今回の「レコード評議会」も前々回からの「B-SELSで買ったレコード」シリーズの続き。3回にわたるシーズン9の最後となります。
アルバム2枚の購入を決め、シングル盤の棚を掘る。
いつもながらの圧巻の品揃えなのだが、イタリア盤が大量に出品されていた。
そう言えば「イタリア盤多数出品!!!!!!!」と日記にあったな、と思いながら見ていると、こんな盤が置いてある。
ポップにはこうある。
Rare!Italy Orig. 1967
独自マト
イタリア独自ジャケ!(レア)
Strawberry Fields Forever / Penny Lane
イタリア盤(1967年)モノラル
Parlophon
QMSP 16404
7XCE-18415-T1 - 14-2-67
7XCE-18416-T1 - 14-2-67
ストロベリーのイタリア盤。独自ジャケ。
私「イタリア盤、大量に出品されていますね。こんな盤もあるし」
ご店主「おぉ、ストロベリーのイタリア盤ですね」
私「以前にこちらで買ったイタリア盤(UK仕様ジャケ)とは違って独自ジャケですね」
ご店主「独自カットでマトは同じですが、ジャケ違いです」
左:以前に買ったUK仕様ジャケのイタリア盤
右:今回の独自ジャケのイタリア盤
私「マトにある"14-2-67"はカッティングした日なんですよね」
ご店主「そうそう、1967年2月14日にカッティングしたということですね」
ご店主「聴かれますか?」
私「お願いします」
ストロベリーはやっぱり良い。
そしてイタリア盤、やっぱり独特な響きがする。
以前の記事でイタリア盤についてこんなことを書いたが、やっぱりそうだよな、と。
チェロの弦が響く音に明らかに厚みがあって、何となくイタリアン・プログレ(P.F.M.辺り)を彷彿とさせる。
そう思って聴くと、この曲、サイケでもあるけど、プログレにも聴こえてくる。
私「やっぱり良いですね、イタリア盤。ストロベリーですし、買います!」
ご店主「ありがとうございます!」
私「ところで、UK仕様ジャケと独自ジャケ、リリースされたのはどちらが先だったんでしょうね?」
ご店主「はっきりとは分からないんですが、個人的には独自ジャケの方が先ではないか、と思っています」
確かにご店主が仰る通り、そんな気がする。
ということで、私が持っているストロベリーのシングル盤について、こんな感じだったのではないか、と想像してみた…
当時シングル盤のリリースに際して、イギリス本国ではレコード会社共通のカンパニースリーヴが使われるのが通常だった。
一方、アメリカを始め各国ではそれぞれ独自のピクチャースリーヴ(過去のビートルズの写真を使ったものが多い)を作っていた。
ところが、このストロベリーではイギリス本国でオリジナルのピクチャースリーヴが作られた。しかもビートルズの4人の容貌はかなり変わっていた。裏面も凝ったデザインだった。
このピクチャースリーヴのデザインはイギリスから各国へテープ(またはメタルマザー)と一緒に送られた。
そこで各国はそれぞれの対応を行うこととなった。
以降、この様に表記する。
UKオリジナルのピクチャースリーヴ:UKジャケ
UKデザインのピクチャースリーヴ:UK仕様ジャケ
独自デザインのピクチャースリーヴ:独自ジャケ
アメリカ盤
レーベル:Capitol
リリース日:1967年2月13日
UK仕様ジャケを作成し、リリースした。
イギリスの2月17日より早いリリースにも関わらず、Capitolの威信にかけて突貫で対応した。
ちなみに、裏面のレーベルマークは当然にCapitolとなっている。
オーストラリア盤
レーベル:Parlophone
リリース日:1967年3月16日
UK仕様ジャケを作成し、リリースした。
その代わり、イギリスの2月17日より1ヶ月遅いリリースとなった。
オランダ盤
レーベル:Parlophone
リリース日:1967年2月(詳細日付不明)
UKジャケをイギリスから輸入し、リリースした。
自国でUK仕様ジャケを作成するには時間が無いとして、最初は輸入することで対応した。
その後暫くして UK仕様ジャケが出来上がったため、輸入モノのUKジャケが在庫切れとなったところで、切り替えた。
(オランダ盤のUK仕様ジャケは持っていないが、Discogsを見るとその存在が確認出来る。)
レーベル:Parlophone
リリース日:1967年2月(詳細日付不明)
UKジャケをイギリスから輸入し、リリースした。
そもそも最初から輸入で対応するつもりだった。
しかし、想定以上の売れ行きで暫くして在庫切れとなったため、独自ジャケを作成し、切り替えた。
独自ジャケとした理由は、①コストが安かったため、②曲名の場所を示した地図というデザインが良かったため。
日本盤
レーベル:Odeon
リリース日:1967年3月15日
独自ジャケを作成し、リリースした。
独自ジャケとした理由は、①裏面に歌詞を掲載したかったため、②表面にいちご🍓を入れたデザインにしたかったため。
スペイン盤
レーベル:Odeon
リリース日:1967年2〜3月(詳細日付不明)
独自ジャケを作成し、リリースした。
独自ジャケとした理由は、①コストが安かったため、②シングル盤の袋に重要性を感じていなかったため。
ドイツ盤
レーベル:Odeon
リリース日:1967年2月(詳細日付不明)
独自ジャケを作成し、と言うよりも過去のシングル盤のデザインを流用し、リリースした。
独自ジャケとした理由は、①コストが安かったため、②シングル盤の袋に重要性を感じていなかったため。
デザインを流用した過去のシングル盤はこれ…
以上、もっともらしく書いたが、あくまでも想像である。
さて、それではイタリア盤はどんな感じだったのか…
イタリア盤
レーベル:Parlophon(Parlophone)
リリース日:1967年2月(詳細日付不明)
独自ジャケを作成し、リリースした。
独自ジャケとした理由は、若者向けのラジオ音楽番組「Bandiera gialla」とタイアップしたため。
一方で、UK仕様ジャケの作成にも着手し、途中から切り替えた。
簡単に書くと、こんな感じだったのではなかろうかと思うのだが、少し詳しく見てみると…
ラジオ音楽番組「Bandiera Gialla」との件についてだが、独自ジャケの表面左側には「Bandiera Gialla」と書かれた黄色い旗が描いてある。
イタリア語で、bandieraは旗、giallaは黄色なので「黄色い旗」とそのまんまなのだが、これは「(船舶が伝染病に汚染したことを示す)黄旗」を意味する言葉とのこと。
で、「Bandiera Gialla」をChatGPTやネットで調べてみると、こんなことが書いてある。
イタリア国営放送のラジオ番組で、1965年10月16日から1970年5月9日に放送された。
若者向けの音楽番組で、新しい音楽の到来に伝染病の蔓延をなぞらえ、番組タイトルは「Bandiera Gialla」とされた。
番組内容は、毎回12曲が紹介され、その中から40人のティーンエイジャーが最優秀曲を選ぶというもの。 ちなみに最優秀曲はDisco giallo(黄色いレコード)と呼ばれた。
ビートルズやストーンズなど海外ミュージシャンの曲が取り上げられ、ロックやポップスの普及に貢献した。
イタリアでは大人気のラジオ番組で、その影響から1960年代後半には「Bandiera Gialla」という名のディスコも出来た。
ということからすると、このイタリア盤の独自ジャケは "ラジオ音楽番組「Bandiera Gialla」に紹介される(紹介された)レコードですよ" というプロモーションになっている訳だ。
となると、そのプロモーションという性質から「独自ジャケの方がUK仕様ジャケよりも先にリリースされた」と見る方が自然だ。
そして、ひとしきり独自ジャケで売り出した後、UK仕様ジャケに切り替えた、という訳だ。
うむ、間違い無く、そうだろう。
ところで、イタリア盤はParlophon(Parlophone:パーロフォン)のロゴがUK盤と違っている。独自ロゴなのだ。
左:UK盤のレーベル面
右:イタリア盤のレーベル面
左:UK盤のジャケ裏面
右:UK仕様ジャケのイタリア盤のジャケ裏面
このイタリア盤も以前にB-SELSで買ったもの。
なお、独自ロゴに差し替えする際に上下も直している。
何故にこんなことになったのか…
そう思って、Parlophoneのロゴ" ₤ "をネットで調べてみると、こんなことが書いてあった。
ParlophoneはドイツのCarl Lindström Companyによって1896年に設立された"Parlophon"が起源であり、レーベルのロゴ" ₤ "はLindströmを表すブラックレター(ゴシック文字)の" L "のこと。
イギリス・ポンド" £ "やイタリア・リラ" ₤ "に似ているのは偶然。
イタリア・リラ(今はユーロに統合されている)の記号" ₤ "とParlophoneのロゴ" ₤ "、似ていると言うか、全く同じだ。
ポンド " £ "は横棒が1本だが、リラとParlophoneの" ₤ "は横棒2本で全く同じだ。
日本に置き換えると、ビートルズのレコードに"¥"が書かれている様なもの。それは如何なものか、ということで、イタリアでは" L "を活かしつつ独自ロゴにしたという訳だ。
以上、もっともらしく書いたが、あくまでも想像である。
ということで、独自ジャケの盤、UK仕様ジャケの盤、その両方ともB-SELSで買ったレコードなのだが、あれこれとネタ満載のイタリア盤なのであった。
…が、話はここで終わらない。
以前の「B-SELSで買ったレコード」シリーズで書いたが(この記事)、UK仕様ジャケの盤のカタログ・ナンバー…
"Strawberry..."の面は QMSP 16404 (左)。
"Penny Lane"の面は QMPS 16404 (右)。
QMSPが正しく、QMPSはエラー表記だ。
エラー表記のある盤は、正しい表記に修正されるのが通常だ。
ということは、エラー表記のある盤の方が先にリリースされているはずで、つまりは「UK仕様ジャケの方が独自ジャケよりも先にリリースされた」と見る方が自然だ。
ん?となると、ラジオ音楽番組「Bandiera Gialla」の件から「独自ジャケの方がUK仕様ジャケよりも先にリリースされた」とする上記の結論と矛盾する。
どちらなんだろう…
と、あれこれとネタ満載のイタリア盤なのであった。
最後に、手元にあるストロベリーを紹介しておきます。
全部で15枚になりました。
UK盤(マト1/2、マザー・スタンパー2MM/7GDP)
US盤(独自カット、UKデザインピクチャー)
オーストラリア盤(独自カット、UKデザインピクチャー)
イタリア盤(独自カット、UKデザインピクチャー)
イタリア盤(独自カット、独自ピクチャー)
スペイン盤(独自カット、独自ピクチャー)
デンマーク盤(UKマザー、マト2/2、独自ピクチャー)
デンマーク盤(UKマザー、マト2/2、UK輸入ピクチャー)
オランダ盤(独自カット、UK輸入ピクチャー)
ドイツ盤(独自カット、独自ピクチャー)
日本盤(独自カット、独自ピクチャー)
日本盤(1977年再発、ステレオ、独自カット、独自ピクチャー)
フランス盤(EP、独自カット、独自ピクチャー)
ユーゴスラビア盤(EP、独自カット、独自ピクチャー)
メキシコ盤(EP、1979年再発、ステレオ、独自カット、UKピクチャーをアレンジ)
赤字の盤がB-SELSで購入したストロベリーです。
ストロベリー・フィールズよ永遠に
ということで「B-SELSで買ったレコード」シリーズ:シーズン9はこれにて終了。
素晴らしい盤、ご店主とのビートルズ談義、本当に楽しい時間だった。
年の瀬でもあるので、最後に一句。
来年も、必ず行こう、B-SELS
(追記)
B-SELSの日記でほめられました。
大変恐縮です。
ご店主、ありがとうございます!