「レコード評議会」と言いながら、ここのところビートルズしか採り上げていない…
これはいかんな、と思いつつも、先月B-SELS(奈良にあるビートルズのアナログレコード専門店)に行ってからというもの、暇さえあればビートルズを聴いている。
ビートルズは中毒性が高いので(私だけか?)、こうなるとなかなか抜け出せない。
こうなったら、毒を食らわば皿まで(?)ということで、第四次ビートルズ・マイブームの際に入手したレコードの中から「Hello, Goodbye / I Am The Walrus」のシングル盤3枚を採り上げることにする。
Hello, Goodbye(7" Single)
デンマーク盤(1967年)モノラル
Parlophone
R5655
SideA:7XCE 18433-1 KT
SideB:7XCE 18434-1 KT
A:Hello, Goodbye
B:I Am The Walrus
まずは、デンマーク盤。
UKマザーのモノラル盤。英国からメタルマザーを取り寄せ、デンマークでプレスしたものだ。
英国盤はカンパニースリーヴだが、デンマーク盤はピクチャースリーヴとなっている。
但し、写真はぼやけていて、おざなりな感じがしないでもない。
では、肝心の音はどうか…
このレコードがリリースされた1967年当時、デンマークの人口は500万人弱で、英国の1/10、日本の1/20と少ない。
つまりレコードのプレス枚数も少ないわけで、故に鮮度の高い音が期待できる。
で、実際聴いたところ、期待通り鮮度の高い、かなりの良音だ。
A面よりB面のほうが好きなので、そちらを主に書く。
I Am The Walrus
ギコギコいうようなチェロの音が新鮮。
リンゴのドラム、ポールのベースの躍動感がよく伝わってくる。
ファズで加工されたジョンのボーカルが近い。
I am the egg man...でのバックコーラス(Whoo)の響きが良い。
Hello, Goodbye
細部の音が新鮮。コーラスなどで、歌い始めに息を吸う音がリアルに聴こえる。
Hello, Goodbye(7" Single)
フランス盤(1967年)モノラル
Odeon
FO 106
SideA:7XCE 18433 21 M3 256437
SideB:7XCE 18434 21 M3 256438
A:Hello, Goodbye
B:I Am The Walrus
次に、フランス盤。
独自カッティングのモノラル盤。
こちらもピクチャースリーヴ。しっかりした紙を使ったフリップバックカバーで、気合いを感じる。
で、音はどうか?
I Am The Walrus
冒頭のリフが6つ。
(あれ?モノラルは4つではないのか?)
I'm crying のところでもドラムとタンバリンが聴こえる。
(ん?モノラルではカットされているはずだが?)
なんと、モノラルでこんなミックス違いがあったのか!
…いや、違うな。これは、ステレオミックスをモノラルでカッティングした、いわゆる偽モノというやつだ。
この当時のフランスではシングルやEPはモノラルが一般的だったため、英国から送られてきたテープがステレオだったのに、モノラルでカッティングしたのだろう。
ちなみに「Magical Mystery Tour」EPのフランス盤もモノラルだが、Discogsのデータによると"I Am The Walrus"の面はマトリックスがシングルと同じらしい。
ということは、もしかすると「Magical Mystery Tour」EPのフランス盤は全5曲ともステレオミックスをモノラルでカッティングした偽モノなのか?
このようなフランス盤なのだが、偽モノとはいうものの、音は悪くない。
パンチのある、なかなか力強い音だ。
モノラルミックスをカッティングしたUKマザーのデンマーク盤と比べると、ボーカルの押し出しがやや弱いかな?といった印象だが、これはステレオミックスとモノラルミックスとのボーカル音量の違いによるものなのだろう。
なお、sitting in the english garden...のところから音の響きが明らかに変わる。ステレオミックスで擬似ステレオ(※)に切り替わるところなのだが、モノラル化してもはっきりと分かる。
※ 何故擬似ステレオにしたのかは有名な話なので、ここでは割愛。
Hello, Goodbye
こちらの面も、なかなかパンチのある音だ。
音圧が高めなのだろう、ベースやドラムの鳴りが力強い。
あれ、エンディングが5秒ほど長い?
ポールによる最後の掛け声(ンチャ、ンチャ、ンチャ、ンチャ)は、モノラルミックスではフェードアウトで半分聴こえなくなるはずなのに、このフランス盤では最後まで聴こえる。
ということで、こちらもステレオミックスをモノラルでカッティングした偽モノと判明…
Hello, Goodbye(7" Single)
ドイツ盤(1967年)モノラル
Odeon
O 23 660
SideA:7XBE 50147-2
SideB:7XBE 50148-1
A:Hello, Goodbye
B:I Am The Walrus
最後に、ドイツ盤。これも独自カッティングのモノラル盤だ。
このシングル用に描かれたのであろうピクチャースリーヴ。
よく見ると、セスナ機の尾翼にR-PATELLIとの記載がある。Roberto Patelliというグラフィックデザイナーによるイラストらしい。
明らかにアニメ「Yellow Submarine」を意識している。
ポップで、なかなかにいい感じのイラストだ。
で、音はというと…
I Am The Walrus
…フランス盤と同じく偽モノだ。
ただ、同じ偽モノでも、フランス盤に比べると、音の力がやや弱い。音圧が低めなのか?
またベースが大きめなのは良いのだが、ややブーミーな感じ。
Hello, Goodbye
こちらの面も偽モノ。
音の押し出しが今一つ弱い印象で、もう少し迫力が欲しいところ。
ということで、3枚聴き比べをしてみたわけだが、順位を付けるとしたら、こんな感じ(あくまでも個人的な見解です)。
ピクチャースリーヴ
①ドイツ盤:イラストがポップで圧勝
②フランス盤:丁寧な作りが素晴らしい
③デンマーク盤:おざなり感あり…
音の良さ
①デンマーク盤:さすがのUKマザー、鮮度高し
②フランス盤:偽モノながら、パンチのある音
③ドイツ盤:偽モノ、やや迫力不足感あり…
まぁ、それぞれの良さがあるということ。
それにしても、偽モノって、英国から取り寄せたステレオミックスをステレオでリリースせずに、あえてモノラル化してリリースしていたわけか…
モノラルからステレオに移行する時期ならではのことなのだろうが、その国の事情が垣間見れるようで面白い。
そして、ビートルズの偽モノはまだまだあるのだった。
次号に続く…