ここのところ3回にわたってフランク・ザッパを採り上げている。
彼の音楽は大括りではロックなのだろうが、様々なジャンルが混ぜ込ぜとなった分類不能な音楽である。
ごちゃごちゃしているし、分かりやすい音楽では無いし、聴いていて気持ち良いといった類いの音楽では無いし、普段から聴く音楽では無い。
だが、聴き始めるとハマってしまう。
音楽には、心を打つ、胸に沁みる、腹に響く、腰に来る… などなど色々なものがあるが、ザッパは脳髄に来る、脳髄を侵してくるのだ。
最初は拒否反応を示していても、いつの間にか脳髄は侵食され、気付くとハマっている。
そしてハマってしまったら最後、ザッパ中毒者になってしまう。
そんな訳で、今回の「レコード評議会」は前回採り上げた「フランク・ザッパの○△□」に続くこのアルバム…
Zappa
The Man From Utopia
US盤(1983年)
Barking Pumpkin Records
FW 38403
SideA:FW-38403-BSAS- RE1 ② Dinkum
SideB:FW-38403-AS- RE1 ④ Dinkum






SideA
1. Cocaine Decisions
2. The Dangerous Kitchen
3. Tink Walks Amok
4. The Radio Is Broken
5. Mōggio
SideB
1. The Man From Utopia Meets Mary Lou (Medley)
2. Stick Together
3. Sex
4. The Jazz Discharge Party Hats
5. We Are Not Alone
フランク・ザッパの1983年アルバム「ザ・マン・フロム・ユートピア」。
またの名を「ハエ・ハエ・カ・カ・カ・ザッパ・パ!」(当初リリース時の邦題)。
「ハエ叩きで大量の蚊を払うザッパ」を描いたジャケットと、1981年から放映されていたCM「ハエハエカカカ、キンチョール」をもじって、この邦題とした訳だ。
ザッパなら面白がってくれたとは思うが、どういうタイトルだ…
で、各曲の邦題もやりたい放題である。
内容とともに紹介していこう。
A1. Cocaine Decisions
コケインやめますか、それとも人間やめますか
ザッパがシンプルに淡々と歌うミドルテンポ・ナンバー。ハーモニカがとぼけた感じを醸している。
権力者がコカインでハイになっている時にした決断が多くの人に影響を及ぼす、その無責任さを歌っている。
邦題は、1983年2月より開始の日本民間放送連盟による覚せい剤追放キャンペーンのキャッチコピー「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」からのパクリ。
A2. The Dangerous Kitchen
危険がひそむキッチンにて
ベーシック・トラックはライヴ録音。ザッパのアドリブによるジャズっぽい節回しの歌(喋り)に、スティーヴ・ヴァイがギターで全く同じフレーズをユニゾンでオーバーダブした曲。
深夜に帰宅すると、腐った食べ物、ハエやゴキブリ、ゴミだらけ…と、危険でいっぱいのキッチンの歌。
A3. Tink Walks Amok
どうした!ティンク
6拍子やら変拍子やらのミニマル・ミュージック。
ティンクがむやみやたらに歩き回るという意味のタイトルなのだが、正にそんな感じの曲。
A4. The Radio Is Broken
短波受信機ブロークン
ザッパの低音ボーカルとロイ・エストラーダ(マザーズの初代ベーシスト)のファルセットの掛け合いが可笑しくも不気味な、変拍子も交えた変な曲。アバンギャルド系。
太陽からの風、残留エコー、宇宙からの細菌、スペース・ワープ、宇宙人、無線が壊れて我々は地球に帰れない… 1950年代のB級SF映画の場面をコラージュした様な歌詞。
A5. Mōggio
ウシ、ウシビックリ、モーギョ
ベーシック・トラックはライヴ録音。目まぐるしい展開の、SFっぽい感じもするプログレ・インスト・ナンバー。
タイトルはイタリア語っぽいが、そんな言葉は無く、ザッパによるナンセンス造語。
B1. The Man From Utopia Meets Mary Lou (Medley)
ユートピアからやって来た男とメリー・ルー
1955年のR&Bナンバー"The Man From Utopia"と"Mary Lou"をメドレーにしてカバーしたもの。
R&Bやドゥーワップが好きなザッパの趣味に基づく選曲なのだろう。
B2. Stick Together
決断ダンケツ結団
レゲエ・ナンバー。
労働組合を揶揄する歌。権力を持った組合上層部の言いなりになっていたら一般組合員は割を食うことになる、と。
B3. Sex
ハメハメハ大王ごっこ
ヘビーなビートのミドルテンポ・ナンバー。
気取っていても、洗練していても、どんな人もすることはしている、といった身も蓋も無い歌。
真意は、当時の歌詞検閲に対する皮肉だろう。
B4. The Jazz Discharge Party Hats
フェチシストのマンゾク快感
ベーシック・トラックはライヴ録音。"The Dangerous Kitchen"と同じく、ザッパのアドリブによるジャズっぽい節回しの歌(喋り)に、スティーヴ・ヴァイがギターで全く同じフレーズをユニゾンでオーバーダブした曲(こんなことをしていたから、スティーヴ・ヴァイはギターで喋れるのだな)。
下着を頭に被るといったフェチな行為を長々と語り、これが偉大なるアメリカの伝統"The Jazz Discharge Party Hats"である、といった歌詞。
B5. We Are Not Alone
ワレワレハソンザイスル
サックスも入ったインスト・ナンバー。ドラムはザッパがプログラミングしたドラムマシンLinnDrumによるもの。
ザッパにしては普通の曲で、LinnDrumを使ってみたかっただけなのかも…
邦題は、おそらく「ワレワレハウチュウジンダ(我々は宇宙人だ)」が元ネタなのだろう。
以上、一曲の長さが3〜4分とコンパクトになっている分、前作「フランク・ザッパの○△□」(特にB面)に比べると難解度はやや薄らいでいるが、相変わらず色々なものがごちゃごちゃと詰め込まれている。そして、変態度はアップしている。
ザッパは当時43歳なのだが、そんな年齢になっても、よくもまあ、こんな音楽を…と驚く(呆れる) ばかりである。
そんなザッパなのだが、彼の音楽は脳髄に来る、脳髄を侵してくる。そして、ザッパ中毒者を産む…

ところで、このジャケット・デザイン「苛立ちが募ってギター・ネックを握り潰しながら、大量の蚊🦟をハエ叩きで払っている、筋肉ムキムキのザッパ」は、イタリア人漫画家タニーノ・リベラトーレ(Tanino Liberatore)によるもの。
1982年7月7日、ミラノ近郊のレデチェジオ公園で行われたライヴで大量の蚊に襲われ四苦八苦するということがあったが、これをヒントに描いたものなのだという。
で、タニーノ・リベラトーレの代表作は「ランゼロックス:RanXerox」という漫画だが、それがこれ。




で、ジャケットに描かれたザッパとランゼロックスを並べてみるとこうなる。



両者とも、筋肉ムキムキ、目が赤い。
ランゼロックス化したザッパという訳だ。

で、ジャケット裏面は、ランゼロックス化したザッパの後ろ姿である。
蚊に襲われた1週間後の1982年7月14日(※)、シチリア島のパレルモで行われたライヴで暴動が発生するという事態があったが、このことを描いたものなのだという。
(※) ライヴの7月14日は聖ロザリア祭(パレルモの守護聖人である聖ロザリアを祝う祭り、7月15日)の前日であり、街全体が盛り上がっている時期。ジャケットにはパレルモ大司教と思しき人物も描かれている。
サッカー・スタジアムのピッチ中央にステージを置いてライヴ会場としたのだが、観客席からステージまで距離があり、不満を感じた観客が"Cocaine Decisions"の演奏中に暴れ出し、抑えようとした警察が催涙ガスを発射…
観客席の横断幕に書かれている"Vaffanculo"は、イタリア語で「くそったれ」「ファッ◯ユー」…
ミラノでは大量の蚊に襲われ、パレルモでは暴動が発生といった散々なイタリア公演だった訳だが、それをネタにしてアルバム・ジャケットにする。
暴動が起こった時の曲"Cocaine Decisions"をアルバムの1曲目に置く。
相変わらず、面白いねぇ…
(おまけ)
パレルモで"Cocaine Decisions"を演奏中に観客が暴れ出した時の音源がこれ。
(「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 3」に収録されている。)
何かが破裂する様な「パン!」という音が聞こえる。
それに続いて、ザッパは観客にこう語りかけている。
Now, listen.
We want to continue the concert.
We want to keep playing music.
Will you please be calm, sit down, relax.
So we can play music.
State zitti, per favore.(イタリア語)
みんな、聞いてくれ
コンサート続けたいんだ
演奏を続けたいんだ
落ち着いてくれ、座って、リラックスしてくれ
そうすれば演奏できるんだ
静かにしてくれ、頼むから