前回の「レコード評議会」では、ジャパンの1981年アルバム「Tin Drum:錻力の太鼓」を採り上げた。
1982年に解散するジャパンの最後のスタジオ・アルバムである。
となると、この盤を持っている以上は採り上げない訳にはいかない。
Rain Tree Crow
Rain Tree Crow
UK盤(1991年)
Virgin
V2659
SideA:V 2659 A-1U-1-2 D
SideB:V 2659 B-2U-1-1 D






SideA
1. Big Wheels In Shanty Town
2. Every Colour You Are
3. Rain Tree Crow
4. Red Earth (As Summertime Ends)
5. Pocket Full Of Change
Side2
1. Boat's For Burning
2. New Moon At Red Deer Wallow
3. Blackwater
4. A Reassuringly Dull Sunday
5. Blackcrow Hits Shoe Shine City
6. Scratchings On The Bible Belt
7. Cries And Whispers
レイン・トゥリー・クロウのセルフタイトル・アルバム。
ジャケット表面にメンバーが記載されている。
Steve Jansen:スティーヴ・ジャンセン
Richard Barbieri:リチャード・バルビエリ
Mick Karn:ミック・カーン
そう、1982年に解散したジャパンのメンバーなのだ。
当時の日本盤のオビにはこの様に書かれている。
伝説復活!!
新たなる予兆へ向かう4人の旅は
季節の迷路をさまよいながら今を研ぎ澄ましてゆく…
1991年、JAPAN復活!!
つまり、ジャパンのメンバーが9年振りに再結集して制作したアルバムなのだ。
言い換えれば、実質ジャパンの再結成アルバムである。
バンド名については、セールスの観点からジャパンと名乗るようレコード会社より圧力もあったが、デヴィッド・シルヴィアンが拒否。過去との決別および新たなプロジェクトの始動といった意図から、別の名前としてレイン・トゥリー・クロウと名乗ることになったのだと言う。
曲を作りについては、従来のデヴィッド・シルヴィアン主導では無く、メンバー全員の共作。テープを回しっぱなしにして録音した即興演奏を素材としているのだそうだ。
だが結局は、複数枚のアルバム制作やツアーなど長期的な活動を計画していたものの、1982年の解散時と同様にメンバー同士の衝突から、このアルバム1枚で本プロジェクトは終焉を迎える。
といった1枚限りの再結成アルバムなのだが、内容はどうかと言うと…
1991年、リリースと同時にCDを買って聴いた当初は「…よく分からない」といった感じだった。
全曲スローテンポまたはミドルテンポのものが並んでおり、抑揚が無い。
メロディの起伏に乏しく、デヴィッド・シルヴィアンの呟く様な歌い方と相まって掴みどころが無い。
全体の印象がシリアスでダーク、終末感が漂っている。
加えて、ジャパンの特徴だったミック・カーンのうねる様なグルーヴのフレットレス・ベースが聴けない(フレットレス・ベースを弾いていない?)。
「Tin Drum:錻力の太鼓」の様な音を期待していたので「全く違うんだな…」と少々がっかりした。
アルバムチャートは、日本49位、UK24位と売れたアルバムだが、ジャパンの音を期待して買った人は私と同じ様な気持ちになったのではないだろうか。
と、1991年当時はそんな印象のアルバムだったが、最近レコードを手に入れた。ブックオフで中古レコードのコーナーを何の気なしに眺めていたところ、この盤置かれていたのだ。
「レコードで聴いたらどうなんだろう、ここで逃したらもう二度と聴くことは無いだろう」と思い、買った。
ということで、30数年振りにこのアルバムを聴いてみたのだが…
レコードならではの響きからか、抑揚が無いという印象が払拭され、静謐な中にも一つ一つ生きた音が聴こえてくる。
全体的にシリアスでダーク、終末感が漂っているのは変わり無いが、ネガティブな印象では無く、静謐な音空間に身を委ねることが出来る。
ワールド・ミュージック(無国籍風、東南アジア風)、ミニマル・ミュージック、フリージャズ、環境音楽、無調音楽、前衛音楽… といった様々な要素を感じる。
ECMレコード(マンフレート・アイヒャーが創設したドイツのレコード会社)の作品の雰囲気に近い。
これはなかなか良いではないか。
華やかさは無いものの、時代を感じさせない音で、聴き応えのある秀作である。
個別に曲では、シングルにもなった"Blackwater"が素直で分かりやすい。
個人的には、"Big Wheels In Shanty Town"、"New Moon At Red Deer Wallow"、"Blackcrow Hits Shoe Shine City"が良い。
最初に聴いてから30数年、その間様々なジャンルの音楽を聴き漁っていたためか、受け入れる幅が拡がっていたのだろう、ようやくその良さが分かったという訳だ。
それにしても、この音楽は"ロック"なのだろうか?
少なくとも一般的にイメージする"ロック"とは違うだろう。
だが、1991年のリリース以降も定期的にCDで再発され続けている。2019年にはアナログ・レコードでも再発されている。
ジャンルは何であれ、今後も聴き継がれていく音楽に違いない。