前回は、こう書いて次回に持ち越しとしていた。
ミックス違い・バージョン違いについて
まず最初に書いておくが、米キャピトルから送られたテープが元になっている日本盤LPはUS盤LPと同じミックスである。
その上で、ここではUK盤EP、US盤LP、ドイツ盤LPのステレオにおけるミックス違いやバージョン違いを軸にして、あれこれ書いてみよう。
と行きたいところだが、長くなってしまうので今回はここまで。
続きは、次回の「マジカル・ミステリー・ツアー」のドイツ盤で…
ということで、今回の「レコード評議会」は予告通り、これである。
The Beatles
Magical Mystery Tour Plus Other Songs
ドイツ盤(1973年)ステレオ
Apple Records / HÖR ZU
SHZE 327
SideA:SHZE 327 A 1
SideB:SHZE 327 B 3




Seite 1
Musik aus dem farbigen Fernsehfilm "Magical Mystery Tour"
1. Magical Mystery Tour
2. The Fool On The Hill
3. Flying
4. Blue Jay Way
5. Your Mother Should Know
6. I Am The Walrus ("No You're Not!" Said Little Nicola)
Seite 2
... plus 5 other songs
1. Hello Goodbye
2. Strawberry Fields Forever
3. Penny Lane
4. Baby You're A Rich Man
5. All You Need Is Love
「マジカル・ミステリー・ツアー」のドイツ盤。
EMIのドイツ法人であるElectrolaとドイツのテレビ・ラジオ番組雑誌HÖR ZUがタイアップして発売したもので、その第3版にあたる盤である。
第3版とは?と思われるだろうから説明しておくと…
第1版
1971年9月頃の発売。
A面マト「A 1」、B面マト「B 1」。
B面はUS盤LP用の音源が使われている。
このため、B2はUS盤LPと同じミックスであり、B3〜5の3曲はUS盤LPと同じ擬似ステレオ。
ジャケット左上とレーベルの「HÖR ZU」のロゴは以下の通り。
第2版
1972年初頭(1月頃)の発売。
A面マト「A 1」、B面マト「B 3」。
B面が1971年12月17日に再カッティングされたものに切り替わっている。
B2が新しいミックスに、B3〜5の3曲がリアル・ステレオに差し替えられている。
「HÖR ZU」のロゴは第1版と同じ。
第3版
1973年の発売。
A面マト「A 1」、B面マト「B 3」(第2版と同じ)。
「HÖR ZU」のロゴは以下の通りレコードを模したデザインに変更されている。
ロゴ下の文字"Langspielplatte"は"long-playing record"の意味
注:Discogsによると、ジャケットのコーティングに違いがあるもの、ジャケットとレーベルの組合せが入り繰りしているものがある様だが、基本的な違いは以上の通り。
以上から分かる様に、B面マトが「B 3」の第2版以降、B2が新しいミックス、B3〜5の3曲がリアル・ステレオで収録される様になった訳だが、その後「HÖR ZU」のロゴが変更となった第3版が本盤である。
で、この音源が後のドイツDDM盤に繋がっている。
さてここからは、前回の続き。
こんな感じで書いていこう。
1. ミックス違い・バージョン違いについて
2. B面の全曲ステレオ化について
3. ジャケットのデザインについて
4. 裏ジャケットのライナーノーツについて
5. 音について
6. まとめ
予めお伝えしておきますが、長文かつ話があちこちに飛びます。お暇な時にどうぞ…
1. ミックス違い・バージョン違いについて
このドイツ盤LP収録曲のミックス違い・バージョン違いと言えば、"I Am The Walrus"と"Strawberry Fields Forever"である。
ここでは、UK盤EP(ステレオ)やUS盤LP(ステレオ)との違い、作成の経緯などについて、あれこれ書いてみようと思う。
♯
I Am The Walrus
そもそもこの曲はミックス違いやバージョン違いが多い。モノラルで2種類、ステレオで3種類ある(※)。
(※) その他、US盤「レアリティーズ」用の編集バージョン等もあるがここでは除外する。
イントロのリフ
・モノラル:4回
・ステレオ:4回(US盤LP、他)
6回(UK盤EP、ドイツ盤LP、他)
1回目の"I'm crying..."でのドラム
・モノラル:無し(かすかに入っている程度)
・ステレオ:有り(大きな音で鳴っている)
2回目の"I'm crying..."でのドラム
・モノラル:無し
・ステレオ:有り / 中央のみ(US盤LP、ドイツ盤LP、他)
有り / 中央と左(UK盤EP、他)
"Yellow matter custerd"の前の1小節
・モノラル:無し
有り(US盤シングルのみ)
・ステレオ:無し
これをステレオにおけるミックス違い・バージョン違いのみを抽出し、レコード種類毎に表示するとこうなる。
UK盤EP、他(日本盤EP、CD等)
(後にCD等で使われ、現在このミックスが標準となっている)
・イントロのリフ:6回
・2回目の"I'm crying..."でのドラム:中央と左
US盤LP、他(日本盤LP、UK盤LP等)
・イントロのリフ:4回
・2回目の"I'm crying..."でのドラム:中央のみ
ドイツ盤LP
・イントロのリフ:6回
・2回目の"I'm crying..."でのドラム:中央のみ
ここで、マーク・ルーイスン(Mark Lewisohn)の著書「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ(The Complete Beatles Recording Sessions)」(1988年) を見てみる。
本書は、1980年代初頭にEMIのエンジニアであったジョン・バレットが進めていたビートルズのセッション・テープ整理作業を基礎に、彼の死後、その調査を引き継いだマーク・ルーイスンが追加の検証を重ね、公式録音の全貌を体系的に纏め上げたものである。
そこには、この様な記述がある。
1967年11月6日
・ミキシング:第17テイクより前半部分/リミックス6を作成、リミックス・モノ22より後半部分/リミックス7(擬似ステレオ)を作成
・編集:前半部分/リミックス6と後半部分/リミックス7(擬似ステレオ)を繋いで完成
1967年11月17日
・ミキシング:第17テイクより前半部分/リミックス25を作成(前半部分を作り直し)
・編集:前半部分/リミックス25と後半部分/リミックス7(擬似ステレオ)を繋いで完成
・カッティング:UK盤EPステレオのカッティング
そして、US盤LP、UK盤EPの発売は以下の通りとなっている。
1967年11月27日:US盤LP(モノラル、ステレオ)発売
1967年12月8日:UK盤EP(モノラル、ステレオ)発売
とすると、断言することは出来ないが、
US盤LPの"I Am The Walrus":1967年11月6日ミックス
UK盤EPの"I Am The Walrus":1967年11月17日ミックス
と考えるのが妥当だろう(※)。
(※) 11月17日のUK盤EPのカッティングに回されたのは11月17日ミックスと考えるのが妥当だろう。加えて、11月17日ミックスのテープを米キャピトルに郵送→カッティング→プレス→11月27日にUS盤LP発売… というには時間的に無理があるだろう。
では、ドイツ盤LP「マジカル・ミステリー・ツアー」の"I Am The Walrus"のミックスは何なのか?
ドイツ盤LPは、11月17日ミックスの特徴(リフ:6回)と、11月6日ミックスの特徴(ドラム:中央のみ)の両方が入り混じっている。
果たしてどちらのミックスなのか?
答えは、
ドイツ盤LPの"I Am The Walrus":1967年11月6日ミックス
である。
どういうことかと言うと、そもそも11月6日ミックスのイントロのリフは6回であり、2回分カットして4回にしたのがUS盤LP(※)、そのまま6回としているのがドイツ盤LPなのである。
正確な記録が無いため断定するのは危険かも知れないが、聴き比べてみる限り両者の違いはリフの回数だけであり、別ミックスでは無く、この様に捉える方が自然だ。
(※) 英EMIは米キャピトルにモノラル・ミックス(リフ:4回)とステレオ・ミックスのテープを送った。送ったステレオのテープは11月6日ミックスで、リフは6回であった。それを米キャピトルがモノラルとの整合性等の理由から、リフを2回分カットして4回に編集した。これがUS盤LPに収録された。以上推測だが、そんなところだろう。
更に言うならば、11月6日ミックスは1967年発売のドイツ盤シングル「Hello, Goodbye / I Am The Walrus」(※)およびドイツ盤EP「マジカル・ミステリー・ツアー」(※)の時から既に使われていた様だ。
(※) Hello, Goodbye / The Beatles【デンマーク盤(モノラル)、フランス盤(モノラル)、ドイツ盤(モノラル)】に記載の通り、ドイツ盤シングルはステレオ・ミックスをモノラル化した偽モノなのだが、2回目の"I'm crying..."でのドラムの音から11月6日ミックスであることが分かる。ちなみにフランス盤シングルも11月6日ミックスの偽モノである。
(※) Discogsによるとドイツ盤EPはステレオのみでの発売。持っておらず未聴なのだが、ドイツ盤シングルが11月6日ミックスの偽モノであることから、ドイツ盤EPも11月6日ミックスと思われる。
以上、ごちゃごちゃと書いてしまったが、要はこういうこと。
"I Am The Walrus"のステレオ・ミックスには1967年11月6日ミックスと1967年11月17日ミックスがある。
その違いは2回目の"I'm crying..."でのドラムにあり、イントロのリフはいずれも6回である。
UK盤EPに使われたのは1967年11月17日ミックス。
(後にCD等で使われ、現在このミックスが標準)
US盤LPに使われたのは1967年11月6日ミックス。
イントロのリフは2回分カットされ、4回に編集されている。
ドイツ盤LPに使われたのも1967年11月6日ミックス。
イントロのリフは6回のままとなっている。
以上、正確な記録が無いため断言することは出来ないが、かなり可能性の高い仮説として提示したい。
どうだろうか…
♭
Strawberry Fields Forever
この曲のステレオ・ミックスは2種類ある。主な違いをレコード種類毎に表示するとこうなる。
なお、この曲は前半/第7テイクと後半/第26テイクを繋げてある(ジョンのわがままにジョージ・マーティンがテープ・スピードを変えて繋げたというのは有名な話)。
US盤LP、他(日本盤LP、UK盤LP等)
・前半/第7テイクでのボーカル:音量が大きめで、エコーがはっきりとかかっている(このためボーカルの雰囲気が第7テイクと第26テイクとの繋ぎ目の前後でかなり変わる)
・前半/第7テイクと後半/第26テイクを繋いでいる箇所直後のチェロとトランペット:左チャンネルから右チャンネルに横切って入ってくる
・後半/第26テイクでの2度目と3度目のサビ(Let me take you down...)の後のソードマンデル(テーブル・ハープに似たインドの楽器)の定位:中央のまま
ドイツ盤LP(B面マト「B3」)、他(CD等)
(後にCD等で使われ、現在このミックスが標準となっている)
・前半/第7テイクでのボーカル:エコーはほとんどかかっていない(ボーカルに雰囲気も第7テイクと第26テイクとの繋ぎ目の前後でさほど変わらない)
・前半/第7テイクと後半/第26テイクを繋いでいる箇所直後のチェロとトランペット:右チャンネルのみから入ってくる
・後半/第26テイクでの2度目と3度目のサビの後のソードマンデルの定位:右チャンネルから左チャンネルへ横切る
レコード・コレクターズ増刊「ザ・ビートルズ コンプリート・ワークス② The Beatles 1965ー1967」(2000年1月10日発行)を見てみると、こう書かれている。
・・・・・ 彼らは66年12月29日のステレオ・ミキシングで一度完成品(ステレオ・リミックス3)を作ったがそのできばえに満足できず、同日作り直している(同5)。ステレオが2種あるのはこれが両方使われてしまったからだ。結論としては、前者が表のステレオ1(US盤LPに収録のもの)、後者がステレオ2(ドイツ盤LPやCD等に収録のもの)と考えられ、両者はソードマンデル(テーブル・ハープに似たインドの楽器)の定位などの違いで容易に判別できる ・・・・・
以上から、これまでこういうことだと思っていた。
US盤LP、他(日本盤LP、UK盤LP等)
1966年12月29日 1stミックス/リミックス3
ドイツ盤LP(B面マト「B3」)、他(CD等)
(後にCD等で使われ、現在このミックスが標準)
1966年12月29日 2ndミックス/リミックス5
が、どうもそうでは無いらしい。
マーク・ルーイスンの著書「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ」(1988年)にはこの様な記述がある。
1966年12月29日
・ミキシング:第7テイクより前半部分/リミックス1を作成、第26テイクより後半部分/リミックス2を作成
・編集:前半部分/リミックス1と後半部分/リミックス2を繋いで完成=1stミックス/リミックス3
1966年12月29日(同日)
・ミキシング:第26テイクより後半部分/リミックス4を作成、後半部分/リミックス2の仕上がりがあまり良くなかったので、リミックス4で改めて同じ作業を行った
・編集:前半部分/リミックス1と後半部分/リミックス4を繋いで完成=2ndミックス/リミックス5
これを読む限り、1stミックス/リミックス3と2ndミックス/リミックス5は後半部分(リミックス2ないしはリミックス4)に違いがあるのであって、前半部分(リミックス1)に違いは無い。
一方で、US盤LPとドイツ盤LP(B面マト「B3」)における違いは前半のボーカル(音量、エコー)にもあるのだから、US盤LP=1stミックス/リミックス3、ドイツ盤LP=2ndミックス/リミックス5というのは矛盾している。
では、ドイツ盤LP(B面マト「B3」)「マジカル・ミステリー・ツアー」の"Strawberry Fields Forever"のミックスは何なのか?
答えは、
ドイツ盤LP(B面マト「B3」)の"Strawberry Fields Forever":1971年10月26日ミックス
である。
複数のサイトでこの様に書かれている。
Wikipedia - ドイツ語版:Strawberry Fields Forever
"Strawberry Fields Forever"のミキシングは、1966年12月22日にモノラルで行われ、同年12月29日に初めてステレオで行われた。さらに1971年10月26日に別のステレオ・ミックスが作成された。
Beatles Music History!:"Strawberry Fields Forever" History
1971年10月26日、この曲の新たなステレオ・ミックスがロンドンのAIR Studiosで制作された。
ジョージ・マーティンはオリジナル・テープを用いて一から作り直しを行い、遅いバージョンと速いバージョンのそれぞれを新たにステレオでミックスしたうえで、それらを編集して一つに繋げた。
Unofficial Fan Site 「The Paul McCartney Project」 Mixing "Strawberry Fields Forever"
1971年の9月と10月、ジョージ・マーティンはビートルズの楽曲数曲をステレオにリミックスするプロジェクトに着手した。9月30日には"Penny Lane"、10月22日には"Baby, You’re A Rich Man"、そして10月26日には"Strawberry Fields Forever"がそれぞれリミックスされた。
確かな情報なのか不安なので、色々と調べてみると、大元の情報は例によってマーク・ルーイスンである。
彼の著書「ザ・ビートルズ/全記録 コンプリート・ビートルズ・クロニクル(The Complete Beatles Chronicle)」(1992年)にこの様な記述がある。
"Penny Lane" and "Baby, You’re A Rich Man" first went into stereo, for a West German MMT LP, on 30 September 1971 and 22 October 1971 respectively.
"Strawberry Fields Forever" was remixed for this album on 26 October 1971.
"Penny Lane"と"Baby, You’re A Rich Man"は西ドイツ盤「マジカル・ミステリー・ツアー」のために、それぞれ1971年9月30日と10月22日に初めてステレオ・ミックスが作られた。
"Strawberry Fields Forever"は同アルバム用に1971年10月26日に再度ステレオ・ミックスが作られた。
マーク・ルーイスンの調査結果に基づくものであり、これはもう間違い無い。
ジョージ・マーティンは1966年のミックスについて満足していなかったのだろう、 "Penny Lane"と"Baby, You’re A Rich Man"のステレオ・ミックスを作成するのに乗じて、 "Strawberry Fields Forever"も1971年10月26日に作り直した、という訳だ。
では、US盤LP「マジカル・ミステリー・ツアー」の"Strawberry Fields Forever"のミックスは何なのか?
答えは、
US盤LPの"Strawberry Fields Forever":1966年12月29日 1stミックス/リミックス3
である。
マーク・ルーイスンの「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ」にはこの様な記述がある。
1967年11月7日
・テープ・コピー:以下の曲がテープ・コピーされ、米キャピトルから派遣されたヴォイル・ギルモアがアメリカへ持ち帰った
"I Am The Walrus"(リミックス・モノ23)
"Your Mother Should Know"(リミックス・モノ25)
"Flying"(リミックス・モノ6の編集バージョン及びリミックス・ステレオ1の編集バージョン)
"Magical Mystery Tour"(リミックス・モノ10及びリミックス・ステレオ6)
"Blue Jay Way"(リミックス・モノ27の編集バージョン及びリミックス・ステレオ12の編集バージョン)
"The Fool On The Hill"(リミックス・モノ12の編集バージョン)
"Strawberry Fields Forever"(リミックス・ステレオ3)
ということで、こういうことなのだろう。
US盤LP、他(日本盤LP、UK盤LP等)
1966年12月29日 1stミックス/リミックス3
ドイツ盤LP(B面マト「B3」)、他(CD等)
(後にCD等で使われ、現在このミックスが標準)
1971年10月26日ミックス
なお、1966年12月29日 2ndミックス/リミックス5は作られたものの、結局は使われることは無かった、というのが定説となっている様である(※)。
(※) ビートルズ研究家の間でも話題になっているので色々と探ってみたが、リミックス5の音源は公式はおろか、非公式(ブートレッグ)でも世に出ていない様である。リミックス3の仕上がりが良くないとしてリミックス5を作ったものの、上手くいかなかったのでボツになった、ということなのだろう。
これにて一見落着である。
と、ここでネットを見ていたら、ジョン・バレットのメモなるものを見つけた。John Barret notesと呼ばれるものである。
1966年12月29日の欄にこの様な記述がある。
1966年12月29日、"Strawberry Fields Forever"のステレオ・リミックス1〜5の作業を実施
前半部分/リミックス1と後半部分/リミックス4を繋げてリミックス5を作成
ボーカルが目立ち過ぎていて良くない(Not good too much vocal)
後の1971年10月22日付ミックスを参照
1967年11月(日付不明)の欄にこの様な記述がある。
ヴォイル・ギルモアが持ち帰った米キャピトル向けのコピー・マスター
"I Am The Walrus"(リミックス・モノ23)
"Your Mother Should Know"(リミックス・モノ25)
"Flying"(リミックス・モノ6)
"Magical Mystery Tour"(リミックス・モノ10)
"Blue Jay Way"(リミックス・モノ27)
"The Fool On The Hill"(リミックス・モノ10)
"Blue Jay Way"(リミックス・ステレオ12)
"Magical Mystery Tour"(リミックス・ステレオ6)
"Strawberry Fields Forever"(リミックス・ステレオ6)(※)
"Flying"(リミックス・ステレオ1)
(※) 正しくはマーク・ルーイスンの調査によるリミックス3というのが定説である。なお、リミックス6は作成記録も無く、実際には存在しない。リミックス6との記述は、米キャピトル向け(US盤LP用)のリミックス3のコピーにリミックス6と番号が振られていた、ないしはジョン・バレットの単純な誤記入、そのいずれかと思われる。
1971年10月22日の欄にこの様な記述がある。
1971年10月22日(※)、"Strawberry Fields Forever"の新ミックスをロンドンのAIR(AIR Studios:EMIから独立したジョージ・マーティンが運営するスタジオ)にて作成
リミックス5とほぼ同じ箇所で編集されている(前半と後半が繋がれている)
(※) 正しくはマーク・ルーイスンの調査による1971年10月26日というのが定説である。
これらジョン・バレットのメモを見ると、リミックス5にフォーカスが当たっている。はたまた米キャピトルに渡したコピー・マスターはリミックス6となっている。その一方で、リミックス3に対する記述は無い(ジョン・バレットは、リミックス3はボツになったものと認識していたということか?)。
後のマーク・ルーイスンの調査によりUS盤LPに使用されたのはリミックス3であることが判明する訳だが、ジョン・バレットのメモはやや正確性に欠ける様である。
が、ここでジョン・バレットのメモには非常に興味深い記述がある。
1966年12月29日の「ボーカルが目立ち過ぎていて良くない(Not good too much vocal)」との記述だ。
これは、1966年12月29日のミックスは、リミックス3にしろ、リミックス5にしろ、ジョージ・マーティンは「ボーカルが目立ち過ぎていて良くない」と見做しており、つまりは"未完成"だった、言い換えれば"試作品"だった、ということを示唆している。
そして、ステレオ・ミックスの作成は、そのまま放っておかれた…
そう捉えると、1967年11月に米キャピトルへは"試作品"であるリミックス3のコピーが渡された、ということになる。
もしかすると、米キャピトルから「ステレオ・ミックスがあるのなら、何でも良いから寄越せ」と要求があったため、EMIは"試作品/リミックス3"のコピーを"米キャピトル用マスター/リミックス6"と名付けた上で同社に渡した、というのが真相なのかも知れない。
そして、その後1971年10月26日に改めてミックスを行い、 "正式なステレオ・ミックス"が完成した…と。
以上、ごちゃごちゃと書いてしまったが、要はこういうこと。
1966年12月29日、"Strawberry Fields Forever"のステレオ・ミックスが行われた。
まずは1stミックス/リミックス3が作られたが、後半の仕上がりがあまり良くなかったため、2ndミックス/リミックス5が作られた。
だが「ボーカルが目立ち過ぎていて良くない」ということで、結局は"試作品"扱いとなり、一旦そのまま放っておかれることとなった。
1967年11月、US盤LP「マジカル・ミステリー・ツアー」用の音源が米キャピトルに渡された。その中には"Strawberry Fields Forever"のステレオ・ミックスも含まれていた。
米キャピトルの「ステレオ・ミックスがあるのなら、何でも良いから寄越せ」との要求に対して、"試作品/リミックス3"のコピーが"米キャピトル用マスター/リミックス6"と名付けられた上で、同社に渡された。
1971年、従来ステレオ・ミックス未作成の曲についてステレオ・ミックスが作られた。9月30日の"Penny Lane"、10月22日の"Baby, You’re A Rich Man"である。
それに乗じる形で、10月26日に"Strawberry Fields Forever"のミックスが改めて行われ(前半も後半も改めてミックスし直し)、"正式なステレオ・ミックス"が完成した。
この"Strawberry Fields Forever"の1971年10月26日ミックスはドイツ盤LP(B面マト「B3」)「マジカル・ミステリー・ツアー」に収録された。
後にCD等で使われるなど、現在では標準のミックスとなっている。
以上、マーク・ルーイスンの書籍とジョン・バレットのメモをもとに一部想像を交えつつ、あれこれ推察してみた。少々想像を膨らませてはいるが、結構ありそうな話と思う。
どうだろうか…
2. B面の全曲ステレオ化について
先に記載通り、B面/B3〜5の3曲は、1967年に発売のUS盤LP(ステレオ)では擬似ステレオである。
1971年9月頃に発売のドイツ盤LP第1版(B面マト「B1」)でも擬似ステレオである。
で、1971年12月17日にB面が再カッティングされ、1972年初頭(1月頃)に発売のドイツ盤LP第2版(B面マト「B3」)からリアル・ステレオとなる。
ここでは、B面/B3〜5の3曲がドイツ盤LP第2版(B面マト「B3」)に収録されるまでの経緯などについて、あれこれ書いてみようと思う。
♪
Penny Lane
Baby You're A Rich Man
All You Need Is Love
この3曲のステレオ・ミックス作成日および作成理由について、マーク・ルーイスンの書籍にこの様な記述がある。
「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ」
"All You Need Is Love":1968年10月29日
サウンドトラック・アルバム「イエロー・サブマリン」のためのステレオ・リミックス("Hey Bulldog"なども同日に実施)
「ザ・ビートルズ/全記録 コンプリート・ビートルズ・クロニクル」
"Penny Lane":1971年9月30日
"Baby You're A Rich Man":1971年10月22日
西ドイツ盤「マジカル・ミステリー・ツアー」のために、 それぞれ1971年9月30日と10月22日に初めてステレオ・ミックスが作られた
"All You Need Is Love"は、1967年7月7日にUKシングルが発売されているので、それから1年以上経って、 1969年1月発売のアルバム「イエロー・サブマリン」のためにステレオ化されたものということだ。実際にアルバムにも使用されている。
で、このステレオ音源が、ドイツ盤LP(B面マト「B3」)「マジカル・ミステリー・ツアー」に使われたという訳である。
但し、フェードアウトがやや早く、数秒短くなっている("In the Mood"の2回目のフレーズの頭で音が消えてしまう)。
勤勉・真面目な国民性のドイツがイタリア盤やスペイン盤の様な"やらかし"(※)をするとは考え難いので、何らかの理由があるのだろう(テープのヒスノイズが気になった? テープに傷が付いていた?)。
(※) イタリア盤「ホワイト・アルバム」での"Happiness Is a Warm Gun"、イタリア盤「アビイ・ロード」での"I Want You (She's So Heavy)"、スペイン編集盤「Por Siempre Beatles(永遠のビートルズ/ビートルズよ、永遠に)」での"Strawberry Fields Forever"
と、ここでドイツの"やらかし"を発見した。
レーベル面に"3:58"と曲の長さが記載されているが、これはモノラル・ミックスの長さであり、ステレオ・ミックスではそれよりも10秒ほど短い。かつこのドイツ盤LP(B面マト「B3」)ではさらに数秒短い。
モノラル・ミックスの擬似ステレオが使われたUS盤LP用の音源による第1版(B面マト「B1」)の名残りなのだろう。そこまで目が届かなかったか…
"Penny Lane"と"Baby You're A Rich Man"は初めてのステレオ化で("Strawberry Fields Forever"の様に"試作品"も作られていなかった)、ドイツ盤LP「マジカル・ミステリー・ツアー」のために作られたということである。
ただ、この記述には疑問も残る。この2曲のステレオ化直前の1971年9月頃に、B面/B3〜5が擬似ステレオのドイツ盤(B面マト「B1」)「マジカル・ミステリー・ツアー」が発売されているからである。
1970年代になってステレオが常識となったため、EMIはカタログ整理を目的にモノラル・ミックスしか無かった楽曲のステレオ化を図った("Strawberry…"もミックスし直した)。それを知ったElectrolaは、 "Penny Lane"、 "Baby You're A Rich Man"、 "Strawberry Fields Forever"、 "All You Need Is Love"のステレオ・ミックスをEMIより取り寄せて差し替えた(B面マト「B3」)… というのが実態ではないだろうか。
いずれにしても「マジカル・ミステリー・ツアー」はこのドイツ盤LP(B面マト「B3」)で晴れてB面が全曲ステレオ化となった訳である。
しかも"Penny Lane"と"Baby You're A Rich Man"はステレオ・ミックス初登場、"Strawberry Fields Forever"は正式なステレオ・ミックス初登場ある。
ビートルズ・レコード史の中でも価値に高い1枚と言えよう。
3. ジャケットのデザインについて
同じアルバム・タイトル、同じ収録曲にも関わらず、US盤とドイツ盤はジャケットのデザインが違う。デフ・ジャケである。
このドイツ盤は、Electrolaとテレビ・ラジオ番組雑誌として名を馳せていたHÖR ZUがタイアップして発売したものである。
おそらく、HÖR ZUとしては「US盤と同じデザインでは芸が無い」と考えたに違いない。
具体的なデザイナーは不明だが、HÖR ZUの社内デザイナー部門があれこれ検討して作ったものなのだろう。
US盤に負けず劣らずのデザインで、洗練度で言えばドイツ盤の方が上だとも思う。
4. 裏ジャケットのライナーノーツについて
裏ジャケットの右下にこのアルバムの説明文が書かれている。
テレビ放映された小さくて大きなカラー映画:ビートルズの「マジカル・ミステリー・ツアー」がついに登場。大きな黄色いバスに乗って、ポップ・ミュージックの約束の地(Promised "Pop" Land)へと向かう、クレイジーでマジカルな旅。乗客にはリンゴのおばさん、スピネッティ軍曹、期待の新人マギー、小さなニコラ、そしてビートルズ。このレコードには映画の楽曲が満載だ。
さらに、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人がまだ共にビートルズしていた(beatelten)時代の素晴らしい名曲を5曲追加。今や"クラシック"とも呼べるレノン=マッカートニーの楽曲を再び聴ける喜び。あのボーカル、無駄の無い芸術的なギター、そしてフィルハーモニックな装飾("Penny Lane"のバッハ・トランペット)。内側には真っ黒なレコード盤、外側にはカラフルなジャケットの、不朽のフィナーレ"All You Need Is Love"を収録した、ハッピーな一枚だ。
短いながらも、端的にアルバムを紹介している。
"Gelobte Popland (Promised Popland)"は聖書に由来する"Gelobte Land (Promised Land、 約束の地)"を捩ったものだったり、"beatelten"は「ビートルズする」を意味する造語だったりと、表現も面白い。
このアルバムへの期待感を煽る、上手い文章だと思う。
5. 音について
アルバム「マジカル・ミステリー・ツアー」ステレオ盤については、US盤、日本EAS盤、ドイツDDM盤が手元にある。どの盤もそれぞれに特徴があり、愛着を持っている。
だが、音の良さで言うならば、このドイツ盤(B面マト「B3」)が頭一つ抜けている。
高音の伸びから低音の深さまでバランスが良く、確りとした音圧もある。そして何よりも音の鮮度が高い。
ElectrolaはEMIから特別にジェネレーションの若いテープを手に入れている、Electrolaは特別にマスターテープに近いテープを使っている、という真偽不明の説があるが、信じてしまうほど鮮度の高い音なのである。
実際には、Electrolaだけが特別なテープを使っているなどということは考え難く、同社の高いプレス技術がその様に感じさせているのだろう。
アルバム「マジカル・ミステリー・ツアー」ステレオ盤の中では、このドイツ盤(B面マト「B3」)が音の面では最高位と思う。

6. まとめ
以上、ミックス違い・バージョン違い、初ステレオ化音源収録、ジャケット・デザイン、ライナー・ノーツ、音の鮮度… と、長きにわたってあれこれ書いてきたが、とにかくドイツ盤LP(B面マト「B3」)「マジカル・ミステリー・ツアー」は他の盤に比べて頭一つ抜けていると言えよう。
"決定版"と言っても差し支えないのではないか、と思う。
だが、一点、劣るところがある。
US盤はゲートフォールド・ジャケットで豪華なブックレットが付いているが、ドイツ盤はシングル・ジャケットでブックレットが付いていない。
やっぱり「マジカル・ミステリー・ツアー」には、あの豪華なブックレットがあった方が良いよな…と。
ということで、ドイツ盤だけあれば良いという訳にはいかない。
それに、一番音の良い盤だけあれば充分という訳でも無い。
それぞれの盤には、それぞれの良さや楽しさ、面白さがある。
「ビートルズは聴く度に新しい発見がある」とはB-SELSのご店主の言葉だが、色々な盤を聴くからこそ楽しめる世界がある訳で、その意味では"決定版"というものは無いのかも知れない。
まだまだ、"マジカル・ミステリー・ツアー"は続く…
そんな訳で、春にもなってしまったし、そろそろ行かなければ…
(追記)
この記事について、B-SELSで紹介いただきました。
過分なお言葉をいただき、恐縮です。
ご店主、ありがとうございます。




















