前回は"London / Phase 4 Stereo"のレコードを採り上げた。
その流れから"Decca / Phase 4 Stereo"のレコードを探してみた。
ということで、今回の「レコード評議会」はこれを採り上げることにした。
The Heart Of Tchaikovsky
Camarata
The Kingsway Symphony Orchestra
UK盤(1968年)
Decca / Phase 4 Stereo Concert Series
PFS 4140
Side1:ZAL-8090-1L UK JT 1
Side2:ZAL-8091-2L BU JT 1
ハート・オブ・チャイコフスキー
カマラータ指揮
キングズウェイ交響楽団
Side1
1. 幻想的序曲「ロミオとジュリエット」 ー 抜粋
3. バレエ音楽「眠りの森の美女」 ー ワルツ
4. 交響曲第6番「悲愴」 第1楽章 ー 抜粋
5. 「スラヴ行進曲」 ー フィナーレ
Side2
1. ピアノ協奏曲第1番 第1楽章 ー 抜粋
2. 交響曲第4番 第3楽章 ー 抜粋
3. 交響曲第5番 第2楽章 ー 抜粋
4. 無言歌
5. 歌劇「スペードの女王」 ー メイドたちの合唱
6. 大序曲「1812年」 ー フィナーレ
カマラータ(Salvador "Tutti" Camarata、1913〜2005)はアメリカの作編曲家、トランペット奏者、音楽プロデューサー。
ドーシー兄弟やベニー・グッドマンのスウィング・バンドでトランペット奏者としてキャリアをスタートし、その後様々な分野で活躍した。
ルイ・アームストロング、ビリー・ホリデイ、ビング・クロスビー、エラ・フィッツジェラルド、デューク・エリントンの作品でアレンジャーとして活躍。
1944年、イギリスのDeccaに招かれ、アメリカでのレコード販売を目的としたLondon Recordsの設立に関与。クラシック音楽のカタログを充実させる任務を担い、自らもヴェルディ、プッチーニ、リムスキー・コルサコフ、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ボロディン、ビゼー、バッハ、ヨハン・シュトラウスなどの作品集を制作。
1956年、ウォルト・ディズニーからの招きでディズニー・レコードの音楽監督・プロデューサーに就任。
更には1958年、ハリウッドにレコーディング・スタジオ"Sunset Sound Recorders"(※)を設立。このスタジオで16年間に300枚以上のディズニー関係のアルバムを制作。
※ このスタジオは多数のミュージシャンのレコーディングで使われている(ドアーズ、ジャニス・ジョプリン、ビーチ・ボーイズ、ツェッペリン、ストーンズ、リンダ・ロンスタット、ヴァン・ヘイレン、ガンズ、トト、エルトン・ジョン、プリンス…など、アナ雪の"Let It Go"も)。
1981年、ハリウッドのレコーディング・スタジオ"Sunset Sound Factory"(※)を買収。
※ このスタジオも多数のミュージシャンのレコーディングで使われている(ジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンスタット、リンゴ・スター、エルビス・コステロ、ロス・ロボス、ヴァン・ヘイレン、ブライアン・ウィルソン、レッチリ…など)。
以上の通り、ジャズ、クラシック、ポピュラー音楽と様々な分野で、しかもミュージシャン、プロデューサー、スタジオ・オーナーと幅広く活躍した才人だ。
そんなカマラータが指揮者を務めるのが、このレコード。
演奏するキングズウェイ交響楽団はレコーディング・セッションのために編成されたオーケストラ。ロンドンのキングズウェイ・ホールにちなんで、その名が付けられたものと思われる。
チャイコフスキーの、ひいてはクラシック音楽の良さを知ってもらおう、といった感じのアルバムで、チャイコフスキーの美味しいところを並べたサンプラーのような作品と言える。
"無言歌"と"歌劇「スペードの女王」 "の知名度はそれほどでは無いかも知れないが、その他は超有名曲が並んでいる。
音作りは、甘いメロディはとことんに甘く、迫力あるところは徹底的に響かせる。
そして、Phase 4 Stereoの音が素晴らしい。音の分離が良く、左右のスピーカーから様々な楽器の音が飛び出してくる。
加えて、初期のプレスであることから、正に鮮烈な音がする。
Side1:マザー1、スタンパー24(=UK)
Side2:マザー1、スタンパー12(=BU)
"スラヴ行進曲"での盛大なフィナーレ、"大序曲「1812年」"での大砲や鐘が鳴り響くところなどは、仰反るほど凄い響きだ。
芸術云々と言うよりはエンターテイメントを意識したアルバムで、生粋のクラシック・ファンからすると、中には眉をひそめる人がいるかも知れない。
ただ、イギリスのDeccaがアメリカのマーケットに向けてクラシック音楽を拡めるべく、気軽に楽しく聴けるようにと作ったものであり、その意味からすると、とても優れたアルバムだ。
メロディも綺麗だし、音も良いし、ジャケットも洒落ているし、結構お気に入りのレコードである。
(おまけ)
なお、日本においては1988年にキング・レコードから「〈おしゃれクラシック〉チャイコフスキー~甘美と哀愁のはざまで」というタイトルでCD発売されている。
ただし、ジャケットはこんな感じ…