レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

From The Mars Hotel / Grateful Dead【US盤】

今回の「レコード評議会」もグレイトフル・デッドを採り上げます。

 

デッドヘッドの一員でありたいと思うバンドなだけに、もう少し続けたいと思います。

 

 

Grateful Dead

From The Mars Hotel

US盤(1974年)

Grateful Dead Records

GD 102

SideA:GD102A-1-J  SM

SideB:GD102B-1J  SM  3


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SideA

 1. U.S. Blues

 2. China Doll

 3. Unbroken Chain

 4. Loose Lucy

SideB

 1. Scarlet Begonias

 2. Pride Of Cucamonga

 3. Money Money

 4. Ship Of Fools

 

 

1974年6月発表のスタジオ7作目となるアルバム「フロム・ザ・マーズ・ホテル(当時の邦題は「火星ホテルから来たグレイトフル・デット」)

 

ライヴ盤を含めると通算11作目、1973年に設立した自主レーベルGrateful Dead Recordsでは第2弾となるアルバムです。

 

Grateful Dead Recordsおよびその第1弾については、以下の記事に詳しいので、よろしければご覧ください。

 

前作「ウェイク・オブ・ザ・フラッド」と同様に、デッドらしく肩の力を抜いた良い曲が並んでいます。

 

特に好きな曲は以下の通りです。

 

A1. U.S. Blues

作曲・歌:ジェリー・ガルシア、作詞:ロバート・ハンター

シングル・カットもされている、ジェリー・ガルシアがボーカルを取る陽気なブギー・ナンバーです。キース・ゴドショウの軽快なピアノも印象的です。

Red and white, blue suede shoes

I'm Uncle Sam, how do you do?

Give me five, I'm still alive

Ain't no luck, I learned to duck

Check my pulse, it don't change

Stay seventy-two come shine or rain

Wave the flag, pop the bag

Rock the boat, skin the goat

 

Wave that flag, wave it wide and high

Summertime done, come and gone, my, oh, my

 

赤と白と青(アメリカ合衆国の国旗色)、ブルー・スエード・シューズ(エルヴィス・プレスリーの歌のイメージ)

俺はアンクル・サム(アメリカ合衆国の象徴)、よろしくな

ハイタッチでもするかい、俺はまだ生きているぜ

運任せじゃないんだぜ、ヤバいことがあっても上手くかわしてきたのさ

俺の脈を取ってみな、全く問題無いはずさ

1972年(ウォーターゲート事件にも関わらず共和党ニクソンが大統領再選となった年)のまんまだ、雨が降ろうが晴れていようが

どんな旗が振られようが(主義主張だろうが何だろうが)、袋が開けられようが(クスリをキメようが)

厄介なことがあろうが、エゲツないことがあろうが


どんな旗でも高く掲げて大きく振れば良いさ

あの夏(サマー・オブ・ラヴ)は終わったのさ、一時盛り上がったけどな、まあ、そんなもんさ

 

歌詞の中に出てくるアンクル・サムとは、アメリカ合衆国を擬人化したキャラクターで、以下のポスターが有名です。

ジェームス・モンゴメリ・フラッグが描いた、第一次世界大戦中のプロパガンダ・ポスター

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ロバート・ハンターによる詩には、愛国的な語り口の裏に鋭い風刺が効いています。

同時に、1960年代という時代が終わってしまったことへの、わずかなノスタルジーと諦観も漂っています。

まさに “U.S. Blues” です。

 

A3. Unbroken Chain

作曲・歌:フィル・レッシュ、作詞:ロバート・ピーターソン

プログレの様な変拍子も交えつつ、一方で雰囲気はAORの様でもあるという、不思議なナンバーです。

フィル・レッシュの作る曲は、"Box Of Rain"もそうですが、聴けば聴くほど少し不思議な感覚を味わうことが出来ます。

 

B4. Ship Of Fools

作曲・歌:ジェリー・ガルシア、作詞:ロバート・ハンター

夕暮れの中、ジェリー・ガルシアが優しい声で語りかける様に歌う名曲です。

Went to see the captain, strangest I could find

Laid my proposition down, laid it on the line

I won't slave for beggar's pay, likewise gold and jewels

But I would slave to learn the way to sink your ship of fools

 

Ship of fools on a cruel sea

Ship of fools, sail away from me

It was later than I thought when I first believed you

Now I cannot share your laughter, ship of fools

 

船長に会いに行った、今までで一番変わっているけど分かってくれそうな船長だった

自分の思いを包み隠さず正直に話した

物乞いの様な安い賃金で奴隷の様にこき使われるのは御免だけど、金や宝石の様な贅沢品にためにあくせく働くつもりも無い

だけど、愚か者の船を沈める方法を知るためなら奴隷にだって何だってなる、と

 

愚か者たちを乗せた船が漂っている、残酷な海原を

愚か者の船、私に近付かないでくれ

あなたを信じていた最初から、既に手遅れだったんだ

もうあなたとは笑いを分かち合うことはできない

愚か者の船

 

愚か者の船愚者の船Ship Of Fools」とは、中世ドイツのセバスティアン・ブラントによる風刺書「愚者の船Das Narrenschiff(1494年)を起源とする有名な寓話です。

 

船には、あらゆる種類の「愚か者」が乗っています。権力欲に溺れる者、金の亡者、偽善者、無知なのに自信満々な者といった人たちです。

船は「理性」や「徳」の港には向かわず、「愚者の国ナラゴニア」を目指して進んでいます。

船には舵を取る「賢者」はおらず、誰もが自分を「愚か者」だとは思っていません。

この物語は特定の人たちだけの物語ではありません。社会全体が「ナラゴニア」を目指して進んでいます。

 

本の挿絵

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ヒエロニムス・ボスの絵画

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この寓話を下敷きにしたロバート・ハンターの詩には、当時のアメリカが「愚者の船」に乗ってどこへ向かうのかも分からぬまま航海を続けている光景を見つめる視線があります。そこには、もはや同じ船には乗れないという距離感と、それに抗いきれない諦観が描かれています。

また、理想を本気で信じていた1960年代という時代が、振り返れば初めから脆い幻想を抱えていたことに気付いてしまった者の喪失感と決別も描かれています。

"Now I cannot share your laughter"(もうあなたとは笑いを分かち合うことはできない)

 

 

ロバート・ハンターの詩は決して主張しません。ですが、静かに刺さります。

何を感じるかは聴く側に委ねられています。それだけに、静かに刺さります。

 

 

次に、ジャケットにあるマーズ・ホテル (Mars Hotel)とアルバム・タイトルについて触れておきます。

 

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1970年代までサンフランシスコに実在していたホテルで、低所得者向けの居住区であったSoMa(South of Market)地区にありました。都市再開発の一環で取り壊しとなり、現在その場所は大型コンベンション施設の一部となっています。

 

単なる安宿では無く、ビートニクを代表する作家であるジャック・ケルアックが滞在して執筆をするなど、1960年代のサンフランシスコのアンダーグラウンド文化ヒッピー・カルチャーを象徴する場所でもありました。

 

つまり「From the Mars Hotel(マーズ・ホテルから外へ)というタイトルは、このアルバムが発表された1974年に至って、もはやマーズ・ホテルに滞在し続けることができなかったデッド、そしてヒッピー・カルチャーの1960年代に留まり続けることを許されなかったデッドの立ち位置を象徴しているーーそう考えてよいのではないでしょうか。

 

 

さてこのアルバム、ジャケットを上下をひっくり返して反転すると、ある文字が浮かび上がってきます。

 


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UGLY RUMORS と書かれています。

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もともと、自分達への自虐として「Ugly Roomers(醜い部屋使い)」、それが変化した「Ugly Rumors(醜い噂)」をアルバム・タイトルにしようと考えていたのだそうで、その名残なのだと言います。

 

そして、裏ジャケットには「Ugly Roomers(醜い部屋使い)」であるメンバーが描かれています。

 

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この写真をもとにしています。

 

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最後に、Grateful Dead Recordsは自主レーベルで、大手の様に流通管理が確りとしていなかったため、海賊盤が蔓延っていたそうです。

 

これを受けて、公式盤の証として「AUTHENTIC (本物)」との文字がジャケット左端にエンボス加工されています。

 

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以上、あれこれと書いてみました。

 

デッドヘッズの一員になるための道は、まだまだ続きます。