前回採り上げたジョージ・ハリスンの「クラウド・ナイン」。そのアルバムを制作するきっかけとなったのが映画「上海サプライズ」(ジョージが制作総指揮)。
その「上海サプライズ」は、第7回ゴールデンラズベリー賞(別名ラジー賞、アカデミー賞授賞式の前夜に「最低」の映画を表彰するもの)で7部門にノミネートされている。そして主演のマドンナが最低女優賞を獲得している。
それでは、ゴールデンラズベリー賞でその他の賞を獲得したのは?と言うと、ほとんどの賞を総なめにした作品がある。
プリンスによる「アンダー・ザ・チェリー・ムーン」(1986年7月4日公開)である。
最低作品賞:アンダー・ザ・チェリー・ムーン
最低監督賞:プリンス
最低主題歌:プリンス "🖤 or $ (Love Or Money)"
最低男優賞:プリンス
と言うことで、今回の「レコード評議会」はこれ。
Prince And The Revolution
Parade
US盤(1986年)
9 25395-1
Intro:1-25395-A-SR3 SRC 1-3
End :1-25395-B-SR3 SRC 1-1
Intro
1. Christopher Tracy's Parade
2. New Position
3. I Wonder U
4. Under The Cherry Moon
5. Girls & Boys
6. Life Can Be So Nice
7. Venus De Milo
End
1. Mountains
2. Do U Lie?
3. Kiss
4. Anotherloverholenyohead
5. Sometimes It Snows In April
プリンス&ザ・レヴォリューションの「パレード」。
このアルバムは、映画「アンダー・ザ・チェリー・ムーン」のサウンド・トラックなのだ。
映画公開3ヶ月前、1986年3月31日にリリースされ、ビルボード・チャートで3位と大ヒットした。
1986年2月5日に先行リリースされたシングル "Kiss"(B面は"🖤 or $ (Love Or Money)")もビルボード・シングル・チャートで1位と大ヒットした。
が、映画「アンダー・ザ・チェリー・ムーン」は大コケにコケて、ゴールデンラズベリー賞を総なめ、最低映画のレッテルを貼られてしまったという訳だ。
その煽りを受けてか、アルバムや楽曲に対するプリンス自身の評価はかなり低い。ベスト盤・コンピ盤へはヒット曲として"KISS"が収録されるくらいで、"🖤 or $ (Love Or Money)"(最低主題歌を受賞)はCD化すらされていないらしい(ストリーミングでは聴くことができる)。
殿下(←プリンス)にとっては黒歴史… 痛恨の極み… なのだろう。
だが、プリンス本人の自己評価は低いかも知れないが、このアルバムはセールス的に大成功しているし、内容的にもかなり稀有で秀逸なものだ。
何がそうなのかと言うと、先鋭的で革新的で前衛的でありながら、ファンキーでポップで大衆的なのだ。
別な言い方をするならば、[前衛芸術、アヴァンギャルド]✖️[ファンク、ポップ・ミュージック]という感じだ。
全ての曲がそうでは無いが、以下の曲にはその要素を感じる。特に#を付けた曲はその要素が濃厚だ。
Christopher Tracy's Parade
New Position #
Girls & Boys #
Life Can Be So Nice #
Mountains
Kiss
ここで、最初にこのアルバム(と言うかプリンス)を知ったきっかけを思い出した。
1987年の夏、世間はマイケル・ジャクソンに湧いていた。マイケルが1987年8月末にアルバム「バッド(Bad)」をリリースし、9月に初来日するということで、マイケル・フィーバーとも言うべき状態だった。
そんな最中、当時大学生だった私の周辺には、「マイケル・ジャクソン来日阻止!」とのたまう輩(友人およびその友人)がいた。「マイケル・ジャクソンは認めない。ついでにライオネル・リッチーもダメだ」と(←ファンの方々には申し訳ありません。私の言葉ではありません)。
当時の私は、クラシック音楽とロックを聴いており、ロックについては、英国60年代モノ(ビートルズ、ザ・フー、ストーンズなど)、プログレ(クリムゾンなど)、HR/HM(ツェッペリン、パープル、レインボーなど)、ニュー・ウェイヴ系(スタカン、デュラン、トーキング・ヘッズなど)を聴いていた。
なのでマイケル・ジャクソンには(ライオネル・リッチーも)そもそも興味が無く、良いも悪いも無かったのだが、友人が「マイケル・ジャクソン来日阻止!」などと連呼するので「何がそんなにマイケルはダメなんだ?」と聞いたところ、「アレは違うんだよ」と言う。?…さっぱり分からない。
そんなある日、友人宅でレコードを聴いていたら、「同じ様でもマイケルとは違う、こういうが良いんだよ」と聴かせてくれたのが、プリンスの「パレード」だった。
最初に聴いた時は、正直よく分からなかった。と言うか、何が良いのか全く分からなかった。何か変な曲が多いな、と。「へぇ、なるほど、そうなんだ」と薄い反応しかできなかった。
ジャケットも何だかねぇ、とも思ったし…
が、後になって、友人が言いたかったことが何となく分かってきた。
今から思うと、プリンスの「パレード」は先鋭的で革新的で前衛的だ、それが良いんだ、ということが言いたかったのだろう。
そんなことは考え過ぎで、友人が愛読していた雑誌「rockin'on(ロッキング・オン)」がプリンス推し、アンチ・マイケル(ライオネルも)だったためなのかも知れないが…
まぁ、そんなきっかけで「パレード」を知った訳だが、プリンスの作品中、先鋭的で革新的で前衛的と最も感じさせてくれるのはこのアルバムだと思う。
そして、1986年リリースと今から37年も前の作品でありながら、近未来的な響きで新鮮さを失っていないアルバムだと思う。
やっぱり殿下は天才だった…
ただ、このジャケットには今以て慣れないが…
(おまけ)
この盤、実はカット盤(The と Revolution の間に切れ込みがある)。
カット盤は売れなかったアルバムによくあるパターンなのだが、この「パレード」はビルボード・チャートで3位と大ヒットしている。
なのに何故カット盤?
推測するに、こういうことだったのだろう。
1986年3月にアルバムがリリース。音楽業界の評価も高く、レコードの売れ行きは好調。瞬く間にビルボード・チャート3位の大ヒット。追加プレスされ、大量のレコードが店頭に供給された。
ところが、1986年7月に映画「アンダー・ザ・チェリー・ムーン」が公開になると、これがイマイチで、映画業界の評価はボロボロ。ゴールデンラズベリー賞に軒並みノミネートされ、挙げ句の果てに賞を総なめ、最低映画の烙印を押されてしまう。
その煽りを受けて、映画のサウンド・トラックであるアルバム「パレード」はぱったりと売れなくなってしまった。そして店頭にはレコードが売れ残り、レコード会社に返品された。
そして、カット盤となり、中古マーケットに流れていった。
どうだろう?
そんな訳で、この手元にある盤は、映画が酷評された後に売れ残ってしまった一枚、ということなのだろう…
… だから何? という話だが。