前回はライヴ・レポートを兼ねてイヴァン・リンスを採り上げた訳だが、そうなると今回もブラジルものにせざるを得ない。
ということで、今回の「レコード評議会」は…
Djavan
Lilás
ブラジル盤(1984年)
Discos CBS
138262
SideA:XSB2824 SIDE-A 138262 A Precision 1-6-7
SideB:XSB28251 SIDE B 138262-B Precision 1-3-18






SideA
1. Lilás
2. Infinito
3. Esquinas
4. Transe
SideB
1. Obi
2. Miragem
3. Iris
4. Canto Da Lira
5. Liberdade
ジャヴァンの6thアルバム「Lilás:リラス(ライラックの祈り)」。
イヴァン・リンスの音楽は、大括りで言うとMPB(エミ・ペー・ベー、Música Popular Brasileira)となるのだろうが、個人的にはMPBと言えば思い浮かぶのがジャヴァンである。
彼の経歴を簡単に記載すると…
1949年、ブラジル北東部アラゴアス州の首都マセイオに生まれる。
独学でギターを習得、地元でバンド活動を始める。
1973年にリオデジャネイロに移住、ナイトクラブで活動する。
いくつかのフェスティバルに参加する中、1975年に Festival Abertura で2位を受賞する。
これがきっかけとなり、1976年にアロイージオ・ヂ・オリヴェイラ(Aloysio de Oliveira、アントニオ・カルロス・ジョビンなどを手掛けた伝説的プロデューサー)のプロデュースにより1stアルバム「A Voz, O Violão, A Música De Djavan:ジャヴァン」をリリース。
1978年にブラジルEMIより2ndアルバム「Djavan:ジャヴァン登場」をリリース。
このアルバムの収録曲"Álibi"を採り上げたマリア・ベターニアのアルバム「Álibi」が大ヒットしたことをきっかけに注目を浴び、ガル・コスタなどの人気シンガーにも彼の曲が歌われる様になる。
1980年に3rdアルバム「Alumbramento:閃き~アルンブラメント」、1981年に4thアルバム「Seduzir:誘惑~セデュジール」をリリース。
1982年にCBSへ移籍、ロサンゼルスで録音した5thアルバム「Luz:ルース (光)」をリリース。
スティーヴィー・ワンダー他、アメリカの有名ミュージシャンが参加。アメリカ進出を果たす。
1984年、前作と同様にロサンゼルスで録音した6thアルバム「Lilás:リラス (ライラックの祈り)」をリリース。
デイヴィッド・フォスター他、アメリカの有名ミュージシャンが参加。アメリカやヨーロッパでツアーも行い、ワールドワイドでの成功となる。
以降、コンスタントにアルバムをリリース。
またマンハッタン・トランスファー、リー・リトナーが彼の曲を採り上げるなど、ワールドワイドでの評価も益々高まる。
現在76歳、現役で活躍中。
ということで、このアルバム「Lilás:リラス(ライラックの祈り)」について…
まずメンバーだが、アメリカのミュージシャンが中心だ。有名どころとしては、デイヴィッド・フォスター(キーボード)、ポール・ジャクソン Jr.(ギター)、ネイザン・イースト(ベース)、マイク・ポーカロ(ベース)、アーニー・ワッツ(サックス)、パウリーニョ・ダ・コスタ(パーカッション、ブラジル出身だがアメリカで活動) が参加している。
一方、ブラジルのミュージシャンもブラジルEMI時代から一緒に演奏しているルイス・アヴェラール(Luiz Avellar、キーボード)、シザォン・マシャード(Sizão Machado、ベース)、テオ・リマ(Téo Lima、ドラム) が3曲で参加している。
では、どの様なサウンドなのかと言うと…
A1. Lilás:リラス (ライラックの祈り)
ベーシック・トラックはブラジル・ミュージシャン3名によるものだが、テオ・リマのドラムにはゲートリヴァーブが掛けられ、デイヴィッド・フォスターのキラキラしたシンセサイザーやシンセ・ベースなどがオーバーダビングされている。正に80年代といったサウンド。
A2. Infinito:インフィニト (無限)
A3. Esquinas:エスキーナス (街)
AORなスロー・バラード。ジャズ・サックス奏者アーニー・ワッツのテナー・ソロも印象的。
A4. Transe:トランゼ (浮遊)
R&Bタッチのミディアム・ナンバー。
B1. Obi:オビー (コーラ椰子)
ブラジル・ミュージシャン3名が演奏するボサノヴァ・ナンバー。アントニオ・カルロス・ジョビンの様なアレンジのストリングスとピアノのオブリガートが気持ち良い。本アルバム中、最もブラジル感がある。
B2. Miragem:蜃気楼
軽快なシャッフル・ビートのAORなナンバー。
B3. Iris:イリース (虹)
ミドルテンポのR&Bなナンバー。アーニー・ワッツのエモーショナルなアルト・ソロも聴ける。
B4. Canto Da Lira:堅琴の歌
バックの演奏はブラジル・ミュージシャン3名とパウリーニョ・ダ・コスタにブラスが加わったもので、ファンキーとメロウな曲調が入れ替わり展開するブラジリアン・フュージョン風。
B5. Liberdade:リベルタージ (自由)
哀愁漂うAORなナンバー。
全体的に当時流行の「80年代サウンド」である。
キラキラしたシンセサイザーやゲートリバーヴの掛かったバシッバシッと響くドラムが目立っている。
ワールドワイド向けのロサンゼルス録音ということで、この様なサウンドにしたのだろう。
そんな音作りなので、曲調もアメリカンなものが多い。
ボサノヴァ・ナンバーの"Obi"とブラジリアン・フュージョン風の"Canto Da Lira"はブラジルな音だが、その他は当時流行のAORやR&Bを感じさせるものばかりだ。
だが、不思議なことにジャヴァンの歌声が聴こえてくると、それだけでその場が「ブラジル」になる。
サウンドや曲調が何であれ、ジャヴァンの作るメロディと彼の声には「ブラジル」を強く感じる。
小さい頃から耳にしていたであろうサンバやボサノヴァといったブラジルのエキスとも言うべきものが、ジャヴァンの歌声から溢れ出ているのだろう。
「80年代サウンド」なのに「ブラジル」を感じるという、ジャヴァンならではの素晴らしいアルバムである。

最後に、当時の日本盤のオビにはこう書かれている。
リラ色の感情(エモーション)、特別な心の状態。
熱く逞しい野生が支配するコンテンポラリー・サウンド。ブラジル出身のシンガー・ソングライター、ジャヴァン84年最新作。
「リラ色の感情(エモーション)、特別な心の状態」とは、どういう状態なのだろう?
「熱く逞しい野生が支配するコンテンポラリー・サウンド」とは、どういうサウンドなのだろう?
これを見てこのアルバムを聴いた当時の方は、どう感じたのだろう?
分かる様な、分からない様な、何とも言えないコピーである…
が、こういうのは嫌いでは無い。