今回の「レコード評議会」は前回からの「B-SELSで買ったレコード」シリーズの続きです。
「ラバー・ソウル」ステレオのデンマーク盤を購入することにした後、さてどうしようとレコード棚を改めて眺める。
すると、棚の一番手前に並んでいるため、否応無く目に入ってくる盤があった。
これを聴いたら買ってしまうだろうな…と思いながらも抗うことができず、1枚の盤を手に取る。
私「これって、つい最近日記に出ていた盤ですよね」
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
ドイツ盤(1967年)ステレオ
Odeon / HÖR ZU
SHZE 401
SideA:SHZE-401-A-1
SideB:SHZE-401-B-2
「サージェント・ペパー」ステレオのゴールド・オデオンと呼ばれるドイツ盤。
11月30日の日記で紹介されていたものだ。
『SGT.PEPPER’S~』 ドイツ・ステレオ初盤 大変音の良い盤 ドイツ・オリジナルのインナーとカットアウト付き完品!!!!!
ご店主の手によるポップにはこうある。
ドイツ初盤 音良し‼︎ 完品
B面 2nd.
2nd.の方が「インナーグルーヴ」が入っていてお得!
ドイツ製カットアウト付き完品!! 完品はレアです
オススメ!
ご店主「ドイツ盤のB面マト1は"インナーグルーヴ"が入っていないんですが、この盤はマト2で"インナーグルーヴ"が入っています」
私「何でそんなことになったのでしょうかね?」
ご店主「おそらくですけど、ドイツでは"インナーグルーヴ"をどのように入れたら良いのか最初は分からなかったんでしょう。だからマト1では収録されなかった」
私「ふむふむ」
ご店主「その後、イギリスで発売されたUK盤を聴いたドイツのエンジニアが『そうか、こういった様に入れるのか』と分かって、マト2で"インナーグルーヴ"を入れた、ということだと思うんですよね」
私「なるほど〜、なるほどですね」
ご店主「個人的には"インナーグルーヴ"に入っているB面マト2の方がオススメです」
"インナーグルーヴ"とは、セッション中では"Edit for LP End"と呼ばれ、 1980年発売のアメリカ編集盤「レアリティーズ Vol.2」では"Sgt. Pepper Inner Groove"とのタイトルが付けられたトラックのこと。
B-SELSに行く様な方には説明不要でしょうから、詳しくは説明しません。
ご店主「では、聴いてください」
私「よろしくお願いします」
ご店主が A面に針を降ろす。その瞬間思った。
「あぁ、これは良い音だ!」
ご店主の方を向くと、こくりとうなずく。
以前にご店主がこんなことを仰っていたことがある。
「針を降ろした瞬間、曲が始まる前にも関わらず、これは良い音だと分かることがある」と。
この盤はそれだった。
曲が始まる前から「これは良い音だ」と分かった。
そして聴き進めていくと、それは確信に変わった。
A1. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
コンサートホールで、演奏が始まるのを待ちながらざわめく観客。曲が始まるとベースを弾きながら歌うポールを中心としたビートルズの4人とホーンセクション(もしくはペパー軍曹の楽団)。演奏に熱狂する観客。そんな姿や情景が目の前にある。
A2. With A Little Help From My Friends
同じくコンサートホールで、口を大きく開けながら歌うリンゴ(もしくはビリー・シアーズ)の姿が見える。ポールの跳ねる様に歌うベースも素晴らしい。
A3. Lucy In The Sky With Diamonds
場所は変わってEMIスタジオ(アビーロード・スタジオ)。マイクを前に歌うジョン。その隣りでピック弾きでベースを弾くポール。サビの部分ではジョンとポールが一つのマイクに顔を寄せて歌う姿が見える。
A4. Getting Better
ギターの鋭いカッティングが素晴らしい。ハンドクラップをする手が見える。
A5. Fixing A Hole
少し変わったエフェクトが掛かったギターのサウンドに引き込まれる。
A6. She's Leaving Home
淡々と歌うポールとジョン。そのバックで朗々と奏でられるストリングス、その響きが美しい。あまりの美しさに、"She's leaving home, Bye-bye"という歌詞も相まって涙が出てくる…
A7. Being For The Benefit Of Mr. Kite
サーカス会場であるテントの中にいると思っていたら、サウンド・エフェクトのキラキラした音に、いつの間にか万華鏡の中の世界に引き込まれる。
B1. Within You Without You
ジョージを中心にして、その周りを各種インド楽器の演奏者が取り囲む絵が浮かぶ。音が素晴らしく良く、この曲の真価を知った。こんなに素晴らしい曲だったのか、と。
B2. When I'm Sixty-Four
クラリネットの響きがとても綺麗。木管楽器ならではの豊かな響きが気持ち良い。
B3. Lovely Rita
ポールのよく跳ねるベースが素晴らしい。リンゴのシンプルながら躍動感のあるドラムも素晴らしい。
B4. Good Morning Good Morning
コンプレッサーが掛かった分厚いホーンセクションに、ポールの切れ味鋭いギターソロが凄い。そして次々と現れる動物達。
B5. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)
コンサートホールで、観客に手を振りつつ歌い演奏する4人の姿が見える。短い演奏ながらライヴ・バンドとしてのパワーが伝わってくる。
B6. A Day In The Life
全てを持っていってしまうジョンのボーカル。 天才的なリンゴのドラミング。中間部分と最終部分のオーケストラのクレッシェンドでは脳みそが掻き回される。そして一瞬の静寂の後、ファイナル・コード…
..."Never could see any other way, Never could see any other way, Never could see any other way ..."
…素晴らしい。背中がシビれる様な感覚に襲われる。あまりの素晴らしさに茫然としてしまう。
私「…完璧じゃないですか」
ご店主「ええ、良い音ですよね」
私「いやいや凄いですよ、この音!これ以上は望めませんよ!これは凄い。完璧としか言いようがないです」
ご店主「気に入っていただいて何よりです」
私「サージェント・ペパーのステレオではドイツ盤の音が一番良い、高音質だと言われたりもしますけど、この盤はホント完璧です。これは買わないという選択肢はありません。買います!」
ご店主「ありがとうございます!」
私「この値段では安いんじゃないですか?もっとしても良いと思いますよ」
ご店主「あはは、ありがとうございます。"A Day In The Life"の最後ジャーンの残響のところで少しクリック音がしますのでね。これさえ無ければ、もっと良かったんですけど」
私「そうですか?言われればそうかも知れませんが、ほとんど気にならないですよ。完璧です」
ご店主「そう言ってもらえると、良かったです」
私「こちらもとても良い盤に巡り会えて感謝です」
私「ところで、このアルバムって最初からずっとポールが目立っているアルバムですけど、最後の最後に"A Day In The Life"でジョンが全て持っていきましたね」
ご店主「"Strawberry Fields Forever"はありますけど、 この頃のジョンは曲のネタに困っていた様で、ちょっとスランプ気味でした。でもこの曲"A Day In The Life"は素晴らしいですね」
私「ジョンのボーカルが入ってきたところで、全てを持っていきましたよ」
ご店主「ほんと、さすがジョンですね」
ご店主「そうそう、このドイツ盤は付録のカットアウトもインナースリーヴも揃っている完品です。ドイツ盤で完品はなかなかありません」
私「そう言えば、このインナースリーヴってUK盤とは違うんですね」
ご店主「そうなんですよ。UK盤はザ・フール(The Fool)によるサイケなデザインなんですけど、ドイツ盤はこれがオリジナルなんです」
私「なるほど〜、そうなんですね」
ご店主「特にこのインナースリーヴが無くなっていることが殆どなんです。これが揃っているのは凄く珍しいんですよ」
私「へぇ〜、そうなんですね!」
カットアウトとはこれのこと。
ドイツ盤のインナースリーヴとはこれのこと。サーカスっぽい。
なお、ザ・フール(The Fool)によるサイケなデザインのUK盤のインナースリーヴについては、B-SELSに行く様な方には説明不要でしょうから、詳しくは説明しません。
「サージェント・ペパー」は20世紀ポピュラー音楽の最高傑作と呼ばれている。
一方で、個々の曲では弱い、他のアルバムに比べると良い曲が少ない、と言われることがある。
"Strawberry Fields Forever"と"Penny Lane"をシングルとはせずに、アルバムに入れていたらもっと良かったはず、という意見もある。
だが、この素晴らしい音で聴いたからこそ分かった。
「サージェント・ペパー」は、アルバムとして完璧なかたちで完結している。アート、芸術作品として完璧なかたちでここにある、と。
B-SELSでの時間、至福のひとときでした。
ご店主、ありがとうございました。
以前にB-SELSはビートルズ・ファンにとってのパラダイス、ワンダーランドだと書いた。
一方で、魔窟だとも書いた。
今ではこう思っている。
桃源郷だ、と。
ただ、魔窟であろうと、桃源郷であろうと、入り込んだら最後、もう抜けられないのには変わり無い…
(追記)
B-SELSの日記で紹介されました。
ご店主、ありがとうございます!