レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

The World Won't Listen / The Smiths【UK盤】

これまで

Hatful Of Hollow帽子いっぱいの空虚

Meat Is Murder食肉は殺人である

The Queen Is Dead女王は死んだ

と続けてきたザ・スミスだが、これで最後です。

(持っているレコードがこれで最後です。)

 

ということで、今回の「レコード評議会」は「世界は聞いてくれない」「世界は耳を貸さない」といったタイトルを冠するこのアルバムを議題に採り上げよう。

 

 

The Smiths

The World Won't Listen

UK盤(1987年)

Rough Trade

ROUGH 101

SideA:ROUGH 101 A-1U-1-  TY1

SideB:ROUGH 101 B-1U-1-  TY1


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SideA

 1. Panic

 2. Ask

 3. London

 4. Bigmouth Strikes Again

 5. Shakespeare's Sister

 6. There Is A Light That Never Goes Out

 7. Shoplifters Of The World Unite

 8. The Boy With The Thorn In His Side

SideB

 1. Asleep

 2. Unloveable

 3. Half A Person

 4. Stretch Out And Wait

 5. That Joke Isn't Funny Anymore

 6. Oscillate Wildly

 7. You Just Haven't Earned It Yet, Baby

 8. Rubber Ring

 

 

1987年2月リリースの「The World Won't Listenザ・ワールド・ウォント・リッスン」。

 

 

各曲がどのシングルやアルバムに収録されているのか、整理してみると…

 

 

1985年1月 シングル(A面:"How Soon Is Now?")

"Oscillate Wildly(12inchB面)

 

1985年2月 アルバム「Meat Is Murder」

"That Joke Isn't Funny Anymore"(後に短く編集してシングル・カット、シングル・バージョンを本作に収録)

 

1985年3月 シングル

"Shakespeare's Sister(A面)

"Stretch Out And Wait" (12inchB面)(別ボーカル・バージョンを本作に収録)

 

1985年7月 シングル

"That Joke Isn't Funny Anymore" (A面)(アルバム「Meat Is Murder」収録曲を短く編集してシングル・カット、シングル・バージョンを本作に収録

 

1985年9月 シングル

"The Boy With The Thorn In His Side" (A面) (後にリミックス・バージョンをアルバム「The Queen Is Dead」に収録、シングル・バージョンを本作に収録)

"Asleep" (B面)

"Rubber Ring" (12inchB面)

 

1986年5月 シングル

"Bigmouth Strikes Again" (A面)(アルバム「The Queen Is Dead」からの先行シングル・カット)

"Unloveable(12inchB面)

 

1986年6月 アルバムThe Queen Is Dead」

"There Is A Light That Never Goes Out"(シングルA面として発売の話もあったが、"Bigmouth Strikes Again"を優先し当時シングル発売せず、後に1992年シングル・カット)

"The Boy With The Thorn In His Side"(既発シングルのリミックス・バージョンをアルバム「The Queen Is Dead」に収録)

"Bigmouth Strikes Again"(既発シングルと同一)

 

1986年7月 シングル

"Panic" (A面)

 

1986年10月 シングル

"Ask" (A面)(リミックス・バージョンを本作に収録)

 

1987年1月 シングル

"Shoplifters Of The World Unite(A面)

"Half A Person(B面)

"London(12inchB面)

 

1987年2月 アルバム「The World Won't Listen」

"You Just Haven't Earned It Yet, Baby"(シングルA面候補だったが、最終的に"Shoplifters Of The World Unite"に決定しシングル発売せず、本作に初収録)

 

 

以上から分かる通り、本作は1985年から1987年初頭までの間にイギリスでリリースされたシングルを中心としたコンピレーション・アルバムで、シングルA面7曲、シングルB面7曲、シングル未発売2曲(但しシングル発売の計画があった曲)の計16曲で構成されている。

 

改めて聴いてみると、聴き応えのある曲が並んでいる。特にシングルA面のほとんどが収められているA面の濃さは相当なもの。

 

何の雑誌だったか、どこのネット記事だったか忘れてしまったが、「ザ・スミスの真髄はシングルにある」といったことが書かれているのを見たことがある。

本作A面を聴くと、その様な見解について「確かにそうかも知れない」と思えてくる。

 

 

だが、本作のタイトルは「主要ラジオ局やレコード購入者はザ・スミスというバンドに注目していない」とモリッシーが思っていたことを反映しているのだという。

 

つまりタイトルを意訳すると「誰ひとり、私の声に耳を傾けない」といったところ。

 

これだけ内容の濃いアルバムにも関わらず、この様なタイトルを付けるところがザ・スミスモリッシーたる所以である。

 

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最後に、例の如くデッドワックスの読み解きをしよう。

 

SideA:ROUGH 101 A-1U-1-  TY1

SideB:ROUGH 101 B-1U-1-  TY1

 

… と行きたいところだが、これまでのレコードのデッドワックスには刻まれている"謎なフレーズ"が無い。

 

そこでDiscogsなどで調べてみたのだが、どうやら本作のデッドワックスにはそもそも"謎なフレーズ"が刻まれていないらしい。

 

… どういうことなのだろう?

 

そこでイギリスでリリースされたザ・スミスのシングルやアルバムのデッドワックスをDiscogsなどで一通り調べてみたところ、"謎なフレーズ"の有無は以下の通りであった。

 

シングル

"Hand In Glove"(1983年5月)〜"Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me"(1987年12月):全て有り

 

アルバム

The Smiths(1984年2月)無し

Hatful of Hollow(1984年11月、コンピ盤)有り

Meat Is Murder」(1985年2月)有り

The Queen Is Dead(1986年6月)有り

The World Won't Listen(1987年2月、コンピ盤)無し

Strangeways, Here We Come(1987年9月)有り

Rank (1988年9月、ライヴ盤)有り

 

シングル:全てに"謎なフレーズ"が刻まれている。

アルバム:ほとんどで刻まれているが、「The Smiths(1984年2月)と「The World Won't Listen(1987年2月)には"謎なフレーズ"が刻まれていない。

 

… どういうことなのだろう?

 

以下は勝手な推測である。

 

推測その1

モリッシーはもともと"謎なフレーズ"を刻むのはシングルのみのつもりだった。このため、1stアルバム「The Smiths」には刻まれなかった。

 

ところが、シングルの"謎なフレーズ"がファンの間で話題となってきたため、次作アルバム以降、「Hatful of Hollow」、「Meat Is Murder」、「The Queen Is Dead」と刻まれることとなった。

 

The World Won't Listen」のリリースが決まった。 ところが「これは既発シングルの寄せ集め、自分の声が新しく世に放たれる訳では無い」と、モリッシーは気乗りがしなかった。

 

このためモリッシーは"謎なフレーズ"を考案せず、 その結果「The World Won't Listen」には刻まれなかった。

 

推測その2

モリッシーは、シングルもアルバムも全てに刻むつもりで"謎なフレーズ"を考案した。

 

だが、「The Smiths」と「The World Won't Listen」についてはカッティング・エンジニアへの連絡が遅れ、その結果刻まれなかった。

 

推測その3

カッティング・エンジニアがうっかり刻むのを失念し、そのままプレスされてしまった。

 

 

ということで、ザ・スミスであるにも関わらず、モリッシーの歌詞にも、ジョニー・マーのギターにも触れず、この議題は終わりとする。

 

と思ったが、ザ・スミスもこれで最後なので、少しは触れておこう。

 

 

ジョニー・マーのギターと言えば、クリア・トーンでのアルペジオやカッティングによるセンスの良いリフ。

ザ・スミスの曲のクオリティの高さは、彼の作曲能力・演奏能力に負うところが大きいと思う。

 

私が、特にジョニー・マーの良さが発揮されている曲だと思うものは以下の通りである(あくまでも個人的な見解なので、ご了承ください)

 

"This Charming Man"

"Still Ill"

"William, It Was Really Nothing"

"The Headmaster Ritual"

"Barbarism Begins At Home"

"The Boy With The Thorn In His Side"

"Bigmouth Strikes Again"

"Cemetry Gates"

 

 

モリッシーの歌詞と言えば、文学的、厭世的、孤独、自己憐憫、皮肉、社会批判…

ザ・スミスザ・スミスをたらしめているのは、彼の感性に負うところが大きい、と言うか、それが全てと言って良いと思う。

 

私が、特にモリッシーな表現だと思うものは以下の通りである(あくまでも個人的な見解なので、ご了承ください)

 

"Hand In Glove"

So hand in glove I stake my claim

I’ll fight to the last breath

If they dare touch a hair on your head

I’ll fight to the last breath

The good life is out there somewhere

so stay on my arm, you little charmer

But I know my luck too well

yes, I know my luck too well

and I’ll probably never see you again

 

だから一緒にいよう、僕は自分を貫き通すよ

僕は最後の息が尽きるまで戦うつもりだ

奴らが君の髪に一本でも触れようものなら

僕は最後の息が尽きるまで戦うつもりだ

僕らにとっての良い人生がどこかにあるはずだ

だから愛しい君、それまで僕の側にいてよ

だけど僕は自分の運命をよく知っている

そう、分かっているんだ

おそらく二度と君には会えないだろう

 

7"シングルのピクチャー・スリーヴは、マーガレット・ウォルターズ著「The Nude Male:New Perspective」(1978年)に掲載されている男性ヌード写真(写真家ジム・フレンチによる、ジョージ・オマラがモデルと言わる背面からのヌード写真)を拝借したものである。

なお、"hand in glove"とは"極めて親密な間柄"を指す言葉であるが、この文脈からすると歌詞中の「僕」も「君」も男性である。

 

"Heaven Knows I'm Miserable Now"

In my life

why do I give valuable time

to people who don't care if I live or die

 

僕の人生におけるこの貴重な時間を、僕が生きていようと死んでいようと気にしない様な人々のために何故与えなければならないのだろう

 

7"シングルのデッドワックスには"SMITHS INDEED / ILL FOREVER:実際スミスはずっと病んでいる"と刻まれている。

12"シングルのデッドワックスには"SMITHS PRESUMABLY / FOREVER ILL:おそらくスミスはずっと病んでいる"と刻まれている。

 

"Barbarism Begins At Home"

a crack on the head

is what you get for not asking

and a crack on the head

is what you get for asking

 

許しを請わないからといっては頭を殴る

許しを請うたからといっては頭を殴る

 

タイトルは"野蛮な行為は家庭から始まる"であり、大人の体罰による子供のしつけが描かれている曲である。

 

"Bigmouth Strikes Again"

now I know how Joan of Arc felt

as the flames rose to her roman nose

and her Walkman started to melt

Bigmouth, bigmouth

bigmouth strikes again

and I’ve got no right to take my place

with the Human race

 

火刑に処されるジャンヌ・ダルクがどう感じていたのか、炎が彼女の鷲鼻のところまで上がって来た時、彼女のウォークマン(=耳元)を溶かし始めた時どう感じていたのか、今は分かる

軽口が過ぎた、また余計なことを言ってしまった

僕には人類の仲間に入る権利などもう無い

 

火刑に処されたジャンヌ・ダルクを引き合いに出しているが、彼女の罪状は異端審問の末の「異端の罪」である。但し、その後復権裁判により聖人に列せられている。

なお名前は、元々フランス語で"Jehanne Darc"(Darcは平民の苗字とのこと)だったが、これが"Jeanne d'Arc"と表記される様になり、これが英語に置き換えられて"Joan of Arc"になったということである。

 

"There Is A Light That Never Goes Out"

and if a double-decker bus

crashes into us

to die by your side

such a heavenly way to die

and if a ten ton truck

kills the both of us

to die by your side

the pleasure and the privilege is mine

 

もし二階建てバスが僕らのところに突っ込んで来て、君の隣りで死ねたなら、なんて素敵な死に方だろう

もし10トントラックが僕ら二人とも殺して、君の隣りで死ねたなら、なんて喜びに満ちて光栄なことだろう

 

音楽ライターであるサイモン・ゴダードは2002年の著作「Songs That Saved Your Life – The Art of The Smiths 1982-87」の中で、この曲がシングルとなっていたとしても、自殺をあからさまに美化しているため、1980年代半ばの昼間のラジオ番組では受け入れられなかっただろう、と述べている。

 

"Cemetry Gates"

a dreaded sunny day 

so let's go where we're wanted

and I meet you at the cemetry gates

Keats and Yeats are on your side

but you lose

because Wilde is on mine

 

嫌になるほど天気が良いから、僕らが歓迎されるところに行こう

墓地の入り口で待ち合わせしよう

君にはキーツジョン・キーツとイェイツウィリアム・バトラー・イェイツが付いている

でも君の負けだよ

何故なら僕にはワイルドオスカー・ワイルドが付いているからね

 

"Cemetry Gates"の正しいスペルは "Cemetrey Gates"だが、何故この様なスペルミスをしているのか不明である。

なお、オスカー・ワイルドモリッシーのアイドルである。

 

"Panic"

Burn down the Disco

Hang the blessed DJ

Because the music that they constantly play

IT SAYS NOTHING TO ME ABOUT MY LIFE

Hang the blessed DJ

 

ディスコを焼き払え

能天気なDJを吊せ

いつも奴らが流す音楽は僕の人生とって何の足しにもならない

能天気なDJを吊せ

 

1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所事故に際して、そのニュースの後にワム! の音楽をラジオで流したDJに対する反発から、この曲が作られたとのことである。

 

"Shoplifters Of The World Unite"

Shoplifters of the world

Unite and take over

Shoplifters of the world

Take over

 

万国の万引き犯よ、団結し奪い取れ

万国の万引き犯よ、奪い取れ

 

共産主義に関する有名なスローガン「Workers of the world, unite!:万国の労働者よ、団結せよ! 」を捩ったものである。

 

 

 

初めてザ・スミスを聴いたのは、大学生の頃、一人暮らしをしていた友人の部屋であった。

 

「肉喰うな」のオビに笑いつつ、「女王は死んだ」に「このタイトルはアリなのか」と思ったりした。

 

「君の負けだ、何故なら僕にはオスカー・ワイルドが付いているから」「君の隣りで死ねたなら、なんて素敵な死に方だろう」「ディスコを焼き払え、DJを吊せ」などに「この歌詞はマジなのか」と思ったりした。

 

そして思った。

「これはハマるとヤバいやつだ、近づき過ぎると危険だ」と…

 

この記事を書くにあたって、当時の感覚を思い出した。

 

 

ということで、ザ・スミスはこれにて終わりとする。