レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

Sextet / Carla Bley【ドイツ盤】

2023年10月17日、Carla Bleyカーラ・ブレイニューヨーク州北部の町ウィローの自宅で亡くなった。享年87歳。


作曲家、ピアニスト、オルガニスト、バンドリーダーで、"フリー・ジャズの女王"と呼ばれたこともある、ジャズ・ジャイアンツの一人だ。

 

彼女のキャリアを記載する。

 

1936年、カリフォルニア州オークランドに生まれる。出生名はLovella May Borg

ピアノ教師で教会の聖歌隊指揮者の父親からピアノを学ぶ。

 

ミュージシャンを志し、17歳の時にニューヨークに移り住み、ジャズ・クラブ Birdland で煙草売りをしていたところ、ジャズ・ピアニストのPaul Bleyと知り合う。その彼の下で作曲活動を始め、Karen BorgCarla Borgの名前でツアーにも参加。結婚後、Carla Bleyとなる(後に離婚するが、Bleyの姓を名乗り続ける)

 

彼女の作曲した曲は数多くのミュージシャンに採り上げられ、作曲家として名が広まる。Paul BleyGeorge RussellArt FarmerSteve LacySteve KuhnGary Burtonなどが彼女の曲をレコーディングしている。

 

1964年、当時ニューヨークで革新的なミュージシャンが集まったJazz Composers Guildの結成に参加。そこで知り合い、結婚(後に離婚)するMichael Mantlerと共に、1966年にはJazz Composers Orchestra Associationを設立、ミュージシャンが自主運営するレコード・レーベルの先駆けとも言えるJCOA Recordsを立ち上げる。そこで発表されたアルバム"The Jazz Composer's Orchestra"(1968年) や"Escalator over the Hill"(1971年) は傑作とされる。

 

また、この時期のコラボレーションで評価が高いものには、Gary Burton "A Genuine Tong Funeral"(1968年) Charlie Haden "Liberation Music Orchestra"(1971年)がある。

 

この頃の彼女はフリー・ジャズアバンギャルドの色合いが強く、"フリー・ジャズの女王"とも呼ばれている。

 

1972年、Carla BleyMichael Mantlerは自身の作品を専門に発表するレコード・レーベルWATTを立ち上げる(製造と販売はECM

 

1974年、初のリーダー・アルバムを発表。その後も自身のバンドを率いて、精力的にアルバムを制作する。

また、1980年代に入って、バンドのベーシストSteve Swallowがパートナーとなる。

 

彼女のリーダー・アルバムを列挙すると以下の通り。

 1974: Tropic Appetites
 1977: Dinner Music
 1978: European Tour 1977
 1979: Musique Mecanique
 1981: Social Studies
 1982: Live! 
 1983: Mortelle Randonnée
 1984: I Hate to Sing
 1984: Heavy Heart
 1985: Night-Glo
 1987: Sextet
 1988: Duets
 1989: Fleur Carnivore
 1991: The Very Big Carla Bley Band
 1992: Go Together
 1993: Big Band Theory
 1994: Songs with Legs
 1996: The Carla Bley Big Band Goes to Church
 1998: Fancy Chamber Music
 1999: Are We There Yet? 
 2000: 4 x 4
 2003: Looking for America
 2004: The Lost Chords
 2007: The Lost Chords find Paolo Fresu
 2008: Appearing Nightly
 2009: Carla's Christmas Carols
 2013: Trios
 2015: Andando el Tiempo
 2020: Life Goes On

 

2023年10月17日、脳腫瘍の合併症が原因で死去(長年のパートナーであるSteve Swallowにより公表される)。享年87歳。

 

 

さて、彼女のアルバムのうち、私がアナログ・レコードで持っているのは以下の5枚。

 

"Dinner Music"(1977年)

"Live!"(1982年)

"Heavy Heart"(1984年)

"Night-Glo"(1985年)

"Sextet"(1987年)

 

"Dinner Music"はフュージョン・グループStuffのメンバーと組んだ作品。かつて"フリー・ジャズの女王"と言われていたとは思えないほど、聴きやすく、楽しい作品。

 

"Live!"は9人のバンド・メンバーによるライブ盤。前衛的な雰囲気を感じさせつつも、決して難解では無く、よく練られたアレンジでありながら、自由度の高い演奏が繰り広げられる、彼女の代表作。

 

"Heavy Heart"と"Night-Glo"は質の良いフュージョンとも言うべき作品。但し、時折覗かせる前衛の響きが普通のフュージョンとは一線を画する。

 

そして残る一枚は、名盤の誉れ高い"Sextet"。

今回の「レコード評議会」は、追悼の意を込めて、この一枚を採り上げる。

 

 

Carla Bley

Sextet

ドイツ盤(1987年)

WATT / ECM

WATT/17  831 697-1

SideA:WATT 17-A  HR

SideB:WATT 17-B  HR


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SideA

 1. More Brahms

 2. Houses And People

 3. The Girl Who Cried Champagne

SideB

 1. Brooklyn Bridge

 2. Lawns

 3. Healing Power

 

 Carla Bley(Organ)

 Hiram Bullock(Guitar)

 Larry Willis(Piano)

 Steve Swallow(Bass)

 Victor Lewis(Drums)

 Don Alias(Percussion)

 

 

Carla Bleyのバンドは管楽器が入った10人前後で編成されることが多い(特にトランペット、トロンボーン、チューバ)。少なくとも、今までのリーダー・アルバムには管楽器が必ず入っている。

 

だが、このアルバムには管楽器が一切入っていない。オルガン、ピアノ、ギター、ベース、ドラム、パーカッションの6人から成るバンドだ。

 

アルバム・タイトル"Sextet"(六重奏団)は明らかにこの6人から成るバンドのことを指している訳だが、タイトルに付けるほど気の合うメンバーだったのだろう。

 

内容も素晴らしい。

一聴するとフュージョンではあるのだが、室内楽を想起させるアレンジで、知的でクールな雰囲気が漂っている。

 

特に以下の2曲は素晴らしく、名曲とされる。

 

More Brahms

シンプルで優しいメロディがギターと高音域のベースにより交互に奏でられる。それを横から支える、煌めくようなピアノのオブリガード。優しいオルガンの音色。立体的なドラム。

曲、アレンジ、演奏と全てが素晴らしい。

"More Brahms"は、ロマン派音楽に属するクラシック音楽ヨハネス・ブラームスから来ているのだろう。洒落た曲名だと思う。なお、日本盤のアルバム・タイトルはこの曲名から「モア・ブラームス」とされている。

 

Lawns

シンプルで美しいメロディがピアノによりシングル・ノートでゆったりと奏でられる。そのままピアノによる即興、次いで高音域のベースによる即興、そしてピアノに戻って曲が終わる。

そのシンプルで美しいフレーズを際立たせている、後ろに流れるオルガンの漂うような音色も素晴らしい。

こんなにもシンプルでありながら、心に沁み渡る曲…  正に名曲だと思う。

"Lawns"は(公園・家の周囲などにある,きれいに刈り込んだ)芝生、という意味。夜の印象が漂う曲なのだが、芝生の上で横になり、微睡んでいるのを音にした曲なのだろうか…

 

その他の曲もCarla Bleyのセンスに溢れたものばかりで、正に名盤と言って良いアルバムだ。

 

 

それにしても、Carla Bleyの曲は、曲そのものとしても素晴らしい、と思う。

 

どういうことか、と言うと…

ロックやフュージョンの曲は、その殆どが自作自演(作曲者=演奏者)であり、曲は特定の演奏者に紐付いているのが普通。例えば、"Let It Be"=The Beatles、"Birdland"=Weather Reportと言うように、曲と演奏者が不可分なことが多い。このため、オリジナル曲を超えるカバー曲というのはなかなか無い。

 

しかし、Carla Bleyの曲は、演奏者が必ずしもCarla Bleyである必要は無い。様々なミュージシャンに採り上げられているが、それぞれの個性が反映されつつ、曲そのものの良さが感じられるのだ。曲としての器が大きいためなのだろう、演奏の自由度も高い。

"Sing Me Softly of the Blues"  "Ida Lupino"  "Ad Infinitum"  "Vashkar"  "Dreams So Real" などの曲がよく採り上げられている。

 

これと似たケースにThelonious Monkがある。彼の曲も様々なミュージシャンに採り上げられており、ジャズ・スタンダードになったものも多い。

"’Round Midnight"  "Straight, No Chaser"  "I Mean You"  "Blue Monk"  "Ruby, My Dear"などが有名だ。

 

その意味で、Carla Bleyは、Thelonious Monkとも並ぶ"作曲家"なのだ。

 

Carla Bley、彼女の曲はこれからも様々なミュージシャンに採り上げられ、演奏され続けることだろう。

 

R.I.P.