前3回は「B-SELSで買ったレコード」シリーズ:シーズン12だった訳だが、その最終回で「リボルバー」スペイン・モノラル盤を採り上げた。
その流れで、今回の「レコード評議会」はこの2枚を採り上げようと思う。
1枚は…
Revolver
UK盤(1966年)モノラル
Parlophone
PMC 7009
SideA:XEX 605-2 OL 5
SideB:XEX 606-2 MD 5




「リボルバー」のUK・モノラル盤。
A面マト2、B面マト2である。
ジャケットは珍しいとされるErnest J. Day社製。
そして、もう1枚は…
Revolver
デンマーク盤(1966年)モノラル
Parlophone
PMC 7009
SideA:XEX 605-2
SideB:XEX 606-3




UKマザーで、A面マト2、B面マト3である。
こちらのジャケットも珍しいとされるErnest J. Day社製(イギリスから輸入されたもの)。
「リボルバー」UK・モノラル盤のマトリクスについては"Tomorrow Never Knows"の通常とは違うミックスが収録されているB面マト1がよく話題になる。いわゆる回収マトというやつだ。
"Tomorrow Never Knows"について、マーク・ルーイスンによる「ザ・ビートルズ・レコーディング・セッションズ」にはこう書かれている。
1966年4月27日[第3スタジオ]モノ・ミキシング
"Mark Ⅰ"〈"Tomorrow Never Knows"の仮題〉(第3テイクよりリミックス1〜9)
1966年5月16日[第2スタジオ]テープ・コピー
"Mark Ⅰ"〈"Tomorrow Never Knows"の仮題〉(リミックス・モノ8)
これまでに作ったミックスの中で特に出来のいいものを集めてマスター・リールにまとめようという意図から、この日は集中的にオーヴァーダブとミキシングを行う。
1966年6月6日[第3スタジオ]モノ・ミキシング
"Tomorrow Never Knows"(第3テイクよりリミックス10〜12)
"Tomorrow Never Knows"(すでに"Mark Ⅰ"ではない)は、リミックス11が新たに"ベスト"となり、アルバムのマスター・テープ用に切り離される。が、7月14日、LPのカッティングが行われる当日になって、ジョージ・マーティンがジェフ・エメリックに電話連絡し、それを当初の"ベスト"であるリミックス8のテープと切り替えさせた。
つまり、こういうことだったのだろう。
1966年7月14日、"Tomorrow Never Knows"の"ベスト"とされたリミックス11(通常とは違うミックス)を収録したテープがカッティングに回された。これがB面マト1。
やっぱり"ベスト"はリミックス8(通常のミックス)だとして、7月14日にジョージ・マーティンが差し替えを指示、改めてカッティングし直された。これがB面マト2。
8月5日にアルバム・リリース。B面マト2が通常盤として流通した。ところが、ボツのはずのB面マト1も一定枚数プレスされてしまっていたため、図らずも市場に出てしまった(回収しようとしたが出来なかった)。これがレア盤となった。
ということで、B面マト1の由来は上記の通りなのだが、つれてB面マト2についてもその経緯が分かった訳である。
さてここでだ。
B面マト1とB面マト2についてその由来・経緯が分かったのは良いとして、それではB面マト3とは何なのだろう?
そこで「ザ・ビートルズ・レコーディング・セッションズ」、Steve Hoffman Music Forums、Discogs、その他ビートルズ本やネット情報をもとに「リボルバー」UK・モノラル盤のマトリクスを整理してみた。
なお、1980年代初頭(1981年〜1982年)のモノラル再発盤に使用されたA面マト3とB面マト4については、ここでは省略する。
A面マト1
・存在しない(カッティング失敗のため存在しない)
A面マト2
・初回マト、8月5日リリース当初より使用されているマト
・カッティング時期:7月14日
B面マト1
・"Tomorrow Never Knows"のリミックス11を収録の初回マト、ボツのはずだったが図らずも8月5日リリース当初に使用されてしまったマト(回収しようとしたが少量ながら市場に出てしまったもの)
・カッティング時期:7月14日
B面マト2
・"Tomorrow Never Knows"のリミックス8を収録のマト、8月5日リリース当初より使用されているマト
・カッティング時期:7月14日から数日以内
B面マト3
・"Tomorrow Never Knows"のリミックス8を収録のマト、8月5日リリース当初より使用されているマト?、それとももっと後?
・カッティング時期:B面マト2と同時期(7月14日から数日以内)?、それとももっと後?
ということで、B面マト3については、いつから使用されているのか、いつカッティングされたのか、はっきりとしていない。
ただ、ヒントはある。
1つ目のヒントはその音。
手元にあるUK盤 B面マト2とUKマザーであるデンマーク盤 B面マト3を聴き比べてみたが、その音の傾向に違いが感じられないのだ。
UK盤はマザー/スタンパーA面5/OL(58番)、B面5/MD(40番) と若い。
デンマーク盤は人口が少ないデンマーク(当時の人口は約500万人と英国の1/10)故にレコードのプレス枚数も少ない。
このため両者とも音の鮮度が高く、王道の音が楽しめるのだが、その音の傾向に違いが感じられない。ほとんど同じに聴こえる。
2つ目のヒントはUKマザーの各国盤。
UKマザーが使われている複数の各国盤で、B面マト2とB面マト3が併存しているのだ(デンマーク盤も手元にあるのはB面マト3だが、B面マト2もある模様)。
このことから、こんな推測が出来るのではないだろうか。
B面マト2とB面マト3は、同じ人により、同じセッティング状況下で、同じ時期にカッティングされたものであり、そしてその両方のUKマザーが各国に送られたのではないか、と。
で、ここからは全くの推測だが、こんなことだったのではないか、と想像を巡らせてみた。
7月14日
"Tomorrow Never Knows"について、ジョージ・マーティンの指示によりリミックス11からリミックス8への差し替えが行われた。
ところが、リミックス11が収録されているテープをもとにハリー・モスが既にカッティングを行っており、これがB面マト1となった。そしてB面マト1はプレス工場に回されてしまった。
B面マト1について回収の指示が出され、プレスは中断となった。だが連絡の遅れから既に一定枚数プレスされ、出荷されてしまった。
7月14日から数日以内
差し替え後のリミックス8が収録されているテープをもとにハリー・モスが改めてカッティングを行い、これがB面マト2となった。
そしてB面のプレスの遅れを取り返すため(※)、同じ日に同じセッティングでもう1枚カッティングを行うこととなり、これがB面マト3となった。
(※)リリース日まで時間が無かったため、2枚のラッカー盤(マト2とマト3)により、急ぎでマザーおよびスタンパーを量産してプレスを行う必要があった。
そしてB面マト2とB面マト3は急ぎでプレス工場に回された。
また、UKマザーを採用する各国へはB面マト2とB面マト3が輸出された。
8月5日
こうして8月5日リリースに際して、少量のB面マト1(レア盤)、大量のB面マト2とB面マト3(通常盤)が混在するかたちで店頭に並ぶこととなった。
どうでしょう?
まぁ、勝手な想像である。
(おまけ情報)
モノラル盤のジャケットを並べた写真である。
上から順番に…
① Ernest J. Day社製(UK盤 B面マト2のもの)
② Ernest J. Day社製(デンマーク盤 B面マト3のもの)
③ Garrod & Lofthouse社製(UK盤 B面マト1のもの)
さてここで「 mono 」の文字を見ていただきたい。
①の「 mono 」だけ、位置がやや左寄りかつ微妙に大きいのである。
まぁ、小ネタである。
(重要情報)
そうそう、B-SELSのHPが引越しとなりました。
今までの「お店のミカタ」がサービス終了になるとのことで「これから日記はどうなる?」と心配していたのだが、新しいHPが無事に開設となり、ひと安心。
B-SELSの日記、これからも楽しませていただこう。
目の毒だけど…
(追記)
B-SELSの日記で本記事をご紹介いただきました。
ご店主、いつもありがとうございます。