2024年11月3日、クインシー・ジョーンズがロサンゼルスの自宅で亡くなった。享年91歳。
ジャズ・ミュージシャン、コンポーザー(作曲家)、アレンジャー(編曲家)、プロデューサー…と、彼の活躍の幅はあまりにも広い。
ジャズ、フュージョン、ソウル、R&B、ファンク、ディスコ、ポップ、映画音楽…と、彼の手掛ける音楽も多岐にわたる。
フランク・シナトラ(世紀のエンターテイナー)、レイ・チャールズ(ソウルの神様)、アレサ・フランクリン(ソウルの女王)、マイケル・ジャクソン(ポップの王様)、サラ・ヴォーン(ジャズの女王)、マイルス・デイヴィス(ジャズの帝王)…と、錚々たる人達の作品に関わっている。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」、チャリティー・ソング「ウィー・アー・ザ・ワールド」のプロデューサーを務めたことは超有名な話だが、ブラザーズ・ジョンソンのデビューに携わった、アメリカでは無名だったイヴァン・リンスの曲をいち早く採り上げた…などの功績も多数ある。
そして、自身のリーダーアルバムも多数リリースしている。
そんな中から、今回の「レコード評議会」で採り上げるのは…
Smackwater Jack
UK盤(1971年)
AMLS 63037
SideA:AMLS 63037 A-1*X
SideB:AMLS 63037 B-1*X
SideA
1. Smackwater Jack
Vocal Solo: Quincy Jones
2. Cast Your Fate To The Wind
3. Ironside (Theme From "Ironside"; NBC-TV)
4. What's Going On?
Vocal Solo: Quincy Jones and Valerie Simpson
SideB
1. Theme From "The Anderson Tapes"
(From the Columbia motion Picture "The Anderson Tapes")
2. Brown Ballad
3. Hikky-Burr (Theme From "The Bill Cosby Show"; NBC-TV)
Vocal Solo: Bill Cosby
4. Guitar Blues Odyssey : From Roots To Fruits
Featured Solos
Cast Your Fate To The Wind
Eric Gayle-Guitar
Bobby Scott-Piano
Marvin Stamm-Flugelhorn
Ironside
Jerome Richardson-Soprano Sax
Freddie Hubbard-Flugelhorns
Hubert Laws-Flute
What's Going On?
Hubert Laws-Flute
Freddie Hubbard-Flugelhorn
Toots Thielemans-Guitar, Harmonica & Whistler
Milt Jackson-Vibes
Jim Hall-Guitar
Harry Lookofsky-Violins
(Based on a Harmonica solo by Toots Thielemans)
Theme From "The Anderson Tapes"
Edd Kalehoff-Moog synthesizer
Bobby Scott-Piano
Milt Jackson-Vibes
Freddie Hubbard-Flugelhorn
Toots Thielemans-Harmonica & Guitar
Brown Ballad
Toots Thielemans-Harmonica
Bobby Scott-Piano
Jim Hall-Guitar
Hikky-Burr
Bill Cosby-Vocal
Toots Thielemans-Guitar and Whistler
Freddie Hubbard-Flugelhorn
Eric Gayle-Guitar
Hubert Laws-Flute
Guitar Blues Odyssey : From Roots To Fruits
Eric Gayle-Guitar (1, 4, 7 & 9)
Jim Hall-Guitar (2)
Toots Thielemans-Guitar & Harmonica (3, 5 & 6)
Joe Beck (8)
Produced by Quincy Jones, Ray Brown and Phil Ramone
Recording Engineers: Phil Ramone, assisted by-John Curcio, Tommy Vicari and George Clabin
Recorded at A&R Studios, New YorkCity
All selections arranged and conducted by Quincy Jones except "The Anderson Tapes" which was arranged by Quincy Jones and Marty Paich
Creative Direction by Roland Young
Album Concept and Design by Craig Braun, Inc. Jackets Mf'd by Sound Packaging Corp.
Photography by Jim McCrary
Woods
Jerome Richardson-Soprano Sax & Tenor Sax
Hubert Laws-Flutes & Tenor Sax
Peter Christlieb-Tenor Sax
Trumpets and Flugelhorns
Ernest Royal
Eugene Young
Marvin Stamm
Joe Newman
Buddy Childers
Trombones
Wayne Andre-Tenor
Garnett Brown-Tenor
Dick Hixon-Bass
Alan Raph-Bass
Tony Studd-Bass
Guitars
Toots Thielemans-Harmonica & Guitar
Eric Gayle
Joe Beck
Arthur Adams
Freddie Robinson
Drums & Percusion
Grady Tate-Drums
Paul Humphries-Drums
Larry Bunker-Percusion
George Devens-Percusion
Keyboards
Bobby Scott-Piano
Jaki Byard-Fender Piano
Monty Alexander-Tack Piano
Joe Sample-Fender Piano
Jimmy Smith-Organ
Dick Hyman-Eectric Harpsichord & Piano
Moog synthesizer
Paul Beaver
Edd Kalehoff
Bass
Ray Brown-Strings
Bob Crenshaw-Strings
Carol Kaye-Fender
Miscellaneous
Milt Jackson-Vibes
Harry Lookofsky-Violins
Vocal Groups For "Smackwater Jack" and "What's Going On"
Valerie Simpson
Maretha Steward
Marilyn Jackson
Barbara Massey
Joshie Armstead
1971年リリースのリーダーアルバム「スマックウォーター・ジャック」(手元にあるのはUS盤では無く、何故かUK盤)。
クインシー・ジョーンズの代表作の一つであり、1972年のグラミー賞で最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス(Best Pop Instrumental Performance)を受賞している。
凄腕ミュージシャンが多数参加している(思わずジャケット裏面にあるクレジットを記載してしまった)。
そして選曲もユニークだ。
A1. Smackwater Jack
キャロル・キングの曲で、1971年アルバム「つづれおり(Tapestry)」の収録曲。
クインシー自身がボーカルを取っている。
原曲とかけ離れた、ソウルを通り越してジャズ・ファンクなアレンジがカッコいい。
特に Chuck Rainy のベースが最高。
A2. Cast Your Fate To The Wind
コミック「ピーナッツ(スヌーピー)」のテレビアニメ版の音楽で有名なヴィンス・ガラルディ(Vince Guaraldi)の曲で、1963年にグラミー賞の最優秀オリジナル・ジャズ作曲賞を受賞している。邦題は"風にまかせて"。
洒落たクロスオーバー・サウンド。
Eric Gayle(Gale)らのソロも粋だ。
A3. Ironside (Theme From "Ironside")
1967年から1975年に放映のテレビドラマ「鬼警部アイアンサイド」のテーマ曲(クインシー作曲)。
いなたい感じがしないでもないが、逆にそれが妙にカッコいいという、絶妙なアレンジ。
Hubert Laws や Freddie Hubbard らによるソロ部分の疾走感も最高。
ちなみに、1975年から1984年の日テレ番組「テレビ三面記事 ウィークエンダー」( 「新聞によりますと…」のところ) でこの曲が使われている。
A4. What's Going On?
マーヴィン・ゲイの1971年大ヒット曲。
クインシー自身がボーカルを取っている。
原曲に近いソウルなアレンジかと思っていたら、いつの間にかクロスオーバー・サウンドになっている。原曲を素材に新しい曲を作ったかのようだ。
Hubert Laws、Freddie Hubbard、Toots Thielemans(口笛も)、Milt Jackson、Jim Hall らによるソロも最高。
B1. Theme From "The Anderson Tapes"
1971年映画「ショーン・コネリー / 盗聴作戦」のテーマ曲(クインシー作曲)。
クロスオーバーなジャズ・ファンクといった感じがカッコいい。
Milt Jackson、Freddie Hubbard、Toots Thielemans らによるソロも良いが、Chuck Rainy のベースが最高。
B2. Brown Ballad
Ray Brown の作曲。
純ジャズのベーシストの作った曲だけに、アルバム中最もジャズ寄りではあるが、Toots Thielemans のハーモニカを活かしたアレンジがメロウな雰囲気。
短いながらも Jim Hall のソロが粋で、良いアクセントになっている。
B3. Hikky-Burr (Theme From "The Bill Cosby Show")
1969年から1971年に放映のテレビドラマ「ビル・コスビー・ショー」のテーマ曲(クインシー作曲)。
ビル・コスビー(コメディアン)自身がボーカル(?)と言うより、掛け声を入れている。
Toots Thielemans(口笛)、Freddie Hubbard、Eric Gayle(Gale)、Hubert Laws らのソロも良いが、粘っこくもファンキーなリズム隊に耳が行く。
ドラムは Paul Humphries(Humphrey)、ベースは Carol Kaye だろうか?
B4. Guitar Blues Odyssey : From Roots To Fruits
Eric Gayle(Gale)、Jim Hall、Toots Thielemans、Joe Beck による様々なブルース・スタイルのギターが入れ替わり立ち替わり展開する曲(クインシー作曲)。
アルバムを渋く締め括っている。
バラエティに富んでいながらもサウンド・カラーに統一感がある。
キャロル・キング(Smackwater Jack)やマーヴィン・ゲイ(What's Going On)といった1971年の同時代の曲を採り入れながらも、自分のカラーに染め上げている。
そして、個性の強い凄腕ミュージシャン達を曲に合わせて使いこなしている。
Bob James、Jaki Byard、Joe Sample、Jimmy Smith といった錚々たるミュージシャンをバッキングのみ(ソロ無し)で使うとは驚きだ。
マイルス・デイビスは、クインシー・ジョーンズをこう評したそうだ。
「クインシーは曲を取り上げて、それを元の形より良くする方法を知っている」
「新聞配達のなかには、どの家の庭に入っても犬に噛まれない少年がいる。クインシーがそれだ」
クインシー・ジョーンズ、正に「才人」と呼ぶに相応しい人だった。
最後にこんなことを思った。
ジャケット裏面には、このレコードに関わったミュージシャンやエンジニアの名前が全てクレジットされている。
この時代、レコーディングに参加しながらもクレジットされないミュージシャンやエンジニアは多かった。
だが、プロデューサーのクインシーは全ての人達をクレジットした。
そのおかげで、より名前が知れて活躍の場が拡がったミュージシャンもいたことだろう。
クインシー・ジョーンズ、そんな意味でも音楽業界の発展に貢献した人だった。