4回にわたって続けてきたイヴァン・リンスだが、まだもう少し手元にあるので、この際だから全て採り上げてしまおう。
ということで、今回の「レコード評議会」はこちら…
Ivan Lins
Juntos
ブラジル盤(1984年 / 1986年セカンドプレス)
8226721
SideA:822 672 1 1 02 1986 200
SideB:822 672 1 2 02 1986 200
イヴァン・リンスの「Juntos(ジュントス)」。
手元盤はブラジル盤なのだが、デッドワックスを見ると、1986年に改めてカッティングされたセカンドプレス盤の様だ。
Discogsによると、このアルバムはLPレコードがブラジルとアメリカと日本でリリースされ、CDがドイツで製造されている(各国に輸出)。
つまりイヴァン・リンスのリーダー作としては、アメリカなどワールドワイドにリリースされた初めてのアルバムなのだ。
これまでイヴァン・リンスはブラジルとポルトガルのみでのリリースだったのだが、Philipsがワールドワイドでの展開を図ったという訳だ。
で、ワールドワイドでの展開に際してPhilipsの打った手は、これまでの作品から曲を選び、一人ずつゲストを迎え、大幅なアレンジ変更を加えて再レコーディングする、というものだった。
このため、核となるヴィトル・マルティンス(作詞)およびジルソン・ペランゼッタ(キーボード、アレンジ、プロデューサー)との共同体制は維持されているものの、従来と比べて豪華な印象のアルバムとなった。
ということで、各曲の初出アルバムと共演者を見てみよう。
A1. Abre Alas
初出:Modo Livre(1974 / RCA Victor)
共演:MPB4(Música Popular Brasileira 4)-ブラジルで有名な4人組グループ
A2. Bilhete
初出:Novo Tempo(1980 / EMI)
共演:Nana Caymmi(ナナ・カイミ)-ブラジルのシンガー、伝説的歌手であるドリヴァル・カイミの娘
A3. Somos Todos Iguais Nesta Noite
初出:Somos Todos Iguais Nesta Noite(1977 / EMI)
共演:Djavan(ジャヴァン) ーブラジルのシンガーソングライター、MPBの代表的存在
A4. Formigueiro
初出:A Noite(1979 / EMI)
共演:Tim Maia(チン・マイア)-ブラジルのギタリスト兼シンガー、ブラジリアン・ソウルの先駆者
A5. Novo Tempo
初出:Novo Tempo(1980 / EMI)
共演:Elba Ramalho(エルバ・マリャーリョ)-ブラジルのシンガーソングライター、The Queen of Forró(フォホーの女王)と呼ばれる
A6. Começar De Novo
初出:A Noite(1979 / EMI)
共演:Verônica Sabino(ヴェロニカ・サビーノ)ーブラジルのシンガーソングライター
B1. Juntos
初出:新曲、本アルバムが初出
共演:George Benson(ジョージ・ベンソン)ーアメリカのジャズ・ギタリスト、シンガーとしても活躍 / ちなみにベースはMarcus Miller(マーカス・ミラー)
B2. Dinorah, Dinorah
初出:Somos Todos Iguais Nesta Noite(1977 / EMI)
共演:Erasmo Carlos(エラズモ・カルロス)-ブラジルのシンガーソングライター、ブラジルのロックの先駆者
B3. Bandeira Do Divino
初出:Nos Dias De Hoje(1978 / EMI)
共演:Simone(シモーネ)-ブラジルのシンガー、MPBの代表的存在
B4. Daquilo Que Eu Sei / Believe What I Say
初出:Daquilo Que Eu Sei(1981/ Philips)
共演:Patti Austin(パティ・オースティン)-アメリカのニューヨーク市ハーレム出身のR&Bシンガー / ちなみにベースはMarcus Miller(マーカス・ミラー)
B5. Saindo De Mim
初出:A Noite(1979 / EMI)
共演:Paulinho Da Viola(パウリーニョ・ダ・ヴィオラ)ーブラジルのサンバ奏者、サンバの貴公子と呼ばれる
B6. Desesperar, Jamais
初出:A Noite(1979 / EMI)
共演:Beth Carvalho(ベッチ・カルヴァーリョ)ーブラジルのサンバ歌手、サンバの女王と呼ばれる
B7. Qualquer Dia
初出:Somos Todos Iguais Nesta Noite(1977 / EMI)
共演:Elis Regina(エリス・レジーナ)ーブラジルの代表的なシンガー、 愛称はFuracão(ハリケーン)、Pimentinha(小さな唐辛子)、1982年に亡くなる / この曲は生前の彼女のボーカル音源にバックの演奏を加えたもの
以上、全13曲。
新曲はタイトル曲1曲のみで、12曲は今までのアルバムからの選曲。
共演者は11曲がブラジルのミュージシャン、2曲がアメリカのミュージシャンという構成となっている。
音作りは、時代を反映してか、シンセがかなり使われている。
そしてドラムは80年代に流行った音。ゲートリバーブ(当時はゲートエコーと呼ばれた)がかかったサウンドだ。
つまり、80年代サウンドというやつだ。
黄金期と言われるEMI時代(1977年〜1980年)を中心とした選曲で、その音に慣れた耳にはこの80年代サウンドは微妙と言うか、正直似つかわしくない様な気がする。
が、ずっと聴いているとこれはこれでアリ、とも思えてくる。
セルフカバー、他のミュージシャンによるカバーを問わず、カバー曲が原曲を超える場合は少ない。と言うか、カバー曲はイマイチだなぁ、いうことの方が多い。
楽器の使い方や歌い方、音作りを含めてその曲をその曲たらしめているので、カバー曲は何か違う、イマイチだ…と感じてしまうのだろう。
だが、イヴァン・リンスの曲はそんなことは無い。
原曲と違うアレンジでも、他のミュージシャンが歌っていても、良いものは良い、と思える。
メロディ、コードワーク、ヴォイシングが素晴らしいため、曲そのものの強度が高いのだろう。
マイルス・デイヴィスが「こいつは最低だ(最高だ)。全てこいつの曲のアルバムを作ってやろう」と言ったというのも頷ける。
ということで、「Juntos(ジュントス)」は80年代の音作り&他のミュージシャンとの共演によるカバー曲集なのだが、奇しくもイヴァン・リンスの曲の強度、素晴らしさを再認識させてくれた、私にとってはそんなアルバムだ。
なお、このジャケットのデザインだが、酒瓶になっている。
表のラベル下部分に"contem 100% música"、裏のタグに"10 anos 1974-1984"とある。
「この瓶(ジャケット)の中には1974年から1984年までの10年間熟成させたお酒(音楽)が詰まっています」ということか… なるほどね、と。
(おまけ)
当時の日本盤の邦題は「歌の仲間たち」。
しかも字体が丸文字っぽいのが時代を感じさせます…
なお、その後再発の際には「ジュントス」と原題のカタカナ表記に変更されています。