ここのところ「レコード評議会」はスティーリー・ダンが続いている。
で、「Aja:彩 (エイジャ) 」(1977年)、「Greatest Hits 1972-1978」(1978年)と来れば、次は「Gaucho」だろうということで、記事を書いていたのだが…
ほとんど書き上げたところで、
…誤って消してしまった。
「Gaucho」なだけに、”The Second Arrangement”の様な事態だ。
書き直そうと思ったのだが、どうにも気が乗らない。
なので、別のアルバムについて書こうと気持ちを切り替えることにした。
ということで、この盤もあったので、今回の「レコード評議会」はこれにする…
Katy Lied
US盤(1975年)
ABC Records
ABCD-846
SideA:ABCD-846-A CSM③ KENDUN-B A3 S
SideB:ABCD-846-B-RE-2 KENDUN-A A2 CSM③ S 3






SideA
1. Black Friday
2. Bad Sneakers
3. Rose Darling
4. Daddy Don't Live In That New York City No More
5. Doctor Wu
SideB
1. Everyone's Gone To The Movies
2. Your Gold Teeth II
3. Chain Lightning
4. Any World (That I'm Welcome To)
5. Throw Back The Little Ones
1975年リリースの4thアルバム「Katy Lied:嘘つきケイティ」。
まず、このアルバムのタイトル「Katy Lied」に関するトリビア…
タイトルの邦題は以下の変遷を辿っている。
1975年の初発:嘘つきケイティ
1976年の再発から1980年代末まで:うそつきケティ1990年代以降の再発:うそつきケイティ
タイトルは収録曲"Doctor Wu"の歌詞(Katy lies / You can see it in her eyes)から取られている。
タイトルはジャケットに映っている虫 katydid(キリギリス)と引っ掛けている。
次に、レコーディング・メンバーについて…
Guitars:Denny Dias, Walter Becker, Rick Derringer, Dean Parks, Elliott Randall, Hugh McCracken, Larry Carlton
Piano, Keyboards:Michael Omartian, Donald Fagan, David Paich
Bass:Walter Becker, Chuck Rainey, Wilton Felder
Drums:Jeff Porcaro, Hal Blaine
Percussion, Vibes:Victor Feldman
Vocals:Donald Fagan
Backup Vocals:Michael McDonald, Sherlie Matthews, Carolyn Willis, Myrna Matthews
Horn Arrangement:Jimmie Haskell
Alto Sax:Phil Woods
1974年の「Pretzel Logic」ツアーを最後にバンドはライヴ活動を停止。ほとんどのメンバーが脱退し、バンドと言うよりはドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーのレコーディング・プロジェクトとなる。
スタジオ・レコーディングに専念することになった初めてのアルバムが「Katy Lied」である。
10曲中9曲 ("Any World"以外)でドラムを叩くのはジェフ・ポーカロ (当時20歳) 。ピアノ・キーボードでデヴィッド・ペイチ (当時20歳) も参加している。
なお、この2人が中心となって1976年に結成されたバンドがTOTOである。
バッキング・ボーカルでマイケル・マクドナルド (当時23歳) が参加している。彼にとって初めてのスタジオ・レコーディングである。
なお、このアルバムのレコーディング前にバンドを脱退したジェフ・バクスターは1974年にドゥービー・ブラザーズに加入しているが、彼に誘われてマイケル・マクドナルドも1975年後半に同バンドに加入する。
"Doctor Wu"でのアルトサックス・ソロはジャズ・ミュージシャンのフィル・ウッズである。
彼はビリー・ジョエルの"Just the Way You Are:素顔のままで"でもソロを吹いている。
ピアノ・キーボードの大半はマイケル・オマーティアンが弾いている(フェイゲンはほとんど弾いていない)。
なお、レコーディングに際して、世界三大ピアノと呼ばれるウィーンのベーゼンドルファーをわざわざ購入している。当時の価格で1万3千ドルだったという。
その他、ラリー・カールトン、チャック・レイニー、ウィントン・フェルダー、ヴィクター・フェルドマンなど、腕利きミュージシャンが多数参加している。
そして、レコーディングでのトラブルについて…
2017年発行の書籍「Steey Dan FAQ All That's Left to Know About This Elusive Band:スティーリー・ダン大辞典」にはこの様な記載がある。
問題が発覚したのは、アルバムを全部ミックスし終えたときだ。これまでのドルビー・システムより優れている、と言われて導入した最新dbxノイズリダクション・システムだったのだが、音はレコーディング時よりも明らかに鮮明度に劣り、ぼんやりとしていた。なんどシステムそのものを調整しても改善されず、ベッカーとフェイゲン、ゲイリー・カッツ、ロジャー・ニコルスは東海岸dbx本社まで飛び、説明を求めた。が、一向に理由がわからない。通常の状態に復元するように開発された特別のユニットを渡されたが、それも役には立たなかった。
幸いオリジナルの24トラック・マスターテープが良い状態だったので、古いドルビーのノイズリダクション・システムにかけて、ミックスし直すことも試みた、とデニー・ダイアスは言うが、この点、ベッカーの記憶とは矛盾する。ベッカーはオリジナル・マスターテープ自体、dbxシステムの不具合で大きな影響を受けていた、と記憶している。いずれにせよ、アルバムを破棄する寸前までいっていたことに変わりはない。カッツは、今日に至るまで、このアルバムを聴き直せないと言う。
また、Wikipediaにはこの様な記載がある。
Band leaders Becker and Fagen said they were dissatisfied with the album's sound quality because of an equipment malfunction with the then-new dbx noise reduction system.
The damage was mostly repaired after consulting with the engineers at dbx, but Becker and Fagen still refused to listen to the completed album.
ベッカーとフェイゲンは、当時新しく導入されたdbxノイズ・リダクション・システムの不具合により、アルバムの音質に不満を抱いていた。
dbxのエンジニアと相談の結果、損傷の大部分は修復されたが、それでもベッカーとフェイゲンは完成したアルバムを聴くことを拒んだ。
ドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカー、ゲイリー・カッツ(プロデューサー)、アルバム制作の中心人物の3人ともこのアルバムの音質に不満を持ち、聴くことすら嫌っている…
ということで、このレコードを聴いてみると…
確かに高音域がシャキッとしておらず、音がくすんでいる感じがする。
dbxノイズ・リダクション・システムのせいで、こういう音質になってしまった、ということなのか…
2000年のデジタル・リマスターCDを聴くと、この点が改善されており、正直言ってCDの方がシャキッとした音がする。
うーむ…
曲自体は良い。
強力なシャッフルビートの"Black Friday"は、次のアルバム「The Royal Scam:幻想の摩天楼」の1曲目"Kid Charlemagne:滅びゆく英雄"に通じる硬派な曲だ。
"Bad Sneakers"、"Rose Darling"、"Any World (That I'm Welcome To)"はポップな曲で、特にマイケル・マクドナルドのソウルフルなコーラスが聴きどころ。
一方で、ジャズ・フレイバーを感じさせる曲も多い。
特にジャズ色が濃いのが、"Doctor Wu"と"Your Gold Teeth II"。
"Doctor Wu"ではジャズ・ミュージシャンであるフィル・ウッズがアルトサックス・ソロをとっている(しかも名演)。
"Your Gold Teeth II"のオープニングはフュージョン・タッチのインスト。6/8拍子のリズムに乗ってデニー・ダイアスがジャジーなギター・ソロを展開している(これも名演)。
今までのアルバムと比べて洗練度が高く、良い曲が多いだけに、音質がイマイチなのは本当に惜しい…
ということで、微妙なアルバムなのだが、「実は良い音なのではないか?」と時折取り出しては聴いてしまうアルバムである(で、その度「やっぱりイマイチか…」となる)。
それにしてもこのジャケットデザイン、どういうセンスなんでしょう…