今回の「レコード評議会」は前回の続きということで…
The Mothers
The Grand Wazoo
US盤(1972年)
Bizarre Records / Reprise Records
MS 2093
SideA:TI MS-2093 31450-1-2 A8
SideB:TI MS-2093 31451-1-1






SideA
1. For Calvin (And His Next Two Hitch-Hikers)
2. The Grand Wazoo
SideB
1. Cletus Awreetus-Awrightus
2. Eat That Question
3. Blessed Relief
鬼才 フランク・ザッパ(Frank Zappa)のマザーズ(The Mothers)名義アルバム「グランド・ワズー(The Grand Wazoo)」。
1971年12月10日のロンドンでのライヴで観客にステージから突き落とされて重傷を負い、長期療養生活(車椅子生活)を余儀無くされたザッパが、ライヴが出来ないならスタジオ・ワークを追求すべし、として1972年に制作したのが「ワカ / ジャワカ」と「グランド・ワズー」。
ということで、前回の「ワカ / ジャワカ」に続いて、今回は「グランド・ワズー」を採り上げよう、と。
メンバーは見開きジャケットの内側に写真付きで紹介されている。
フランク・ザッパ (Frank Zappa):ギター
エインズレー・ダンバー (Aynsley Dunbar):ドラム
アレックス・"エローニアス"・ドモホフスキー (Erroneous / Alex Dmochowski):ベース
サル・マルケス (Sal Marquez):トランペット、ボーカル
ジョージ・デューク (George Duke):キーボード(B1,2,3)
ドン・プレストン (Don Preston):キーボード(A1,2)
その他、曲によってボーカル、パーカッション、ギター、木管楽器、金管楽器などが加わる。
核になるミュージシャンは「ワカ・ジャワカ」と同じだが、「グランド・ワズー」の方が人数が多く、ザッパを含めて総勢23人のビッグバンドである。
見開きジャケットの内側には何やら物語が書かれている。
要約してみると…
クレタス・オウリタス・オウライタスの伝説|グランド・ワズー
(The Legend Of Cletus Awreetus-Awrightus|The Grand Wazoo)
秘密研究所の地下室にいるアンクル・ミート(Uncle Meat)は積み上がった本やレコード、新聞の切り抜き、宗教パンフレット、選挙キャンペーン・バッジを前に「よーし、よしよし、全部揃ったぞ、サイコーの作品を作るために必要な全てがここにある!」と興奮していた。
大きな電気スイッチを入れると、火花が飛び散り、天井の電球は点滅し、大きな音が鳴り出した。
しばらくしてからスイッチを切ると、そこにあったはずの本やパンフレットなどは消えていた。
そして外を見ると、古代ローマの様な幻影が出現したのだった。
(ここからは、その幻影の国での日常が描かれている…)
古代ローマの様な幻影の国には、クレタス・オウリタス・オウライタス(Cletus Awreetus-Awrightus)というファンキーな皇帝がいる。そして無職のミュージシャンで構成されたファンタスティックな軍団(=楽団/バンド)が設置されている。
一方、この国にはメディオクラテス・オブ・ペデストリウム(Mediocrates Of Pedestrium)という大悪党が率いる集団が幅を利かせている。こちらにも同様に軍団(=楽団/バンド)が設置されている
両軍は毎週月曜日に戦闘を繰り広げており、その戦績は看板(billboards)やザ・チャート(The Charts)と呼ばれる石板などに掲示される。
さてこの国には、クエスチョンズ(Questions)という音楽を毛嫌いするマゾヒスティックな禁欲主義者による奇怪なカルト集団が存在しており、皇帝クレタスはその対応にも力を入れている。
フェスティバルという名目でクエスチョンズを円形競技場に集め、巨大なメガホン「グランド・ワズー(The Grand Wazoo)」で皇帝クレタスは語りかける。「歌ったり、踊ったり、楽器を演奏したり出来る人はいるかい?」
手を挙げた者は皇帝クレタスの軍団に加えられる。ノリの良い者も仲間に加えられる。
ただ、最後まで音楽を拒否する者に対しては、皇帝クレタスは処分を下す。円形競技場に悪臭を放つ巨大なタンクが置かれ、ファンキーな演奏が始まるとギターが鳴らすハイトーンでそのタンクは破裂。クエスチョンズは煙に飲み込まれる。
クエスチョンズ対策が終わると、皇帝クレタスは通常業務に戻る。
フォーマルな晩餐会も開かれ、皇帝クレタスの右側にはベーシストやドラマーなど演奏に関わる者たち、左側には伝記作家や神官など皇帝が一般的に従える類いの者たちが並ぶ。
そして、晩餐会では毎週必ず決まった時刻に使者が駆け込んできてき息を切らしながら言う。「奴らが来ます!急いでください!包囲されてしまいます!」
皇帝クレタスは直ちに軍団に命令を下す。
• 空軍を担う金管楽器隊 5千人
• 砲兵隊を担うドラム隊 5千人
• 騎兵隊を担うパーカッション隊 5千人
皇帝クレタスは光り輝くミステリー・ホーン(Mystery Horn、実際はサックス)で軍団を率いて戦いに挑む。
一方、大悪党メディオクラテスの軍団はそれを上回る超大編成で攻め立てる。
• タキシード姿の男性ボーカル隊 5千人
• フリンジ付きシャツ姿などの男性ボーカル隊 5千人
• ジーンズ姿でハーモニカを吹く男性ボーカル隊 5千人
• 女性ボーカル隊 5千人
• 性別不詳のダンス・パフォーマンス隊 5千人
• 女性バックアップ・コーラス隊 10万人
ラジオを通じて、甘くて軽快で耳触りの良い歌の集中砲火を浴びせ掛け、市民を惑わして仲間に引き込もうとする。
皇帝クレタスは軍団を率いて街近郊の丘まで行進し、シャッフル・ビートのファンキーな曲を演奏することでこれに対抗する。
何のこっちゃ?といった物語だが、これは当時のザッパを取り巻く状況が描かれたものなのだろう。
つまり読み替えると…
ザッパ(=皇帝クレタス)は経済的に恵まれていないながらも素晴らしいミュージシャンを集めたバンドで音楽活動をしている。
一方で、世の中には耳触りが良いだけの音楽(=大悪党メディオクラテス)が蔓延している。
そのまた一方で、ロックに対して偏見を持つ音楽嫌いの人達(=クエスチョンズ)もいる。
ザッパはそれらに屈すること無く、自分の音楽を演奏し続ける。
で、この物語を描いたものがジャケットになっている。
ザッパのアルバムのデザインを数多く制作したカル・シェンケル(Calvin "Cal" Schenkel)の手によるものである。
ジャケット表は、皇帝クレタス軍団と大悪党メディオクラテス軍団の戦闘シーンを描いたもの。
ミステリー・ホーン(Mystery Horn)と書かれた大きなサックスを吹いているのが皇帝クレタスである。

ジャケット裏は、秘密研究所の地下室にいるアンクル・ミートを描いたもの。
マッド・サイエンティストといった佇まいである。

でもって、この物語のサウンドトラックと言うべきものが本アルバムなのである。
各曲を紹介すると…
A1. For Calvin (And His Next Two Hitch-Hikers)
アルバムのデザインを手掛けたカル・シェンケル(Calvin "Cal" Schenkel)に敬意を払って書かれた曲。
本作中で唯一の歌物なのだが、曲の前半に入っている歌はカル・シェンケルの実体験を描いたもので、物語とは関係が無い。
二人のヒッチハイカーを拾ったカルは、彼らの態度が不気味で恐怖を感じたのだと言う。
Where did they go? When did they come from?
What has become of them now?
彼らはどこへ行ったのか?彼らはいつから来たのか?
彼らは今どうなったのか?
How much was the leakage from the drain in the night?
And who are those dudes in the back seat of Calvin's car?
夜中に排水溝から漏れ出た水の量はどれくらいだったのか?
カルビンの車の後部座席にいる奴らは誰なのか?
Where did they go when they got off the car?
Did they go get a sandwich and eat in the dark?
彼らは車を降りてどこへ行ったのか?
暗闇の中でサンドイッチを買って食べたのか?
現代音楽とフリー・ジャズを混ぜ込ぜにした様な不気味な曲調は、秘密研究所の地下室の雰囲気に通じるものがある。
とにかく不気味な曲。
A2. The Grand Wazoo
皇帝クレタスが巨大メガホン「グランド・ワズー」で声を掛け、音楽嫌いのクエスチョンズを改心させて仲間に加えようとする場面を描いたものか?
それだけで無く、皇帝クレタス軍団がシャッフル・ビートでファンキーな曲を演奏して大悪党メディオクラテス軍団に対抗する場面を描いたものでもあるのだろう。
大編成のブラス隊が活躍するビッグバンド・ジャズ・ロック。
シャッフル・ビートに乗せてテーマが演奏された後、ギター、トロンボーン、トランペット、ムーグ・シンセとソロが展開される。個々は自由度の高いインプロビゼーションによる演奏ながら、全体としては緻密なアレンジによる構成で、13分を超す長尺インストにも関わらず、全く飽きさせない。
ザッパのオーケストレーションの才能が大いに発揮された傑作。
B1. Cletus Awreetus-Awrightus
大悪党メディオクラテス軍団に戦いを挑むべく、皇帝クレタスが軍団を率いて行進して行く場面を描いたものだろう。
ブラスバンドが演奏する行進曲風ナンバー。
ふざけているのか真面目なのか、何とも滑稽なメロディの曲。ザッパと女性ボーカルのコーラスが付いているが、これも可笑しい。
ザッパならではの滑稽で変な曲。
なお、ジャズ・サックス奏者アーニー・ワッツがサックス・ソロを吹いているが、これがミステリー・ホーンの原型とのこと。
B2. Eat That Question
タイトルからすると、悪臭を放つ巨大なタンクが破裂して、音楽を毛嫌いしているクエスチョンズが煙に飲み込まれる場面を描いたものなのだろう。
凄いグルーヴ感のプログレ・ジャズ・ロック。
エインズレー・ダンバーのドラムとアレックス・"エローニアス"・ドモホフスキーのベースが生み出すうねる様なグルーヴ、それに乗って展開されるジョージ・デュークの熱の入ったエレピ・ソロ、そして満を持して突っ込んで来るザッパのギター・ソロ(ここのギター・ソロのところでタンクが破裂する)。
ザッパの中でも、カッコ良さでベスト5に入る曲。
B3. Blessed Relief
Blessed Relief (直訳:祝福された救済、有難い救い) とは、辛く苦しい状況が一段落したり和らいだ時などに、苦難からの解放を神聖な恵みの様なニュアンスで使う口頭表現。せめてもの救い、束の間の安らぎといったニュアンスでも使われる言葉である。
音楽嫌いのクエスチョンズへの対応や大悪党メディオクラテス軍団との戦闘を終えた後、皇帝クレタスが一日の終わりに感じる心の安らぎを描いたものなのだろう。
ゆったりと漂う雰囲気のフュージョンと言うか、クロスオーバー。
ブラスを効果的に使った美しいアレンジ。サル・マルケスのトランペットやジョージ・デュークのエレピも素晴らしい。
最後はまどろみから眠りに落ちるかの様にフェードアウトする。
隠れ名曲。
以上の通り、物語の各場面を描いた音楽なのだが、フリー・ジャズ、ジャズ・ロック、プログレッシブ・ロック、フュージョン、クロスオーバー、現代音楽といった様々な種類の音楽が混ぜ込ぜとなっている。
また個々のミュージシャンによる自由度の高いインプロビゼーションも展開されている。
そう聞くと取り留めの無いアルバムの様に思われるだろうが、不思議なことにアルバム全体として統一感がある。
物語のサウンドトラックといったコンセプト・アルバムという面もあるのだろうが、何よりも総勢23人のビッグバンドを見事なオーケストレーションと統率力でまとめ上げたザッパの手腕によるものと言えるだろう。
オーケストレーションとかアレンジャーと言うと頭に浮かぶのが、クラシック界隈でのモーリス・ラヴェル、ジャズ界隈でのギル・エヴァンス、ラロ・シフリン、クインシー・ジョーンズといったところだが、ザッパも彼らに負けず劣らずと思う。
リリース当時はチャートに入ることが無く、セールス的には今一つだった様だが、優れた楽曲、個々の演奏の素晴らしさ、オーケストレーションの妙、全体の統一感と、ザッパの作品中でも上位に位置する傑作である。


ところで、手元にあるこの盤だが、ジャケット右下とレーベル面にマジックで「Mroz」との書き込みがある。しかもでかでかと…
元の持ち主が自身の名前を書き込んだものなのだろうが、ジャケット裏面に小さく書かれているケースは時折あるものの、ここまで大きな字での書き込みは見たことが無い。
このMroz氏、他のレコードにもでかでかと書き込みをしていたに違いない。
Mroz氏のサインが入ったレコード、世界中に何枚散らばっているのだろう?