ロック界のみならず音楽界の巨人であり、鬼才と言われるフランク・ザッパ。
ザッパ・フリーク(Zappa Freak)とか、ザッパファイル(Zappaphile)といった言葉が存在するほどコアなファン、マニアックなファンがいる一方、名前を聞いたことはあるが、曲を聴いたことは無いという人がほとんどではないだろうか?
そんなザッパであるが、今回の「レコード評議会」は、彼が世間で最も広く聴かれていたであろう時期のこのアルバム。
Zappa
Ship Arriving Too Late To Save A Drowning Witch
US盤(1982年)
Barking Pumpkin Records
FW 38066
SideA:T1 FW-S̶W̶-38066-A T.H. I Dinkum A
SideB:o T1 FW-S̶W̶-38066-B T.H. I Dinkum B






SideA
1. No Not Now
2. Valley Girl
3. I Come From Nowhere
SideB
1. Drowning Witch
2. Envelopes
3. Teen-age Prostitute
フランク・ザッパの1982年アルバム。
当初リリース時の邦題は「フランク・ザッパの○△□(マル サンカク シカク)」。
ジャケットのデザインからこの邦題にしたのだろうが、さすがに無理があるということで、後に直訳したタイトル「たどり着くのが遅すぎて溺れる魔女を救えなかった船」に変更されている。
さてこのアルバムに収録されているのが、ザッパの娘で当時14歳のムーン・ザッパ(Moon Unit Zappa)がボーカルを務める"Valley Girl"。
全米32位とザッパがリリースしたシングルの中で最もヒットした曲である。
なので、ザッパが世間で最も広く聴かれていたであろう時期のアルバムがこれという訳。
アルバムとしても全米23位と健闘している。
メンバーには、相変わらず演奏能力の高い凄腕ミュージシャンが並んでいる(と言うか、楽譜が完璧に読めて、どんな指示にも対応出来る高度な演奏能力を有するミュージシャンでなければザッパのバンド・メンバーは務まらない)。
ドラムのチャド・ワッカーマン(Chad Wackerman)とギターのスティーヴ・ヴァイ(Steve Vai)が有名どころだろう。
特にスティーヴ・ヴァイはザッパが見出したミュージシャンの中でも最も商業的に成功した人物で、アルカトラス、デヴィッド・リー・ロス("Yankee Rose"での喋るギターが有名)、ホワイトスネイクとHR/HM系のバンドに在籍し、ソロでも活躍している。
当初は採譜係としてザッパに雇われたが、ギターの腕前が認められてバンドの一員となり、本作にはImpossible Guitar Parts (演奏不可能なギター・パート担当) とクレジットされている。
ということで、各曲を紹介していこう。
A面の3曲はスタジオ録音、B面の3曲はライヴ録音にオーバーダブや編集を施したものである。
ついでに当初リリース時の邦題も記載しておくが、はっきり言ってやり過ぎである(まあ、嫌いでは無いが…)。
A1. No Not Now
いまは納豆はいらない(パーリー・スペンサーのファンク)
英語タイトルの語感と「今じゃない」という意味を掛け合わせた邦題。歌詞の内容とは関係が無い。後にカタカナ表記に変更となる。
ザッパの低音ボーカルとファンキーなベースラインが中々グッドなポップ・ソング。ザッパとしては分かりやすい部類の曲。
A2. Valley Girl
エーツ、うっそお、ホントー?
ある意味で内容を踏まえた邦題。後にカタカナ表記に変更となる。
Valley Girlとは、ロサンゼルス市街に近いフェルナンド・バレー(San Fernando Valley)に住む1980から1990年代における上流中流階級の若い女性・女子高生のステレオタイプを指す言葉。
そんなValley Girlが使う言葉をValspeakと言うが、こんな感じである。
Like, oh my god!:てか、やば!
Like, totally!:てか、マジで!
Barf me out!:マジで吐くんだけど!
Gag me with a spoon!:サイアク〜、吐く〜!
So gross!:キモ!
So bitchin’!:超イケてる〜!
Awesome!:超サイコー!
I’m sure.:はいはい、そういうことね〜
こんなValspeakをValley Girlに成り切った当時14歳の娘ムーン・ザッパが歌うと言うよりも喋くりまくっているのがこの曲。なので、当時のギャル語を踏まえた邦題(エーツ、うっそお、ホントー?)は、まあそんな感じである。
さすがザッパの娘と思わせるムーン・ザッパのマシンガントーク、ブリブリとしたリード・ベースが凄い。ヒットするのも納得のファンク・ナンバー。
ちなみにザッパはこの曲でValley Girlは中身が無くて救いようが無い(there is no cure)と揶揄しているのだが、ヒットしたことでValley Girlがより拡がってしまったのだと言う。
A3. I Come From Nowhere
ア、いかん、風呂むせて脳わやや
英語タイトルの語感のみで付けられた邦題。歌詞の内容とは全く関係が無い。後にカタカナ表記に変更となる。
80年代のキング・クリムゾン(ディシプリン・クリムゾン)と言われたら、そう思ってしまいそうなプログレ・ナンバー。変拍子も交えながらもスピード感が凄い。
B1. Drowning Witch
フランク・ザッパの○△□(マル サンカク シカク)
アルバム・タイトルと同じ。さすがに無理があるということで、後に直訳の「溺れる魔女」に変更となる。
ジャズ、プログレッシブ・ロック、クロスオーバー、クラシック、アヴァンギャルドなどがごちゃ混ぜになった様な曲。12分を超える長尺の曲で、変拍子あり、超絶アンサンブルあり、変態インプロヴィゼーションありと、ザッパの中でもかなりの難曲。
いくつかのライヴ音源から編集したものとのことだが、ライヴにおいて通しで完全に演奏出来たことがほとんど無かったのだとか…
B2. Envelopes
フランク・ザッパの▯(長方形)
前曲からの流れで「封筒」の形からこの邦題。後にカタカナ表記に変更となる。
前曲から切れ目無く演奏される。バルトークを電気楽器で演奏した様な曲。
B3. Teen-age Prostitute
娘17売春盛リ
歌詞の内容に基づく邦題。とは言ってもやり過ぎと思ったのか、後に直訳の「十代の娼婦」に変更となる。
女性のソプラノと男性のテノールによるオペラ歌手の様なボーカルがインパクト大の、オペラを変態チックにロック化した様な曲。一糸乱れぬアンサンブルで押しまくる。
A面は比較的ポップで分かりやすい曲だが、B面は難解と言うか、変態と言うか、相変わらずごちゃごちゃである。
"Valley Girl"のヒットに釣られてこのアルバムを買った一般人(ザッパ・フリークでは無い人)はB面を聴いて面食らったのではないだろうか?
目覚めてザッパ・フリークになった人もいただろう…

ところで、このジャケット・デザインだが、アメリカのユーモア作家ロジャー・プライス(Roger Price,1918–1990)が1950年代に考案したドルードル(Droodles)が元ネタ。
ドルードルとは「一見意味不明な落書きの様な線画に、ひねったタイトル(キャプション)を付けることで、別のものに見えてしまう」というミニマル系ナンセンス作品のこと。
ロジャー・プライス自身がこの様に説明している。
ドルードルというのは、正しいタイトルを知らないと何を描いているのかほとんど分からない、実に間抜けな小さな絵のことです。
例えば、私が最も典型的だと思っている一作がこれです。
ご覧の通り、これは「母ピラミッドが子どもにご飯をあげているところ」にも見えるでしょう。
ですが、そうではありません。これは「たどり着くのが遅すぎて溺れる魔女を救えなかった船」なのです。
このナンセンスな感じをザッパは気に入って、ジャケットに採用、さらには曲まで作ってしまったということか…
加えてこの絵、Zappaの Z A にも見える。
そういったところからすると、当初リリース時のナンセンスな邦題「フランク・ザッパの○△□」は良いセンスしていた訳だ。
面白いねぇ…
