前回、前々回とブロウ・モンキーズを採り上げた。
そうなると、このグループを採り上げない訳にはいかない。
「レコード評議会」というブログ名の元ネタとなったとなったこのグループである。
Our Favourite Shop
UK盤(1985年)
Polydor
TSCLP 2
SideA:TSCLP 2 A//1▽420R 1 1 1 1
SideB:TSCLP 2 B//4▽420R 1 1 1 1









SideA
1. Homebreakers
2. All Gone Away
3. Come To Milton Keynes
4. Internationalists
5. A Stones Throw Away
6. The Stand Up Comic's Instructions
7. Boy Who Cried Wolf
SideB
1. A Man Of Great Promise
2. Down In The Seine
3. The Lodgers (Or She Was Only A Shopkeeper's Daughter)
4. Luck
5. With Everything To Lose
6. Our Favourite Shop
7. Walls Come Tumbling Down!
「スタイル評議会:The Style Council」からの「レコード評議会:The Vinyl Council」ということで、そこら辺のことはこちらの記事に書いてある。
ということで、今回採り上げるのは、スタイル・カウンシルが1985年5月にリリースした2ndアルバム「アワ・フェイバリット・ショップ」。
ロック、ポップ、ソウル、ファンク、ラップ、ジャズ、ボッサ… とポール・ウェラーの趣味に適った様々なスタイルを取り入れつつ、趣味の良い洒落たサウンドを聴かせる、正に「スタイル評議会」。
一方で、その洒落たサウンドに乗ってポール・ウェラーが歌うのは労働者の辛さやサッチャー政権(保守党政権)への痛烈な批判だ。
Homebreakers
ミック・タルボット(キーボード) がボーカルをとる沈鬱なR&Bナンバー。タイトルは"家庭を壊す奴ら"。
不況から失業し、ロンドンで仕事を探すために家を出る。兄もそうだった。父は30年間働いた会社を整理解雇された。誰がこの経済政策を考えたんだ。あなた達は何をしてくれるんだ。
不況に喘ぐ家族に対して政府は何もしてくれない…と歌われている。
All Gone Away
軽快なボッサ・ナンバー。タイトルは"全てが消え去ってしまった"。
食料雑貨店(grocer's shop)は「閉店」の看板を掲げている。今取られている経済理論が地域社会や家族を殺してしまった。何も残っていない。全て消え去ってしまった。
サッチャーは自らのことをgrocer's daughter(食料雑貨店の娘)と呼んで労働者層出身であることをアピールしていた。それなのに自身の率いる政府が自分の出身であるgrocer's shop(食料雑貨店)を閉店に追い込んだ…との皮肉が込められている。
Come To Milton Keynes
軽快なポップ・ナンバー。 途中4ビートの部分はスイング・ジャズっぽい。タイトルは"ミルトン・キーンズに来てみて"。
今夜、手首を切ろうかな?この素晴らしい保守党集会が開かれる夜(Conservative night)に。仕事を探しにこの街に来たんだけど、どうにもならなくなったら適当にするよ。民営化計画案についての広告は読んだよ。良いアイデアかもね、どうでも良いけど。
Conservative nightは「普段通りの夜、いつもと変わり無い夜」と「保守党集会が開かれる夜」とのダブルミーニングだろう。絶望的になっている若者が描かれている。
Internationalists
アップテンポのファンク・ナンバー。タイトルは"国際主義者"。
全世界と存在する全てにおいて平等な分け前があるはずだ、その分け前は全人類において多くも少なくもなく平等であるべきだ、そう思うのなら、その認識をしっかりと持って主張しろ。そして宣言しろ、自分は国際主義者だと!
Internationalistは、international socialist(国際社会主義者)、international communist(国際共産主義者)との結び付きが強く、いずれにしても左派文脈で用いられる言葉と言える。ポール・ウェラーの左派思想が明確に表現されている。
The Lodgers (Or She Was Only A Shopkeeper's Daughter)
ポール・ウェラーとディー・C・リーのデュエットによる洗練されたソウルフルなナンバー。タイトルは"同居人"。
人の血を吸うヒルの様な奴ら、搾取する側の奴らにしかこの国に「同居するのための部屋」は用意されていない。だが、そんなところに慣れてしまってはならない。その様な「同居のためのルール」は人として恥ずべきものなのだから。
副題の"She Was Only A Shopkeeper's Daughter"(彼女は小売店主の娘に過ぎない)はサッチャーのことを指している。小売店主の娘という労働者層出身なのに、首相となって、しかも労働党ではなく保守党の首相となって労働者を苦しめている…との皮肉が込められている(この言い回しについてはブロウ・モンキーズの記事をご覧ください)。
With Everything To Lose
スティーブ・ホワイト(ドラム)が作詞を手掛けた、ボッサの様なリズムの軽快なナンバー。タイトルは"全てを失って"。
疑問を口にすればお金を貰えない。それがトーリー(Tory)のやり方だ。真実は21人の死者が横たわる石に刻まれている。数ポンドの節約をしたが故にある家族は全てを失った。
Toryとは保守党の前身であるトーリー党のこと。現在でも保守党のことをToryと呼ぶことがある。労働者層や左派からは、上流階級に媚びるエリート、弱者を切り捨てる冷酷な政治家といったイメージがあるのだと言う。
Walls Come Tumbling Down!
ポール・ウェラーとディー・C・リーの掛け合いによる、モータウンやゴスペルも感じさせる力強いナンバー。タイトルは"壁は崩せる!"
やってみるか、それとも無為な日々を過ごすか。物事は変えられる。壁は崩せるんだ!
わかるか、階級闘争は神話の世界のことじゃない、 現実のことなんだ。ジェリコ(Jericho)の戦いの様に壁は崩せるんだ!
団結が強ければ、政府を倒し、制度も変えられる。 そうだ、この状況を変えるんだ!壁を崩すんだ!
Jerichoとは旧約聖書のヨシュア記に記載されているジェリコ(エリコ)の戦いのことを指している。ヨシュアが約束の地(Promised Land、神がイスラエルの民に与えると約束した土地)であるカナンを手にするべく、ジェリコの砦を攻めた時、ヨシュアの軍がラッパ(角笛)を吹きながら行進すると、城壁は崩れ落ちたという。
この話を黒人霊歌としたものが"ジェリコの戦い(Joshua Fit The Battle Of Jericho)"。歌詞は以下の通りである。
Joshua fit the battle of Jericho
and the walls come tumbling down
以上、サッチャー政権を批判していることが明らかに分かる曲だけでもこれだけある。その他の曲も大半は、現状を憂いたり、皮肉ったりしている。
洒落たサウンドなのに、歌詞は過激で辛辣、直情的で攻撃的。そのギャップが凄い。
音楽雑誌「MOJO」の2006年インタビューでポール・ウェラーはこのアルバムについてこの様に語っている。
I had a total belief in The Style Council. I was obsessed in the early years. I lived and breathed it all. I meant every word, and felt every action. Our Favourite Shop was its culmination.
俺はスタイル・カウンシルでの活動に信念を持っていた。初期の頃は他のことなんて目に入らなかった。それが生きる全てだった。全ての歌詞、全ての行動に魂を込めていた。「アワ・フェイバリット・ショップ」はそれら全てを注ぎ込んだものだった。
このアルバムは1985年6月にリリースされているが、この時期ポール・ウェラーは政治色を強めており、同年11月に左派系の思想を持つミュージシャンで結成されたRed Wedge(レッド・ウェッジ)に中心人物として参加。1987年の総選挙に向けて、打倒サッチャー保守党政権を掲げ、労働党の政策を広めようと活動している。
私個人としては、保守党と労働党、右派と左派、どちらを支持するとかしないとか、考えを持っている訳では無い。
ただ、ポール・ウェラーの批判精神と真っ直ぐな姿勢には共感を覚える。
「私を構成する○枚」 (49枚、25枚、9枚など) というお題があるが、このアルバム「アワ・フェイバリット・ショップ」は真っ先に頭に浮かぶものの一つである。


さて最後にジャケットについて触れておこう。
タイトル「Our Favourite Shop」の通り、お気に入りのものを並べた店、というコンセプトである。

政治的なメッセージなども伺える。
1984年映画「アナザー・カントリー」(1930年代のパブリックスクールを舞台に、同性愛や共産主義に傾倒していくエリート学生達の姿を描いた青春ドラマ)のポスター
子供の頃好きだったもの(?)などもある様だ。
1950〜1960年代に活躍したコメディアン、トニー・ハンコック(Tony Hancock)の写真
ジャズやソウルのアルバムも並んでいる。
ドナルド・バード、ケニー・バレル、オーティス・レディング、カーティス・メイフィールド、アル・グリーン…
そして、ビートルズの大ファンであることが分かる。



左:ジョンの顔
中:ビートルズが表紙の雑誌「RAVE!」、ジョンとポールの写真
右:「A Hard Day's Night」のポスター、リッケンバッカーのギター
(見開き真ん中の軍服風の服もサージェント・ペパーズっぽい)
正に「Our Favourite Shop」である。