B-SELSのおかげで(B-SELSのせいで)またまたビートルズ中毒となってしまった…
ということで、前々回の「ビートルズ・イン・イタリー」からも繋がっているし、今回の「レコード評議会」はこれを採り上げよう。
The Beatles
Long Tall Sally
UK盤(1964年)モノラル
Parlophone
GEP 8913
SideA:7TCE 822-1N MD KT 3
SideB:7TCE 823-1N O KT 2




SideA
1. Long Tall Sally
2. I Call Your Name
SideB
1. Slow Down
2. Matchbox
1964年6月リリースのEP「Long Tall Sally」。
イギリスにおける5枚目のEPで、「シングル曲の寄せ集め」や「アルバムのダイジェスト版」といった従来のEPとは違って、未発表の「新曲」が収録されたEPである。
但し、新曲とは言うものの、3曲がカバー曲で、唯一のオリジナル曲も他者に提供した曲のセルフカバーであり、つまり「カバー曲集」とも言える内容となっている。
A1. Long Tall Sally
リトル・リチャードのカバー。ボーカルはポール。
映画「ハード・デイズ・ナイト」での使用曲用のセッション中、1964年3月1日に録音。
ちなみに、ワンテイクで一発OKとなった。
A2. I Call Your Name
ジョンが作曲し、1963年にビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタスへ提供された曲のセルフカバー。ボーカルはジョン。
A1と同じく1964年3月1日に録音。
B1. Slow Down
ラリー・ウィリアムズのカバー。ボーカルはジョン。
映画使用曲以外のアルバム「ハード・デイズ・ナイト」収録曲用のセッション中、1964年6月1日に録音。同月4日にジョージ・マーティンによるピアノをオーバーダビング。
B2. Matchbox
カール・パーキンスのカバー。ボーカルはリンゴ。
B1と同じく1964年6月1日に録音。
ちなみに、ツアーでイギリスに来ていたカール・パーキンスがスタジオに顔を出し、その前で録音した。
では最初から「カバー曲集」というコンセプトで作られたEPなのかと言うと、おそらくそうでは無い。
これら4曲は映画/アルバム「ハード・デイズ・ナイト」用のセッション中に録音されながら、アルバムに収録されなかった曲なのである。
つまり「アルバム・アウトテイク集」としてEPにまとめたものが、結果的に「カバー曲集」となった、ということなのだと思う。
それでは、何故にこれら4曲がアウトテイクとなったのか?そしてEPにまとめられることになったのか?
おそらくこんな感じだったのではないだろうか…
〜 以下、録音日などは マーク・ルーイスンによる「ザ・ビートルズ・レコーディング・セッションズ」に基づくものだが、ジョージ・マーティンやジョンの件は勝手な想像である 〜
1964年1月〜6月、映画/アルバム「ハード・デイズ・ナイト」用のセッションとして録音された楽曲は以下の通り、全17曲。
1月29日録音
Can't Buy Me Love 2月25日オーバーダビング
2月25日録音
You Can't Do That
2月26日録音
I Should Have Known Better
2月27日録音
And I Love Her
Tell Me Why
If I Fell
3月1日録音
I'm Happy Just to Dance with You
Long Tall Sally(カバー曲)
I Call Your Name(セルフカバー曲)
4月16日録音
A Hard Day's Night
6月1日録音
Matchbox(カバー曲)
I'll Cry Instead
Slow Down 6月4日オーバーダビング(カバー曲)
I'll Be Back
6月2日録音
Things We Said Today 6月3日オーバーダビング
When I Get Home
Any Time at All 6月3日オーバーダビング
"Long Tall Sally"(デビュー前からライヴで定番として演奏していたカバー曲)と"I Call Your Name"(他者に提供した曲ではあるがビートルズとしては新曲)は、映画使用曲の候補として、3月1日に録音された。
ところが4月16日、映画タイトルにもなる傑作"A Hard Day's Night"が作られたこともあり、最終的にこれら2曲の映画への使用は見送りとなった。
"Slow Down"と"Matchbox"(2曲ともデビュー前からライヴで演奏していたカバー曲)は、映画使用曲以外のアルバム収録曲の候補として、6月1日に録音された。
従来アルバム(※)ではカバー曲も多く、またリンゴのボーカルをフィーチャーした曲("Matchbox")も必要だったため、この2曲が録音されたのだった。
(※) 1stアルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」:全14曲中6曲がカバー曲、1曲はリンゴのボーカル / 2ndアルバム「ウィズ・ザ・ビートルズ」:全14曲中6曲がカバー曲、1曲はリンゴのボーカル
さて、以上全17曲が揃ったところで、ジョージ・マーティンはこの様なことを思案していた。
ビートルズはアルバムにシングル曲を極力入れないという方針であるから、発表済のシングル2曲"Can't Buy Me Love"と"You Can't Do That"を別にすれば、残るは15曲。
このうち13曲をアルバムに収録、残る2曲をシングルにするならば、どう選曲すべきだろうか?
アルバムは、映画使用曲6曲(Can't Buy Me Love"を除く)の収録は必須。カバー3曲もシングルにはそぐわないため、アルバム収録とすべきだろう。
これにオリジナル曲を加えて、映画使用曲6曲を含むオリジナル10曲+カバー3曲の全13曲。
この様な選曲でどうだろうか。
アルバム
ー 映画使用曲 ー
A Hard Day's Night(メイン・ボーカル:ジョン)
I Should Have Known Better(ジョン)
If I Fell(ジョン、ポール)
I'm Happy Just to Dance with You(ジョージ ※)
And I Love Her(ポール)
Tell Me Why(ジョン)
ー 映画使用曲以外 ー
I'll Cry Instead または Any Time at All(ジョン)
When I Get Home(ジョン)
I'll Be Back(ジョン)
I Call Your Name(セルフカバー曲、ジョン)
Slow Down(カバー曲、ジョン)
Long Tall Sally(カバー曲、ポール)
Matchbox(カバー曲、リンゴ)
(※) レノン=マッカートニーの曲だが、ジョージがボーカル
シングルは、ジョンとポールのオリジナル曲をそれぞれA面/B面とする。
シングル
Any Time at All または I'll Cry Instead(ジョン)
Things We Said Today(ポール)
うむ、この様な選曲であれば、なかなかバランスも悪くない。曲順など詳細を詰めよう。
この様な状況下、 映画配給会社のUSユナイテッド・アーティスツによるオリジナル・サウンドトラック「ハード・デイズ・ナイト」の収録曲が決まった。
その中に"Can't Buy Me Love"も含まれていた。
それならば、"Can't Buy Me Love"をアルバムに収録しない訳にはいかない。
"Can't Buy Me Love"も入れて映画使用曲7曲を含むオリジナル11曲+カバー3曲の全14曲とするか。
そう思ったジョージ・マーティンだったが、ここでジョンがこう言い出した。
オリジナル曲だけでたくさんあるじゃないか!
レノン=マッカートニーだけのアルバムを作ろうぜ!
ジョージ・マーティンは驚き、最初は否定的であったが、こう考え直した。
ライヴでよく知られているカバー曲を入れた方がファンのウケは良いだろう。
また、人気のあるリンゴのボーカル曲も1曲は入れておいた方が良いだろう。
だが、ポピュラー・ミュージック界で全曲自作自演のアルバムなど今までに無い。前代未聞の革新的なこと言える。冒険する価値はある。
うむ、ここが勝負どころだ。
リンゴのボーカル曲が無くなってしまうが、彼には泣いてもらおう。
そうなると、カバー曲をシングルにする訳にもいくまいし、しかもカバー曲は3曲ある。
どうしたものか?
それならば、アルバムはレノン=マッカートニーのオリジナル曲のみの全13曲としよう。
そして残る4曲 〜カバー曲"Long Tall Sally"、 "Slow Down"、 "Matchbox"とセルフカバー曲"I Call Your Name"〜 これらをEPにする。
これは「アルバム・アウトテイク集」と言えばそうなのかも知れないが、「シングル曲の寄せ集め」や「アルバムのダイジェスト版」といった従来のEPとは違って、未発表の「新曲」かつ「カバー曲集」という面白いコンセプトのEPとなる。
これで革新的なアルバムと面白いコンセプトのEPが作れる。
ジョンの思い付きのおかげで良い仕事になりそうだ。
ということで、「ハード・デイズ・ナイト」セッションで録音された17曲は、イギリスにおいて以下の通りシングル、EP、アルバムに収録された。
1964年3月20日発売
UKシングル
Can't Buy Me Love(メインボーカル:ポール)
You Can't Do That(ジョン)
1964年6月19日発売
UK EP「Long Tall Sally」
ー アルバム・アウトテイク集、カバー曲集 ー
Long Tall Sally(カバー曲、ポール)
I Call Your Name(セルフカバー曲、ジョン)
Slow Down(カバー曲、ジョン)
Matchbox(カバー曲、リンゴ)
1964年7月10日発売
UKシングル
ー 同時発売のアルバムからのシングルカット ー
A Hard Day's Night(ジョン)
Things We Said Today(ポール)
1964年7月10日発売
UKアルバム「ハード・デイズ・ナイト:A Hard Day's Night」
ー 映画使用曲:サウンドトラック ー
A Hard Day's Night(ジョン)
I Should Have Known Better(ジョン)
If I Fell(ジョン、ポール)
I'm Happy Just to Dance with You(ジョージ)
And I Love Her(ポール)
Tell Me Why(ジョン)
Can't Buy Me Love(ポール)
ー 映画使用曲以外 ー
Any Time at All(ジョン)
I'll Cry Instead(ジョン)
Things We Said Today(ポール)
When I Get Home(ジョン)
You Can't Do That(ジョン)
I'll Be Back(ジョン)
1964年11月4日発売
UK EP「Extracts From The Film A Hard Day's Night」
ー アルバム・ダイジェスト版 ー
I Should Have Known Better
If I Fell
Tell Me Why
And I Love Her
1964年11月6日発売
UK EP「Extracts From The Album A Hard Day's Night」
ー アルバム・ダイジェスト版 ー
Any Time at All
I'll Cry Instead
Things We Said Today
When I Get Home
以上、こんな感じだったのではないか、と思うのだが、どうでしょう?
まあ、勝手な想像である。
ちなみに、アメリカでの収録状況もついでに記載しておくと…
1964年3月16日発売
USキャピトル・シングル
Can't Buy Me Love
You Can't Do That
1964年4月10日発売
USキャピトル・アルバム「ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム:The Beatles' Second Album」
You Can't Do That
Long Tall Sally
I Call Your Name
1964年6月26日発売
USユナイテッド・アーティスツ・オリジナル・サウンドトラック「ハード・デイズ・ナイト:A Hard Day's Night」
A Hard Day's Night
Tell Me Why
I'll Cry Instead (※)
I'm Happy Just to Dance with You
I Should Have Known Better
If I Fell
And I Love Her
Can't Buy Me Love
(※) 映画には使われていないが、収録されている
1964年7月13日
USキャピトル・シングル
A Hard Day's Night
I Should Have Known Better
1964年7月20日
USキャピトル・シングル
I'll Cry Instead
I'm Happy Just to Dance with You
1964年7月20日
USキャピトル・シングル
And I Love Her
If I Fell
1964年7月20日発売
USキャピトル・アルバム「サムシング・ニュー:Something New」
I'll Cry Instead
Things We Said Today
Any Time at All
When I Get Home
Slow Down
Matchbox
Tell Me Why
And I Love Her
I'm Happy Just to Dance with You
If I Fell
1964年8月24日
USキャピトル・シングル
Matchbox
Slow Down
1964年12月15日発売
USキャピトル・アルバム「ビートルズ ’65:Beatles ’65」
I'll Be Back
USキャピトルは相変わらずの仕事ぶりである…
と、ここで終わりにしても良いのだが、この盤そのものについても書いておこう。
8年ほど前にDiscogsでイギリスのセラーから買ったものなのだが、盤質も良く、スタンパーもなかなか悪くない。
A面:マザー3、スタンパーMD (40番目)
B面:マザー2、スタンパーO (5番目)
肝心の音はと言うと、さすが王道のUK盤。
鮮度が高く、素晴らしくキレのある音だ。

と、ここで「ん?」と思った。
イタリア独自編集盤「ビートルズ・イン・イタリー」の音とかなり印象が違う??
そこで、両盤で同じ曲を聴き比べてみると…
EP「Long Tall Sally」の方が音のシャープさで言えば上だろう。各楽器がビシッと鳴っている。
一方で「ビートルズ・イン・イタリー」の方がボーカルや中音域の音に豊かさを感じる。モノラルながら音に広がりがある。
こんなにも違うのか、というほど違う。
特に違いを感じるのは"Long Tall Sally"。
EP「Long Tall Sally」では、EMI第2スタジオで、気合いを入れて演奏する4人の姿が見える。
一方で「ビートルズ・イン・イタリー」では、ライヴ・ステージ上でノリに乗っている4人の姿が見える。
同じ音源にも関わらず、受ける印象が全く違う。
あぁ、またビートルズ中毒から抜けられなくなりそうだ…
(追記)
B-SELSの日記で本記事をご紹介いただきました。
ご店主、ありがとうございます!
あぁ、また行こう…