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Surf's Up / The Beach Boys【US盤】

2025年6月11日、ブライアン・ウィルソンが82歳の生涯を閉じた。

 

追悼の意を込めてこのアルバムを採り上げる。

 

 

The Beach Boys

Surf's Up

US盤(1971年)

Brother Records / Reprise Records

RS 6453

SideA:RS-6453  31236-1  (Artisan Recorders logo)

SideB:RS-6453  31237-1  1 (Artisan Recorders logo)


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SideA

 1. Don't Go Near The Water

 2. Long Promised Road

 3. Take A Load Off Your Feet

 4. Disney Girls (1957)

 5. Student Demonstration Time

SideB

 1. Feel Flows

 2. Lookin' At Tomorrow (A Welfare Song)

 3. A Day In The Life Of A Tree

 4. 'Til I Die

 5. Surf's Up

 

 

ビーチ・ボーイズの1971年アルバム「サーフズ・アップ」である。

 

 

ビーチ・ボーイズと言えば、以前にこの様な盤を採り上げた。

 

 

アルバム「スマイリー・スマイル (Smiley Smile)」、同アルバム収録のシングル"Heroes And Villains"と"Good Vibrations"。ビーチ・ボーイズの中でも有名な作品だ。

 

その他、アルバム「ペット・サウンズ (Pet Sounds)」、シングル"Surfin' USA"、" I Get Around"、"California Girls"、"Wouldn’t It Be Nice"、"God Only Knows"あたりが有名である。

 

 

一方、この「サーフズ・アップ」だが、さほど有名では無い。ほとんどの方は知らないのではないだろうか?

 

 

ジャケットも陰鬱な雰囲気で、ビーチ・ボーイズというイメージから掛け離れている。

 

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このデザインの元ネタは、ジェームズ・アール・フレイザーによる彫刻「The End of the Trail」。

当初は1915年のパナマ・太平洋万国博覧会(サンフランシスコ万国博覧会)のために制作された石膏彫刻で、後にブロンズ像にもなった有名な彫刻である。

 

1915年博覧会当時の写真(ポストカード)

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左:オクラホマ州 National Cowboy & Western Heritage Museum の石膏原型像

右:ウィスコンシン州 Shaler Memorial Park のブロンズ像(1929年制作)


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疲れ果てたネイティブ・アメリカンアメリカ先住民)の戦士が馬に乗ってうなだれている姿が描かれている。

その疲れの限界に達した姿は、白人の西部開拓による彼らの苦難、文化の衰退・終焉を表しているとされるが、「The End of the Trail(道の終わり)」というタイトルもそれを暗示している。

 

 

そんな「The End of the Trail」がアルバム・ジャケットに描かれている。

1960年代下旬以降のバンドの人気低迷、ブライアン・ウィルソンの精神状態の悪化などを重ね合わせていたのだろうか…

 

 

だがその内容はと言うと、この頃になるとブライアン・ウィルソン以外のメンバーも曲作りを手掛けているが、なかなか悪く無い。

 

特にカール・ウィルソンによる"Feel Flows"は映画「あの頃ペニー・レインと(2000年) のエンドロールにも使われており、名曲度も高い。

中間部におけるチャールス・ロイド(ジャズ・テナーサックス奏者)の自由奔放なフルートもポイントが高い。

 

その中にあってブライアン・ウィルソンが手掛けたB面後半3曲がやはり素晴らしい。

 

教会のパイプオルガンの様な音をバックに人生の虚無感を一本の樹に重ねた"A Day In The Life Of A Tree"。

 

底無しの無力感・絶望感をビーチ・ボーイズならではの美しいコーラスに乗せた"Til I Die"。

 

当時の精神状態は最悪だった様で、それが歌詞にも反映しているが、それでもこの様な素晴らしい曲を作れるというのは、やはりブライアン・ウィルソン天才なのだろう。

 

そして、その天才が最も発揮されたのが"Surf's Up"である。

 

もともとはブライアン・ウィルソンの創造性がピークに達していた時期かつ精神に支障をきたし始めた時期でもある1966年終り頃、ヴァン・ダイク・パークス(作詞)との共作による作品である。

ロック界で最も有名な未発表アルバム・幻のアルバムの一つである「スマイル (Smile)」の中核を成すはずだったが未完成のままお蔵入りとなったもので、この音源を引っ張り出して追加でボーカルを入れるなどして完成させたのが本アルバムの"Surf's Up"だ。

 

"Surf's Up"は「良い波が来てるぜ!」といった意味なので、ビーチ・ボーイズの初期のイメージであるサーフィンをテーマにした陽気でポップな曲かと思いきや、これが全く違う。

 

まず歌詞が超難解。

"A diamond necklace played the pawn:ダイヤのネックレスがポーン(チェスの駒)を演じている"とか、"Columnated ruins domino:円柱状の遺跡(神殿の遺跡)のドミノ"とか、意味不明な歌詞が並んでいる。

 

そして曲調も変わっている。

別々の3つの曲を繋げた組曲の様な構成で、メロディもハーモニーも何とも不思議な雰囲気が漂っている。言葉で説明し難いが、前衛音楽と大衆音楽、アヴァンギャルドとポップ・ミュージックが混ぜこぜとなった様な曲と言ったら良いのだろうか。

ビーチ・ボーイズと知らなければ、ほとんどプログレだ。

 

そんな難解で変わっている曲にも関わらず、素晴らしく美しい曲である。至極の名曲と呼べるものだ。

 

 

ということで、あまり有名とは言えないアルバムではあるが、ブライアン・ウィルソン天才を感じることの出来る隠れ名盤とも言えるのがこの「サーフズ・アップ」なのである。

 

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ブライアン・ウィルソンは、あのポール・マッカートニーがその才能を認め、音楽的に影響を与え合った関係であり、言わばライバルかつ盟友とも言える存在だった。

 

ポールによるブライアンへの追悼コメントでこの記事を締めよう。

 

Brian had that mysterious sense of musical genius that made his songs so achingly special. The notes he heard in his head and passed to us were simple and brilliant at the same time. I loved him, and was privileged to be around his bright shining light for a little while. How we will continue without Brian Wilson, 'God Only Knows'.

Thank you, Brian. - Paul

 

ブライアンには、曲に痛いほどに特別な魅力を与える、神秘的とも言える音楽的才能があった。彼の頭の中で鳴っていた音、そして彼が私たちに伝えてくれた音はシンプルでありながら、同時に華麗なものだった。僕は彼を好きだった。少しの間ながら彼の放つ輝かしい光のそばにいられたことを光栄に思う。ブライアン・ウィルソンを失った後、僕らはどのようにやっていけばいいのだろう。それは“神のみぞ知る : God Only Knows
ありがとう、ブライアン ポール

 

R.I.P.