2025年10月26日、Jack DeJohnette(ジャック・ディジョネット)がニューヨーク州キングストンで心不全のため亡くなった。享年83歳。
ジャズ・ドラマーの巨匠であり、ピアニスト、コンポーザー、バンドリーダーでもある、ジャズ・ジャイアンツの一人だ。
ジャズの帝王Miles Davis(マイルス・デイヴィス)の歴史的名盤「Bitches Brew」(1970) に参加。
Directions、New Directions、 Special Editionといった自身のグループを結成し、バンド・リーダーとして活躍。
ピアニストとしてアルバムもリリース。
Keith Jarrett(キース・ジャレット)のピアノ・トリオ、Standards Trio (1983〜2014) での活動も有名。
スタンダードからコンテンポラリー、先鋭的なものに至るまで幅広いフィールドで活躍したドラマーだった。
今回の「レコード評議会」は、追悼の意を込めて、この一枚を採り上げる。
Parallel Realities
US盤(1990年)
MCA Records
MCA-42313
SideA:MCA 9191-MC1, MC2 TML-M ML1 KM-15687-A + KM+
SideB:MCA 9192 MC-2 KM-15687-B + KM+ TML-M




SideA
1. Jack In(Jack DeJohnette)
2. Exotic Isles(Jack DeJohnette)
3. Dancing(Pat Metheny)
4. Nine Over Reggae(Jack DeJohnette & Pat Metheny)
SideB
1. John McKee(Pat Metheny)
2. Indigo Dreamscapes(Jack DeJohnette)
3. Parallel Realities(Pat Metheny)
Jack DeJohnette、Pat Metheny、Herbie Hancockといったジャズ・フュージョン界の超一流の3人が組んで制作したアルバムである。
緻密なシンバルワーク、多彩なスネアとタム回し、歌っているかの様に表情豊かなドラムのJack DeJohnette。
いつもながらのクリアで透き通る様なギター、宙を舞う様なシンセ・ギターのPat Metheny。
彼ら2人を主役としつつ、美しくリリカルなピアノで曲にアクセントを加えるHerbie Hancock。
本件は音が素晴らしく良く、3人の演奏する音を余すこと無く伝えてくれる。
ジャケット裏面に "Album & CD recorded exclusively with Monster Cable" と書かれているが、音の良さにこだわったことが窺える。
全て聴き応えがあるが、中でもJack DeJohnetteが作曲した"Jack In"と"Indigo Dreamscapes"が楽曲として素晴らしい。
特に"Indigo Dreamscapes"は正に"藍色に染まる夢の風景"といった雰囲気の楽曲で、加えてとても洗練されている。
Jack DeJohnetteのコンポーザーとしての能力の高さが感じられる名曲だ。
そういう意味でも本件は、ドラマーのみならず、総合的なアーティストとしてのJack DeJohnetteが感じられるアルバムと言えよう。

最後に、1990年の自伝で語られているMiles DavisによるJack DeJohnetteに対する評価を紹介しておこう。
The sound of my music was changing as fast as I was changing musicians. I was looking for the combination that could give me the sound. I wanted a drummer to play certain funk rhythms. Tony [Williams] had left to form his own group, Lifetime. So I got Jack DeJohnette, who had been playing with Charles Lloyd. Jack was a great drummer, powerful and creative, and he could play anything—rock, funk, or straight-ahead jazz. He had a real flexible kind of sound and approach, and he listened. I liked that about him.
俺の音楽のサウンドはメンバーを変える度に変わっていった。俺が求めていたのは"その音"をもたらす組合せだった。正にそんなファンク・リズムを叩けるドラマーが欲しかったんだ。トニー・ウィリアムスは自分のバンド、ライフタイムを結成するためにバンドを抜けた。そこで俺はそれまでチャールス・ロイドのもとで叩いていたジャック・ディジョネットを加えた。ジャックはグレイトなドラマーだった。パワフルで、創造的で、ロック、ファンク、ストレート・アヘッドなジャズ、どんな音楽でも叩けた。奴のサウンドとアプローチには本当に柔軟さがあったし、周りの音をよく聴いていた。そんなところを俺は気に入っていた。
Jack helped me get that deep groove going, the kind of loose, circular thing that was happening in the late sixties. He could make a rhythm float without ever losing the bottom, and that’s what I wanted.
ジャックは一種のルーズさをもった"あのディープなグルーヴ"、60年代後半に出てきた渦を巻くようなグルーヴを俺がつかむ手助けをしてくれた。しっかりとした音の土台を失うこと無く、宙に舞うようなリズムを生み出すことが奴には出来た。それは正に俺が求めていたものだった。
Jack DeJohnette was really important in helping me find that groove, that space where the rhythm just opened up. He had that looseness and that power that I needed. When he played, the whole thing just took off.
ジャック・ディジョネットは、俺が求める"あのグルーヴ"、リズムが拡がっていく空間を見つける手助けをしてくれる重要な存在だった。俺が求めていた"あのルーズさ"と"あのパワー"、その両方を奴は持っていた。奴が叩くと全てが一気に飛翔した。