"Come Together / Something"のイタリア盤シングルを、一つ前の記事で採り上げた。
Come Together / Something / The Beatles(オランダ盤、イタリア盤)
そこで、イタリア盤はトランジスタカッティングではなく、チューブカッティング(真空管カッティング)なのではないか?と書いた。
本当にそうなのか?
ということで、今回の「レコード評議会」はこれを議題に挙げる。
イタリア盤(1969年)
Apple Records / EMI Italiana S.p.A.
3C 062-04243 / PMCQ 31520
SideA:04243-A - 12-9-69 - I
SideB:04243-B - 12-9-69 - I
「アビイ・ロード」のイタリア盤。
さて、この盤はチューブカッティングなのか?
と、その前に、この盤については書くべきことがあれこれある。
♠︎ マトリックスの 12-9-69
UKマザーではなく、独自カッティング。
手書きのマトリックスなのだが「12-9-69」との数字が刻まれている。
もしかして…と思い、調べてみたところ、イタリアでは年月日は「日月年」の順で記載されるとのこと。
とすると「12-9-69」は「1969年9月12日」となる訳だが、この日付はカッティングをした日なのではないだろうか。
英国で「アビイ・ロード」は1969年9月26日にリリースされている。アメリカでは10月1日。日本では10月21日。
イタリアでのリリース日は分からないが「1969年9月12日にカッティング→プレス→9月末頃から10月初にリリース」ということなのだろう。
♥︎ ステレオ盤?モノラル盤?
レーベルに「STEREO」と「MONO」両方表記されている。
一瞬、ステレオ盤、モノラル盤どちらなのか?と思ったが、普通に考えればステレオ盤。
ステレオ盤だけど、モノラル針で聴いたら、モノラルとしても聴けますよ、ということなのだろう(当たり前だが、モノラル盤をステレオ針で聴いてもモノラルでしか聴こえない…)。
で、実際この盤はステレオ盤。
♦︎ I Want You(She's So Heavy)
1969年8月11日、ビートルズの4人はこの曲のオーバー・ダビングのために集まったのだが、この時のセッションがメンバー全員による最後のセッションになったのだという。
ジョンがヨーコに捧げた曲なのだが、ヘビーというか、狂おしく、重苦しい感じの曲。
ホワイトノイズに包まれつつ繰り返されるヘビーなリフが、スパッと唐突にカットアウトするエンディング。
苦悩の末に突然意識を断ち切られたような感じで、このエンディングのカットアウトこそがこの曲の肝と言える。
ミックスダウンした曲を聴いていたジョンが「そこでテープを切れ!」と指示。エンジニアのジェフ・エメリックがその位置でテープを切ったことから、このようなエンディングになったのだという。
で、このイタリア盤なのだが、エンディングはフェードアウトする…
実際に聴いた時、本やネットでフェードアウトするということは知ってはいたのだが、やはり驚いた。
最も肝心なところなのに、フェードアウト…
肩透かしというか、苦笑するしかない…
英国から送られてきたテープを聴いたイタリアのエンジニアが「適当なところでフェードアウトするように、ということなのかな?」と勘違いして、カッティングするに際して、ご丁寧にフェードアウト処理をしたのだろう。
やらかした、というやつだ。
しかし、こういうのは、嫌いではない。
と、あれこれ面白い「アビイ・ロード」のイタリア盤。
さて、この盤はチューブカッティングなのか?
♣︎ チューブカッティング?
トランジスタカッティングのUK盤と聴き比べることで、イタリア盤の音を検証してみた。
UK盤:YEX 749-2 3 HD / YEX 750-1 3 RG
ベースの音が大きい。UK盤の方が音の輪郭がはっきりしているが、イタリア盤は時に重低音でズゥーンと響くのが気持ち良い。
事例:Come Together、Oh! Darling
Here Comes The Sun、The End
ドラムが跳ねるような音。特にバウンドするタム回しが良い感じ。
事例:Something、The End
ギターのオーバードライブサウンドの響きが良い。正にナチュラルオーバードライブな響きがする。
事例:Come Together、Oh! Darling、
I Want You (She's So Heavy)、The End
ストリングスが流麗。ナチュラルな音で流れるような響きがする。流れる音が見えるようだ。
事例:Something、Here Comes The Sun
Golden Slumbers、The End
アナログシンセサイザーの音が柔らく、ふわぁと拡がりのある響きがする。
事例:Maxwell's Silver Hammer
Here Comes The Sun、Because
コーラスがナチュラルで柔らかく、暖かい響きがする。
事例:Oh! Darling、Because、Sun King
You Never Give Me Your Money
以上が、 UK盤との聴き比べで浮き彫りとなったイタリア盤の音。
総じて言えば、 UK盤はすっきりとした音像、クールな印象。
それに対し、イタリア盤はふわっとした音像、柔らかい響き、明るく、暖かい印象。
以上、検証を踏まえての結論は…
イタリア盤はチューブカッティングでしょう。
間違いない。
チューブカッティングと言えばインド盤が有名だが(※)、このイタリア盤もそうだったとは…
※「アビイ・ロード」インド盤の独自カッティングは、チューブカッティング。但しスピードが速く、ピッチが高いとのこと。
チューブカッティング、"I Want You (She's So Heavy)" のフェードアウトと、なかなか貴重で面白い「アビイ・ロード」イタリア盤なのであった。
それにしても、ビートルズのレコードは研究(?)のしがいがあるなぁ…(レコード廃人のやることだけど…)