前回に続き「レコード評議会」は「B-SELSで買ったレコード」シリーズとなります…
「ヘルプ!」のイタリア盤「Aiuto!」、そしてストロベリーのメキシコ盤EPの購入を決めた後、改めてアルバムコーナーを見る。
レコード棚の左側からリリース順にアルバムが並んでいるのだが、UKオリジナル盤から各国盤に至るまで、B-SELSの豊富な品揃えにはいつも驚かされる。
もう1枚くらいお手頃の盤はないかな?と思いつつ、端から見ていく。
その中で「お!」と手が止まったのがこの盤。
Yesterday And Today
US盤(Scranton Pressing)(1966年)ステレオ
Capitol
ST 2553
SideA:ST1-2553-A3 #3 IAM &
SideB:ST2-2553-A1 #3 IAM &
SideA
1. Drive My Car
2. I'm Only Sleeping
3. Nowhere Man
4. Dr. Robert
5. Yesterday
6. Act Naturally
SideB
1. And Your Bird Can Sing
2. If I Needed Someone
3. We Can Work It Out
4. What Goes On?
5. Day Tripper
「イスタデイ・アンド・トゥデイ」ステレオ盤。
1966年6月20日にUSキャピトルからリリースのアメリカにおけるオリジナル・アルバムだ。
ジャケットはトランク・カバー。
当初のジャケットはブッチャー・カバーと呼ばれる「白衣を着たメンバーが首の取れたベビー人形と生肉片を持って笑っている」というものだった。
グロテスクで悪趣味なこのジャケットは、写真家ロバート・ウィテカー(Robert Whitaker)のアイデアによるもので、世界中が偶像として崇拝するビートルズ像を破壊する、といったような意図があったらしい。
だが、リリース直前に差し替えとなる。
キャピトル社長が反対。 店頭に置けないと販売店からも苦情。
擦った揉んだの末に、トランクと4人が写っているトランク・カバーに差し替えされたという訳だ(これもロバート・ウィテカーによるもの)。
ブッチャー・カバーについては、
・アルバムを切り刻んで発売するキャピトルに対する抗議だった(?)
・ベトナム戦争に反対する意図があった(?)
・一部回収されずに販売されてしまった
・回収したブッチャー・カバーの上にトランク・カバーを貼り付けたものもあった
・ビルボードやキャッシュ・ボックスで1位になるなどセールスは良かったものの、ブッチャーカバーの回収に費用がかさんだためキャピトルは赤字を被った
・ブッチャー・カバーはその希少性から超高値となっている
などの話があるが、様々なところで語られているので、ここでは詳しくは書かない。
そして、収録曲はと言うと…
アルバム「ヘルプ!」英国リリース:1965年8月6日
A5. Yesterday
A6. Act Naturally
シングル 英国リリース:1965年12月3日
B3. We Can Work It Out
B5. Day Tripper
アルバム「ラバー・ソウル」 英国リリース:1965年12月3日
A1. Drive My Car
A3. Nowhere Man
B2. If I Needed Someone
B4. What Goes On?
アルバム「リボルバー」 英国リリース:1966年8月5日
A2. I'm Only Sleeping
A4. Dr. Robert
B1. And Your Bird Can Sing
3枚のアルバム&シングルからの寄せ集めだ。
シングル"We Can Work It Out / Day Tripper"は「ラバー・ソウル」セッション時の曲なので、3つのアルバム・セッションからの寄せ集め、と言うことも出来る。
しかも、この「イスタデイ・アンド・トゥデイ」のリリース日は1966年6月20日なのだが、それより後の8月5日に英国リリースとなる「リボルバー」の収録曲が3曲含まれている。
USキャピトルが英国EMIに要請して「リボルバー」に収録する予定の曲を取り寄せて、先に発表してしまったという訳だ。
さすがと言うべきか、USキャピトルも無茶なことをしたものだ(これにはビートルズのメンバーも激怒したらしい)。
そんなアルバムなのだが、そんなアルバムが故に、以前から気になる存在だったのだ。
私「これ、前から気にはなっていたんです。少し聴かせてもらえますか?」
ご店主「おぉ、これですか。どうぞどうぞ」
私「今日はもうあまり時間がないので、B面の2曲だけお願いします」
ご店主「それでしたら、"I'm Only Sleeping"が少し変わっていますので、A面の2曲を聴いてみてはいかがでしょう?」
私「あ、もしかしてミックス違いですか?」
ご店主「まあ、聴いてみてください」
A1. Drive My Car
まず1曲目は「ラバー・ソウル」の1曲目でもあるこの曲。一瞬「あれ?ラバー・ソウル?」と思ってしまう。
ギラっとしたギターにビシッとしたベースで、想像を超えて、メリハリの効いた元気な音が飛び出してくる。
私「これは良い音じゃないですか。想像以上です」
A2. I'm Only Sleeping
そして2曲目、聴き進めていくと…
あれ?逆回転ギターに違和感が??
(a) "Running everywhere at such a speed. 'Till they find there's no need (there's no need)" のところに逆回転ギターが入っていない!
(b) "... Taking my time. Lying there and staring at the ceiling ..." の "Lying..." で逆回転ギターがブワーっと入ってくる!
(c) "... I’m only sleeping" と歌われた後のエンディングで入ってくる逆回転ギターの最初2拍分の音が小さい!
私「逆回転ギターがかなり違いますね。最初の方は全く入っていないんですね(a)」
ご店主「逆回転ギターがブワーっと入ってくるところが好きなんです(b)」
私「これは面白いです!」
時間が無かったため、2曲しか試聴出来なかったのだが「これは買いだ」と確信。
私「"I'm Only Sleeping" のミックス違いも面白いですし、音も良いじゃないですか、想像以上に良いですよ」
ご店主「個人的には、このアルバムはUSキャピトル盤の中で最も音が良いと思います」
私「買います」
ご店主「ありがとうございます」
ということで、購入を決めた「イスタデイ・アンド・トゥデイ」ステレオ盤、家に帰ってからビートルズ研究本(「レコーディング・セッションズ」など)を片手にじっくりと聴いてみると…
1.「リボルバー」からの3曲について
「リボルバー」からの3曲 "I'm Only Sleeping"、"Dr. Robert"、"And Your Bird Can Sing" は擬似ステレオとなっている。
英国EMIは、USキャピトルからの要請で、まず1966年5月12日にモノラル・ミックスを作ってテープを送り、その後5月20日にステレオ・ミックスを作ってテープを送った。
だが、早くにレコードをリリースしたかったUSキャピトルは、ステレオのテープの到着を待たず、モノラルを擬似ステレオ化したものでステレオ盤を制作したという訳だ。
ちなみにUSステレオ・ミックス(トゥルー・ステレオ)は1970年代の再発盤で初登場となる。
2. ミックス違いについて
① I'm Only Sleeping
擬似ステレオ、つまりはモノラル・ミックスなのだが、USモノラルはUSキャピトル独特のものとなっている。
この曲にはUKモノラル、UKステレオ、USモノラル、USステレオと4種類のミックスがあり、逆回転ギターの入り方がそれぞれ違っている(この盤の特徴は上述の通り)。
②-a Dr. Robert(その1)
擬似ステレオ、つまりはモノラル・ミックスなのだが、USモノラルはUSキャピトル独特のものとなっている。
この曲にはUKモノラル、UKステレオ、USモノラル、USステレオと4種類のミックスがあり、"Well, well, well, you're feeling fine" のところのマラカスに違いがある。
UKモノラル、UKステレオ、USステレオには、マラカスは入っていない。
USモノラル(擬似ステレオも)には、"Well, well, well..." のところにマラカスが入っている。
②-b Dr. Robert(その2)
この曲のUSモノラルには、曲の終りのフェードアウト後にジョンのつぶやき声("OK Herb"または"OK Fab")が入っている。
この盤に収録されている擬似ステレオ(USモノラルを擬似ステレオ化したもの)には、ジョンのつぶやき声が入っていない。
③ We Can Work It Out
この曲のUSステレオはUSキャピトル独特のものとなっている。
UKステレオ(「オールディーズ」などに収録)では、終始音が左右に振り分けられており、真ん中に音は無い(いわゆる泣き別れミックス)。ハーモニウムは右側にのみ入っている。
USステレオでは、基本的にはUK同様に音が左右に振り分けられているが、"We can work it out, we can work it out. Life is very short, and there's no time" のところではハーモニウムが真ん中にも入っている。
④-a Day Tripper(その1)
この曲のUSステレオはUSキャピトル独特のものとなっている。
UKステレオ(「オールディーズ」などに収録)では、イントロのギターリフが最初から左右両方に入っている。
USステレオでは、イントロのギターリフが最初は左のみで右には入っていない(2回目のリフからは左右両方に入っている)。
④-b Day Tripper(その2)
エンディングで "Day tripper" と繰り返し歌われるところの1回目の後に、ジョンが間違って "yeah" と声を発しているが、ここでも違いがある。
UKステレオでは、"yeah" を消そうとして音が小さくなっており、"Day tripper ye " といった感じになっている。
USステレオでは、"yeah" を消そうとする処理は行われておらず、"Day tripper yeah" とはっきり聴こえる。
…面白い。
些細な違いなのだが、ミックス違いはやっぱり面白い。
他のミュージシャンでもミックス違いやバージョン違いはあるが、ほとんど気になることは無い。
なのに、ことビートルズとなると、何故にこんなに面白いのだろう…
3. 選曲について
3枚のアルバム「ヘルプ!」「ラバー・ソウル」「リボルバー」およびシングルからの寄せ集め。
"Drive My Car" の次は "Norwegian Wood" かと思いきや "I'm Only Sleeping"…
"I'm Only Sleeping" の次は "Love You To" かと思いきや "Nowhere Man"...
ここでこの曲が来るか?という違和感の連続だ。
"Dr. Robert" の次が "Yesterday"??
だが、このアルバムは当時のアメリカにおいてはコンピレーション盤では無い。
あくまでもUSキャピトルからリリースされたオリジナル・アルバムなのだ。
当時のアメリカでは違和感無く聴かれていた訳だ。
そう考えると、何とも面白い。
4. 音について
B-SELSのご店主が仰っていた通り、音が良い。
ギラっとしたギターにビシッとしたベースで、音の輪郭がくっきりしている。
アメリカらしい、メリハリの効いた元気な音だ。
擬似ステレオの3曲も、処理が上手かったのか、それほどの違和感も無い(変なエコーも無いし…)。
US盤の音は、良いものもあれば悪いものもある玉石混交なのだが、このアルバムは「当たりの音」と言えよう。
ということで、
・ジャケットで擦った揉んだがあった
・3枚のアルバム&シングルからの寄せ集め
・ミックス違いが数多く収録されている
・メリハリの効いた元気な音
と、あれこれある「イスタデイ・アンド・トゥデイ」ステレオ盤、なかなかに面白い盤だ。
UKオリジナル・アルバムが基本なのは当然だが、こういうのもかなり好きである。
USキャピトル盤、なかなかに面白い。
最後に…
タイトル表記はこの様になっている。
ジャケット表:Yesterday And Today
ジャケット裏とレーベル面:"Yesterday"...And Today
「Yesterday And Today」との表記が一般的だが、実は「"Yesterday"...And Today」が正しい表記なのだろうか?
Yesterday And Today
「昨日のビートルズと今日のビートルズ」「ビートルズの過去と現在」といったニュアンスか…
"Yesterday"...And Today
「"Yesterday”(曲)と今のビートルズ」「"Yesterday”とビートルズの新曲」といったニュアンスになる…
おそらく、ダブルミーニングなのだろう。
USキャピトル盤、なかなかに面白い。
ということで「B-SELSで買ったレコード」シリーズ:シーズン8(8回目の訪問)はこれにて終了。
良い盤にも出会えたし、超常連さんやご店主とのビートルズ談義も楽しい時間でした。
B-SELS参り、また行くべし…
(追記)
B-SELSの日記に紹介されました。
ご店主、ありがとうございます。
B-SELS、また行かねばなるまい…