レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

Belonging / Keith Jarrett【ドイツ盤】

スティーリー・ダン絡みということで、前回はウォルター・ベッカードナルド・フェイゲンがプロデュースしたジャズ・アルバムを採り上げた。

 

さあ、今回こそ「Gaucho」だろう、と思ったのだが…

 

その前に「Gaucho」と言えば、これに触れない訳にはいかないだろう。

 

ということで、今回の「レコード評議会」はこれにしようと思う。

 

 

Keith Jarrett

Belonging

ドイツ盤(1974年)

ECM

ECM 1050 ST

SideA:ST-ECM 1050-A

SideB:ST-ECM 1050-B


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SideA

 1. Spiral Dance

 2. Blossom

 3. 'Long As You Know You're Living Yours

SideB

 1. Belonging

 2. The Windup

 3. Solstice

 

Jan Garbarek:Tenor, Soprano Saxes

Keith Jarrett:Piano

Palle Danielsson:Bass

Jon Christensen:Drums

 

Produced by Manfred Eicher

 

 

キース・ジャレットの1974年アルバム「Belonging」。

 

ヤン・ガルバレク(サックス、ノルウェー出身)パレ・ダニエルソン(ベース、スウェーデン出身)ヨン・クリステンセン(ドラム、ノルウェー出身)といった北欧のジャズ・ミュージシャンと組んだ、いわゆるヨーロピアン・カルテットの最初のアルバムである。

 

 

さて、では何故に「Gaucho」と言えば、これに触れない訳にはいかないのか?

 

Wikipediaにはこの様な記載がある。

Following the release of Gaucho in 1980, it was noticed that Gaucho's title track, credited to Donald Fagen and Walter Becker, bore a resemblance to jazz pianist Keith Jarrett's instrumental "'Long As You Know You're Living Yours" from his 1974 album Belonging.

When asked about this during an interview with Musician magazine, Becker replied that he loved the Jarrett composition, while Fagen said "we were heavily influenced by that particular piece of music."

After these comments were published, Jarrett sued for copyright infringement, and Becker and Fagen were legally obliged to add his name to the credits and provide Jarrett with publishing royalties.

1980年アルバム「Gaucho」リリース後、タイトル曲 "Gaucho"はキースジャレットの1974年アルバム「Belonging」に収録の"'Long As You Know You're Living Yours"に似ていると指摘された。

そのことを雑誌のインタビューで問われ、ベッカーは「ジャレットの曲は好きだよ」、フェイゲンは「特定の曲に強く影響を受けているよ」と答えた。

そのコメントが公表されると、ジャレットは著作権侵害で告訴。その結果、彼の名前は作曲者に加えられ、ロイヤリティが支払われることとなった。

 

2017年発行の書籍「Steey Dan FAQ  All That's Left to Know About This Elusive Band:スティーリー・ダン大辞典」にはこの様な記載がある。

1981年、「ミュージシャン・プレイヤー&リスナー」誌のデヴィッド・プレスキンは、"ガウチ(Gaucho)"と「ビロンギング(Belonging)」に収録されたキース・ジャレットの"ロング・アズ・ユー・ノウ・ユーアー・リヴィング・ユアーズ('Long As You Know You're Living Yours)"が酷似している点を指摘した。その際、フェイゲンはこう答えた。「あの曲にはものすごく影響を受けた…だから、そうさ、盗むんだよ。おれたちはロックンロール版"悪徳事業家(Robber Barons)"だ」ジャレットは曲が盗作であるとしてふたりを告訴する。法廷は曲の類似性を認めーインタビューでふたりの発言もありージャレットが勝訴。その後の追加プレスからは、ジャレットの名前が作者クレジットに加えられた

 

要は、"Gaucho"は「Belonging」収録曲である"'Long As You Know You're Living Yours"の盗作だとして、キース・ジャレット著作権侵害で告訴、その結果、作曲者としてクレジットされることになった、と。

 

 

ということで、「Gaucho」と言えば、このアルバムに触れない訳にはいかないのである。

 

 

で、実際に聴いてみると、"Gaucho"と"'Long As You Know You're Living Yours"、確かによく似ている。

メロディなどが全く同じという訳では無いのだが、とにかく雰囲気が酷似している。

 

こういうのを、著作権法上の概念で実質的類似性というらしい。

 

ChatGPTに聞いてみると、この様な回答があった。

 

スティーリー・ダン vs. キース・ジャレット著作権問題


問題になった楽曲

Gaucho (1980)

'Long As You Know You’re Living Yours (1974)


類似点

イントロのピアノフレーズやコード進行が酷似

リズムや雰囲気も似ている

スティーリー・ダンはジャズの影響を強く受けており、特にこの時期はジャズ的な和声や即興的な要素を多く取り入れていました。

しかし、"Gaucho"のイントロ部分がジャレットの楽曲と非常に似ていることが指摘されました

 

キース・ジャレットの反応

当初、ジャレットはこの件について知らされておらず、後に自身の音楽が無許可で使われたことに気づきました。

ャレットはこの類似性について不満を持ち、スティーリー・ダンに対して著作権侵害を主張しました。

 

解決方法

最終的にスティーリー・ダンジャレットに作曲クレジットを与え、ロイヤリティを支払うことで和解しました。

そのため、"Gaucho"の作曲者クレジットにはジャレットの名前が正式に追加されています。

 

ポイント

1. 実質的類似性の典型例

"Gaucho"と"'Long As You Know You’re Living Yours"は、単なる影響を超えて、体的な楽曲構造が似ていると認められた。

このため、スティーリー・ダン側がジャレットに作曲クレジットを提供することで解した。

 

2. ジャズとロックの融合が招いた問題

スティーリー・ダンはジャズの影響を積極的に取り入れていたが、この件は「インスパイア」と「盗用」の境界線が曖昧になった事例とも言える。

 

3. 訴訟には発展せず、和解

裁判にはならず、クレジットの追加とロイヤリティの支払いで決着したため、長期的な法廷闘争にはならなかった。

 

まとめ

"Gaucho"は、"'Long As You Know You’re Living Yours"との実質的類似性が指摘され、結果的にジャレットに作曲クレジットが与えられた

このケースは、著作権問題において、裁判を経ずに和解した成功例の一つとされる。

 

 

という訳で、スティーリー・ダンの「Gaucho」とのいわくがある「Belonging」だが、そんなエピソードの有無に関わらず、素晴らしいアルバムである。

 

キース・ジャレットヨーロピアン・カルテットとしては1978年アルバム「My Song」の方が有名だろうが、この「Belonging」も全く引けを取らないアルバムと言えるだろう。

 

 

個人的に気に入っている曲は…

 

まずは何と言っても、"'Long As You Know You’re Living Yours"。スティーリー・ダンの2人が影響を受けた曲だけあって、このアルバムの中でもハイライト。

ドラムとベースによるやや後乗りのリズムに乗ったピアノのリフがゴスペルっぽくもある。サックスによる節がよく分からないメロディとエスニックなソロ。ジャズ、ゴスペル、ソウル、ワールドミュージックなど、色々な要素が混ざった曲。

 

そして、"Spiral Dance"もアルバムのトップを飾るに相応しい曲。

純粋なジャズと言うよりも、フュージョンと言うか、ジャズ・ロックっぽさも感じる。エレクトリック・サウンドにしたら、 リターン・トゥ・フォーエヴァーになるかも知れない。

 

ついでに、"The Windup"も紹介しておくと、これは初期のパット・メセニー・グループがカバーしていた曲。

軽快な曲で、いつものキース・ジャレットらしく無いところがかえって面白い。

 

 

全体としてはECMならではの叙情的で透明感のある色彩に覆われているが、様々な曲調のものが収録されている「Belonging」。

 

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新たに結成したヨーロピアン・カルテットで、新たな音楽を生み出そうというキース・ジャレットの意欲を感じさせるアルバムである。

 

 

 

(追記)

"'Long As You Know You’re Living Yours"の音源をInstagramに貼ってみたので、聴いてみてください。雰囲気が"Gaucho"に似ています。

https://www.instagram.com/custerdome2/p/DGu7-bTzTeU/