rainy Day
6. 1000 Umbrellas
7. Season Cycle
Side2
1. Earn Enough For Us
2. Big Day
3. Another Satellite
4. Mermaid Smiled
5. The Man Who Sailed Around His Soul
6. Dying
7. Sacrificial Bonfire
XTCの「スカイラーキング」(8枚目のアルバム)。
XTCについては、以前に1989年のアルバム「オレンジズ・アンド・レモンズ」を採り上げたが、その一つ前のアルバムだ。
バンドメンバーの3人、アンディ・パートリッジ、コリン・モールディング、デイヴ・グレゴリーについてもここの記事に書いてあるので、ご覧いただきたい。
タイトルの skylarking とは、ばか騒ぎを意味する英国海軍が使う言い回しなのだそうだ。
なかなか洒落たタイトルを付けたものだな、と。
一日、一年、季節、人生といった様々なサイクルをテーマにしたゆるいコンセプト・アルバムなのだそうだ。
彼らの作品の中で最も名が知られているアルバムで、一般的に代表作とされている。最高傑作と紹介されることもある。
トッド・ラングレンがプロデューサーを務めたことでも有名だ(レコーディングもトッドのユートピア・サウンド・スタジオで行われた)。
米国でのヒットを狙っての起用とのことだが、デイヴ・グレゴリーが大ファンだったということもあったらしい。
そして、トッド・ラングレンとアンディ・パートリッジの意見が合わず、アルバム制作が危ぶまれるほど険悪な状態になったこともよく知られている。
二人ともこだわりの強い職人気質なので、衝突は必至だったのかも知れない。
加えて、2010年に"極性エラー"が判明したとして、それを修正したレコードをアンディはリリースしたのだが、その際にもトッドとアンディの間に険悪な空気が流れている。
アンディ・パートリッジの言い分
トッド・ラングレンがマスタリングの際に誤配線をした。そのことによる極性エラーの影響で、音が薄くなってしまった。極性を修正したら良い音になった。
(あいつにせいでアルバムが今まで台無しになっていたじゃねーか)
トッド・ラングレンの言い分
誤解を正しておく。曲目に"Dear God"を含むオリジナルのマスタリングをした際に私は携わっていた。Sterling SoundでエンジニアのGreg Calbyと行ったのだが、その際に誤配線をする様なことは考えられない。ちなみにその後VirginとXTC側で"Dear God"を外したが、その際にはリマスタリングが行われたはずだ。そのリマスタリングに私は関与していない。
(誤配線があったのならリマスタリングの時じゃないのか?そもそも極性エラーがあったのかどうかも怪しいもんだ。言いがかりを付けてんじゃねえよ)
と、揉めごとの尽きないアルバムなのだが、内容はとても良い。
XTCの代表作、最高傑作と言われるだけのことはある傑作アルバムだ。
勝手な印象を含めて、各曲を説明するとこんな感じだ。
A:アンディ・パートリッジ作曲
C:コリン・モールディング作曲
⭐️の数:個人的に好きな度合い(最高で⭐️5つ)
Side1
1. Summer's Cauldron (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
蜂が飛ぶ音やコオロギの鳴き声によるオープニングが夏を感じさせる。
起伏がありながらも自然な流れのメロディは名曲と言って良いだろう。
そのまま次曲"Grass"につながるエンディングも秀逸。
2. Grass (C) ⭐️⭐️
XTCの出身地スウィンドンにある公園、コート・ウォーターについて歌ったもの。
何となく東洋風メロディのノスタルジックな曲。
エンディングに前曲でのコオロギの鳴き声が入っているので、組曲の様な印象を受ける。
シングルカットされている(UKチャート100位)。
3. The Meeting Place (C) ⭐️⭐️
これもノスタルジックな曲。
コリンが言うには、かつての子供番組"Toytown"を思い起こさせる様な循環コードによるリフで作った曲なのだとか。
シングルカットされている(UKチャート100位)。
4. That's Really Super, Supergirl (A) ⭐️⭐️
ここでのSupergirlとはアメコミのスーパーガールのこと。
なおギターソロは、トッドが所有していたギター"The Fool"(デザイン集団 The Fool がサイケデリックにペイントしたギター、当初はエリック・クラプトンが使用していた)を使ってデイヴが演奏したもの。
ちなみに The Fool と言えば、ビートルズとの繋がりも深い。
テレビ放送「Our World」での"All You Need Is Love"の衣装、テレビ映画「Magical Mystery Tour」での"I Am the Walrus"の衣装、アップル・ブティックの壁画などが彼らの仕事だ。
5. Ballet For A Rainy Day (A) ⭐️⭐️⭐️
何となく中期ビートルズを彷彿とさせるミドル・バラード。
どの曲に似ていると言う訳では無いのだが、DNAレベルで通じるものがある。
6. 1000 Umbrellas (A) ⭐️⭐️⭐️
"Eleanor Rigby"を彷彿とさせる弦楽器によるアレンジはデイヴによるもの。
トッドは当初この曲をアルバムに収録しないつもりだったが、このアレンジを聴いて収録を決めたという。
7. Season Cycle (A) ⭐️⭐️⭐️
ビーチボーイズのアルバム「Smiley Smile」に触発された曲なのだとか。
楽器の使い方やコーラスが確かにビーチボーイズ風だ。
Side2
1. Earn Enough For Us (A) ⭐️⭐️⭐️
デイヴが作ったという冒頭のギターフレーズがインパクトのあるギター・ポップな曲。
ベースラインについてのアンディとの言い争い(アンディがブルースっぽ過ぎると文句を付けた)から、コリンは一時期バンドを抜けたという。
エンディングのインド風フレーズがビートルズ(ジョージ)っぽい。
2. Big Day (C) ⭐️⭐️
サビの節回し(ビッグ デ〜エ エ〜エ エイ)がインド風と言うか、これもビートルズ(ジョージ)っぽい。
3. Another Satellite (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️
後に恋人さらには結婚することになるエリカ・ウェクスラーという女性についての曲なのだとか。
トッドはアルバムに入れるつもりが無かったが、最終的に収録された曲(アンディの希望だったのだろう。当初トッドがアルバムに収録予定としていた"Dear God"が外されて、この曲が収録されたということか?)。
何とも不思議な雰囲気の曲で、こういう曲を書けるのがアンディの才能。
4. Mermaid Smiled (A) ⭐️⭐️⭐️
ミュート・トランペット、ヴィブラフォン、ボンゴ、タブラが入っている、ジャズと言うか、フュージョンっぽい響きのする曲。
ボーカル抜きのインストでも成り立つ曲。
なお、シングル"Grass"のB面ながら"Dear God"がヒットしたため、アメリカでは"Mermaid Smiled"を外して"Dear God"を収録した2ndバージョン盤がリリースされた。
5. The Man Who Sailed Around His Soul (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️
スパイ映画で流れるシネ・ジャズの様な曲。
アンディがトッドに「理想を言うなら、ビートニクな、実存主義的なスパイ映画のサウンドトラックのようにしてほしい。できるか?」と注文したのだという。
アンディとトッドの持つ音楽性の幅の広さ。
6. Dying (C) ⭐️⭐️
タイトルからして暗いイメージの曲。
曲調やアレンジから"Cry Baby Cry"を連想させる。
7. Sacrificial Bonfire (C) ⭐️⭐️
タイトルは犠牲祭の篝火と訳すのだろうか?
ロンド(輪になって踊る舞曲)の様な曲。
アルバムの終曲に相応しい。
以上が各曲の説明だが、さてここで気が付かれた方もいると思う。
全14曲の個人的に好きな度合いは以下の通り、すごく好きだという曲は少ない。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️:1曲
⭐️⭐️⭐️⭐️:2曲
⭐️⭐️⭐️:5曲
⭐️⭐️:6曲
XTCならではのひねくれ感や毒っ気の様なものがマイルドになっていて、曲としてのインパクトやや欠けると言うか、少し物足りない、そんな感じなのだ。
だが、アルバム全体としては浮遊感のある響きがとても良い感じで、通して聴いてみるとまとまりのある、非常に良く出来たアルバムに仕上がっている。
これこそがトッド・ラングレンのプロデューサーとしての手腕なのだろう。
一方で、それだからこそアンディ・パートリッジがこのアルバムに対して複雑な想い、アンビバレントな感情を持つことにもなっている。
アンディ・パートリッジの独り言(←想像です)
あの野郎(←トッド・ラングレンのこと)、コリンの曲を5曲も入れて、オレの持ち込んだ曲ばかり不採用にしやがった。プロデューサーだからといって好き勝手しやがって!
それにオレの曲なのにオレの言うことを聞かねえって、どういうことだよ。勝手にアレンジも決めて、全然イメージが違うじゃねえか!
でもアルバムは評判が良い。それってどうよ?あいつのプロデュースのおかげってことなのか?
確かに良い感じのアルバムに仕上がったとは思うけど、何だか気に入らねー!
で、後々になっても"極性エラー"が判明したとか何だとか文句を付けている訳だ。
ところで、"極性エラー"があるとされるこのレコードだが音が悪いのか?音が薄いのか?と言うと、うん?そんな風には感じないが…
アルバムに漂う浮遊感のある響き、それこそが"極性エラー"によるものなのだ、ということならそうなのかも知れない。
だが、それこそがこのアルバムの良いところでもあるのだし、"極性エラー"があったのだとしても、このアルバムの価値を減じる様なものでは無い。
ということで、あれこれと曰く付きのアルバムながら、XTCの代表作、最高傑作と言われる「スカイラーキング」なのであった。
が、個人的には、最高傑作は「スカイラーキング」では無く、別のアルバムだと思う。
そのアルバムとは何か?
それはまた後日…