一時期、ビートルズのシングル盤やEP盤に凝っていたことがある。
英国オリジナル盤のみならず、ヨーロッパ各国の盤をDiscogsでせっせと集めていた。
今回の「レコード評議会」の議題は、そんな中で手に入れたこの一枚。
All You Need Is Love(7" Single)
ユーゴスラビア盤(1967年)モノラル
Parlophone / Jugoton
SP-8137
SideA:SP-8137A 21867-22867 MK-7P-VP
SideB:SP-8137B 21867-22867 MK-7P-VP
A:All You Need Is Love
B:Baby, You're A Rich Man
ビートルズの英国シングル盤(1962年から1970年までの22枚)は2枚(※)を除きカンパニースリーヴだ。
※ "Strawberry Fields Forever / Penny Lane"(1967年)と"Let It Be"(1970年)の2枚のみピクチャースリーヴ。
一方で、ヨーロッパ各国の盤には、ビートルズの4人の写真をあしらったピクチャースリーヴが多い。
この"All You Need Is Love"(邦題:愛こそはすべて)のユーゴスラビア盤もピクチャースリーヴだ。だが、4人の写真ではない。
ニューヨーク/自由の女神とパリ/エッフェル塔が描かれている地球、スプートニクのような人工衛星、地球をまたぐようなMondovizijaとの文字。
Mondovizijaはどうやらクロアチア語で、英語にすればMondovision、訳すとテレビの大陸間衛星中継。
そう、この絵は、1967年6月25日から26日にかけて放送された世界初の大陸間衛星中継のテレビ番組「OUR WORLD(われらの世界)」を表したものなのだ。
ビートルズが英国代表として「OUR WORLD」に出演したのは有名な話だ。
この番組のためにジョンが書き下ろした"All You Need Is Love"をEMIレコーディング・スタジオ(後にアビー・ロード・スタジオと改名)でレコーディングする様子が放映されている。
ミック・ジャガー、キース・リチャード、エリック・クラプトン、キース・ムーン、グラハム・ナッシュらもコーラスで参加している。
ということで、"All You Need Is Love"のシングル盤のためにこの絵が描かれた訳だ。
ヘタウマと言うか、子供が描いたような絵で、何とも味わいがある。
そして、このシングル盤にためにわざわざ絵を描いたところに、「OUR WORLD」を視聴したユーゴスラビアの人達の感動の大きさと熱意が感じられる。
裏面にはクロアチア語(?)で何やら書かれている。
残念ながら何が書かれているのか全く分からないが、その感じからすると、どうやらライナーノーツのようだ。
そうだとすると、シングル盤でライナーノーツというのは珍しい。
ここでもユーゴスラビアの人達の熱意が感じられる。
で、レコード盤だが、英国と同様にモノラル。
UKマザーではなく、ユーゴスラビア独自カッティングだ。Jugoton(ユーゴトン、ユーゴスラビアのレコード会社)が手掛けたものなのだろう。
そして肝心の音はどうかと言うと…
A面:All You Need Is Love
鮮度が高いとか、キレが良いとか、音圧が凄いとかいうこともなく、いわゆる良い音ではないのだろう。だが、音の響きが独特で、何とも悪くない。
空気感がツボなのか、クセになる音なのだ。
絵で言うならば、いわゆる上手い絵ではないのだが、そのヘタウマなところが、何とも味わいがあって良い、といった感じ。
B面:Baby, You're A Rich Man
「♪ ♬ ♪ ♬ ♪ ♬ ♪ ♬」というリズムで始まるところが、冒頭の一音が抜け落ちている。
「 ♬ ♪ ♬ ♪ ♬ ♪ ♬」になってしまっているのだ。
カッティングの際に、ミスをしたのだろう。
おいおい、いい加減な作りだなあ… このレコード、熱意を持って作っていたんじゃないの?B面だから手を抜いたのか?
でも、音はA面と同様に、響きが独特で、クセになる音だ。
感動と熱意のピクチャースリーヴ、独特な響きの独自カッティング、でもB面はいい加減、といったレア物… これはこれであり。
ところで、ユーゴスラビア(Jugoslavija、南スラヴ人の国)という国だが、今はもう無い。
1967年当時の正式国名は、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国。
スロベニア、クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、マケドニアといった6つの国家からなる連邦国家だった。
「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と言われていた。
民族独立の機運が高まり、1991年から2001年までの間に起こった一連の内戦(スロベニア独立戦争、クロアチア独立戦争、ボスニア紛争、コソボ紛争、プレシェヴォ渓谷危機、マケドニア紛争)を経て解体された。
今では、スロベニア、クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニア、コソボとなっている。
後にそんな歴史を辿ることになるユーゴスラビアで1967年に作られたのが、このレコード。
何とも言えない感慨を覚える。