レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

Tattoo You / Rolling Stones【インド盤】

前回の「レコード評議会」では、2026年5月25日に95歳で亡くなられたソニー・ロリンズを採り上げた。

 

ソニー・ロリンズはジャズ史上で非常に大きな存在であり、 様々な呼称で語られてきた。

一例を挙げると…

Jazz Giant:ジャズの巨人

The Last Giant of Jazz:ジャズ界最後の巨人

Jazz Saxophone Giant:ジャズ・サックスの巨人

Tenor-Saxophone Giant:テナー・サックスの巨人

Colossus of the Saxophone:サックスの巨人

Saxophone Colossus:サックスの巨人

Living Legend:生ける伝説

 

 

ということで、今回もソニー・ロリンズを採り上げたい。

 

 

Rolling Stones

Tattoo You

インド盤(1981年)

Rolling Stones Records / The Gramophone Company Of India Ltd.

CUNS 39114

SideA:28645  CUNS 39114A・1   3 4   6

SideB:28646  CUNS 39114B・1   1 0   5


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SideA

 1. Start Me Up

 2. Hang Fire

 3. Slave

 4. Little T&A

 5. Black Limousine

 6. Neighbours

SideB

 1. Worried About You

 2. Tops

 3. Heaven

 4. No Use In Crying

 5. Waiting On A Friend

 

 

ローリング・ストーンズの1981年アルバム「刺青の男」。そのインド盤である。

 

 

本作は、当時ミック・ジャガーキース・リチャーズの仲が良く無く、曲作りが進まなかったため、過去のセッションから未完成のままとなっていた楽曲にオーバーダビングを施して完成させたアルバムなのだという。

 

各曲のベーシックトラックは以下のアルバム・セッションの際に録音されたものとのこと。これに1980年10〜11月と1981年4〜6月のセッションで、ボーカルや楽器がオーバーダビングされた、という訳である。

 

アルバム「Goats Head Soup:山羊の頭のスープ(1973)

  B2. Tops

  B5. Waiting On A Friend

 

アルバム「Black and Blue」(1976)

  A3. Slave

  B1. Worried About You

 

アルバム「Some Girls:女たち(1978)

  A1. Start Me Up

  A5. Black Limousine

 

アルバム「Emotional Rescue」(1980)

  A2. Hang Fire

  A4. Little T&A

  A6. Neighbours

  B3. Heaven

  B4. No Use In Crying

 

つまり、アウトテイクの寄せ集めアウトテイク集とも言えるアルバムなのである。

 

だが、その様な経緯にも関わらず、アルバム全体としてまとまりがあり、評価も高い。

ベーシックトラックのレコーディング時期がバラバラの楽曲を統一感のあるサウンドに仕上げたのはエンジニアの功績もあるだろう。だが、いつの時代も変わらぬ「偉大なるマンネリローリング・ストーンズだからこそ、とも思う。

 

 

…と、ここで「何でローリング・ストーンズのアルバムの話をしているんだ?ソニー・ロリンズはどうした?」と思われる方がいるかも知れない。が、大いに関係あるのである。

 

実はこのアルバム、ジャケットにクレジットは無いが、3曲でソニー・ロリンズが参加しているのだ。

"Slave"、"Neighbours"、"Waiting On A Friend"の3曲でテナー・サックスのソロを取っているのである。

 

"Slave"と"Neighbours"では時折フリーキーなフレーズを交えた熱いプレイを聴くことが出来る。

そして、何と言っても"Waiting On A Friend"、これが素晴らしい。はっきり言って名演なのである。

 

"Waiting On A Friend"は、そのタイトル通り友情をテーマとしたミドルテンポの曲で、「友を待つ」との邦題が付けられている。

チャーリー・ワッツのドラムとクリアトーンのギターによる大らかでリラックスしたリズム。ニッキー・ホプキンスのピアノの優雅な響き。

それらをバックにプレイするソニー・ロリンズ。曲の中間とエンディングで奏でられるテナー・ソロは、まるで歌っているかの様でもあり、空を翔ぶかの様でもある。メロディを尊重しながらも自由に飛翔するそのアドリブは、正にソニー・ロリンズの真骨頂と言えるだろう。

 

ジャズの巨人たるソニー・ロリンズの名演は数多くあるが、 このローリング・ストーンズのロック・アルバムにも、 彼ならではの素晴らしいプレイが刻まれている。

間違いなく名演のひとつだと私は思う。

 

 

さて、本盤であるインド盤について触れておこう。

 

英米の大手レコード会社では、レコードのカッティングは1960年代終わり頃から真空管カット(tube cut)からトランジスタ・カット(solid-state cut)に移行している。

前者はカッティング・アンプに真空管を使ったもので、中音域が豊か、音に厚みがある、音像が大きい、などの特徴がある。

後者はカッティング・アンプにトランジスタを使ったもので、解像度が高い、高音域が伸びる、低音域が締まっている、などの特徴がある。

 

で、このインド盤なのだが、1981年にも関わらず、真空管カットなのである。

インドゆえか、以前からの真空管アンプを使い続けていたという訳なのである。

 

では、肝心の音はどうかと言うと、これが良い。

オーバードライブの掛かったギターが気持ち良い。

そして何より、中音域が豊か、音に厚みがある、音像が大きいという真空管カットの良さが、ソニー・ロリンズのテナー・サックスの響きに合っている。

 

名演を良い音で聴く歓びがここにある…

 

 

ところで、そもそも何故ソニー・ロリンズローリング・ストーンズのアルバムに参加しているのか?

この様な経緯だったとのことである。

"Slave"、 "Neighbours"、 "Waiting On A Friend"の3曲にサックスのソロを入れようと思ったミック・ジャガーだったが、今回はボビー・キーズ(多くのアルバムに参加しており、 "Brown Sugar"でのソロが有名)では無く、ジャズマンにサックスを吹いてもらおうと思い立った。

 

そこでジャズ愛好家であるチャーリー・ワッツに「最高のサックス奏者は誰だ?」と尋ねた。

チャーリーは「絶対来るはずがない」と思いつつ、「ソニー・ロリンズだ」と答えた。

 

そこでミックはロリンズに接触。

数日後、ロリンズはスタジオ入りし、3曲でテナー・ソロを吹いた。

チャーリー・ワッツは、スタジオに来ていたロリンズを見て、思わず感嘆の声を上げたという。

 

ミック・ジャガーは後年の1985年、雑誌「Musician」のインタビューで当時について次のように振り返っている。

ソニー・ロリンズと仕事をするなんて、かなりびびっていたよ。何しろサックスの巨人だからね。

チャーリーは「そんな人がローリング・ストーンズのレコードで吹いてくれるはずないだろ!」と言っていたよ。でもオレは「いや、来てくれるさ」と答え、実際そうなった。素晴らしいプレイだったよ。

オレが「スタジオに残っていた方がいいかな?」と聞くと、彼は「どこでどう吹いて欲しいのか言ってくれ、そこで踊って見せてくれ(身振り手振りで示してくれ)」と言ったんだ。そこで、オレはそうしたよ。身振り手振りでもダンスでもコミュニケーションは大事だ。バレエを丸ごと踊る必要はないけど、肩を少し動かすことで「ここで入ってくれ」というタイミングを相手に伝えられることもあるしな。

I had a lot of trepidation about working with Sonny Rollins. This guy's a giant of the saxophone. Charlie said, He's never going to want to play on a Rolling Stones record! I said, Yes he is going to want to. And he did and he was wonderful. I said, Would you like me to stay out there in the studio? He said, Yeah, you tell me where you want me to play and DANCE the part out. So I did that. And that's very important: communication in hand, dance, whatever. You don't have to do a whole ballet, but sometimes that movement of the shoulder tells the guy to kick in on the beat.

 

そして、チャーリー・ワッツは2010年、イギリスの新聞「The Guardian」のインタビューで次のように回想している。

昔からソニーが好きだった。彼のレコードを初めて聴いたのは、私が15歳か16歳の頃だった。最初はマックス・ローチとクリフォード・ブラウンとの作品、 それからマイルスとの作品、 もちろん彼自身のリーダー作も聴いた。

初めて彼を観たのは1964年、52丁目にあったオリジナルのバードランドでのトリオの演奏だった。ソニー・ロリンズを前にしているなんて、本当に感動ものだ。その時、 彼は凄いことをやっていた。楽屋で一人で吹き始め、 そのまま演奏しながらステージへ出て来た。そして会場を歩き回り、 壁や空間に音を反響させながら演奏していたんだ。本当に驚いた。あんなことをする人は初めて見たね。

My love for Sonny goes back a long way. I would have been 15 or 16 when I first played his records, first with Max Roach and Clifford Brown, then his stuff with Miles, and then of course on his own. I first saw him in 1964 in the original Birdland club on 52nd Street, playing with a trio. To sit there and watch Sonny Rollins, my God! In those days he did this fantastic thing: he used to start playing in the dressing room with no band, then walk out and go around the stage, using the room to bounce the sound off. It was amazing. I'd never seen anyone do that.

 

彼はとても洒落ていて、格好が良かった。今でもそうだ。私達はニューヨークで同じ仕立て屋を利用しているんだが、ソニーは今でも実に粋な男だ。驚くばかりだ。髭も髪もすっかり真っ白になったけど、それがまるで晩年のサミュエル・ベケットのようなんだ。

He was incredibly hip and looked fabulous, and he still does. We have the same tailor friend who makes our clothes in New York, and Sonny is still a very sharp man. He looks amazing. He's gone perfectly white in his beard and hair; it's like Samuel Beckett when he got old.

 

幸運なことに、私は彼と多少の付き合いを持つことが出来た。ミック・ジャガーがストーンズの"Waiting On A Friend"に入れるテナー奏者について尋ねてきたので、私がソニーを推したんだ。

彼はその曲を録音した後、もう1曲やってみたいと言った。かなり荒っぽいロックンロールの"Neighbours"だったが、彼はそこでも素晴らしい演奏をしてくれた。

残念ながらオーバーダビングだったので、一緒に演奏することはなかった。でも、それで良かったのかも知れない。そうなっていたら、きっとその場に座りながら「なんてこった、ここで私は一体どうすればいいんだ?」と思っていただろうし、そんな最高峰の人と一緒にいたら、自分がまるで場違いな人のように感じていただろうからね。

I've been fortunate enough to get to know him a bit. Mick [Jagger] asked me about a tenor player for the Stones' Waiting on a Friend and I suggested Sonny. He did that song then wanted to have a go at another one, a real lairy rock'n'roll thing called Neighbours. He played great on it. It was an overdub, unfortunately, so we never played together. Probably just as well. My goodness, I'd sit there and think, 'bloody hell, what am I going to do here?' I'd feel like an impostor, because that's the highest company you can keep.

 

一方で、ソニー・ロリンズは2020年、新聞「The New York Times」インタビューで、次のように語っている。

ミック・ジャガーについて言えば、私が何を演っているのか彼は分かっていなかっただろうし、一方で彼のことを私も分かっていなかったと思う。

あの録音を引き受けるよう強く勧めたのは妻だった。最初、私はこう言ったんだー「ローリング・ストーンズ?そんなレコードに参加するなんて、ごめんだよ」とね。今にして思えば間違っていたが、当時は彼らをジャズと同じ土俵の音楽だとは考えていなかったんだ。ところが妻は「何を言っているの、絶対にやるべきよ」と言うんだ。それで私は「分かったよ。彼らに上手く合わせられるかやってみよう。出来る限り良い演奏になるようにしてみよう」と言ったんだ。

Mick Jagger, I don’t think he understood what I was doing, and I didn’t understand what he was doing. My wife was the one that persuaded me to do that recording. I said: “Man, the Rolling Stones. I don’t want to do any record with the Rolling Stones.” I’d considered them — and it’s faulty — not on the level of jazz. But my wife said, “No, no, you must do it.” So I said, “OK, let me see if I can relate to what they are doing; let me see if I can make it sound as good as possible.”


彼らがとても人気のあるロック・バンドだということは知っているよ。だけど、多くの黒人ミュージシャンの音楽を下敷きにしたバンドだろう? そうじゃないのかな?

まあ、私がそう感じるのは間違っているのかも知れない。白人ミュージシャンにも好きな人はたくさんいるしね。ビートルズは好きだよ。ポール・マッカートニーなんて素晴らしいソングライターだ。

だけど、ローリング・ストーンズにはあまり共感できなかったんだ。黒人ブルースの模倣に過ぎないと思っていたからね。

ただ、こんなことがあった。ニューヨーク州ハドソンのスーパーマーケットにいた時、店内でトップ40の曲が流れていたんだが、ある曲を聴いて「このサックスを吹いているのは誰だ?」と思った。妙に心を惹かれる演奏だったんだ。で、気づいたー「ちょっと待てよ、これ、私じゃないか!」ってね。あの時のローリング・ストーンズのレコードでの演奏だったんだ。

I know they’re a very popular rock band, but they were derivative of a lot of black bands, right? Isn’t that what they do?

Well, yeah. Right. It might be wrong for me to feel that way because I do like a lot of white artists. I like the Beatles. Paul McCartney is a good tunesmith. But the Rolling Stones, I didn’t relate to them because I thought they were just derivative of black blues. I do remember once I was in the supermarket up in Hudson, New York, and they were playing Top 40 records. I heard this song and thought, Who’s that guy? His playing struck a chord in me. Then I said, “Wait a minute, that’s me!” It was my playing on one of those Rolling Stones records.

 

 

面白いものである。

ミック・ジャガーは、呼んだのは良いものの、ジャズ界の大物を前にびびっていた。

チャーリー・ワッツは、来るはずが無いと思っていた憧れの人を前に固まっていた。

ソニー・ロリンズは、ストーンズの音楽に共感出来ず、当初は乗り気では無かった。

 

それにも関わらず、名演が生まれた。

ニューヨーク州ハドソンのスーパーマーケットで流れていた曲は間違い無く"Waiting On A Friend"である。

乗り気で無かったソニー・ロリンズだったが、彼自身が心を惹かれる名演が生まれた訳である。

 

面白いものである。

 

 

最後に、前掲の「The Guardian」でのチャーリー・ワッツのインタビューの続きを載せておく。

強烈に輝いてすぐに消えていく人もいる。一方で、輝き続けながら長く活動を続ける人もいる。そういう人には敬意を抱かずにはいられない。

ソニーはこれまで一度たりとも駄作を作ったことが無い。もちろん作品によって出来の差はある。だが、悪いレコードは一枚も無い。

彼が立ち上がり演奏を始めれば、畏敬の念を抱かずにいられるサックス奏者などいない。彼は最後の一人だ。そして今なお、昔と変わらぬ素晴らしい演奏を続けている。今でもなお、自分のやるべきことの頂点に立ち続けている。音楽には本来、年齢による限界など無いのだと思わせてくれる。もっとも、それほどのレベルを維持することが出来る人はごく僅かだ。

数年前にご夫人を亡くしたことは、彼にとって本当に辛い出来事だった。それ以来、以前より人付き合いを避けるようになったが、それでも私たちは時々電話で話をする。

彼は単なるサックス奏者では無い。もっと特別な存在だ。 象徴的な存在だ。自ら声高に主張しなくても、人を導くことが出来る。

私はこう思う。もしソニーが戦場へ向かうと言ったなら、きっと皆が彼について行くだろう、と。
 

There are people who burn bright and fade quickly, and there are those who burn bright and keep going. You have to admire that. Sonny has never made a bad record – ever; some are simply greater than others. When he stands and plays, there isn't a saxophone player who doesn't look on in awe. He's the last one standing, and he's still playing as well today as he was then. He's still at the peak at what he does. It's great inspiration that there isn't really a time limit, but very few people can do it at that level.

His wife died a few years ago and it hit him very hard. He became much more reclusive, but we ring each other now and then. He's not just a saxophone player, he's something else. He's iconic, a leader without having to explicitly say it. I think you'd follow Sonny into war.

 

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R.I.P.