前回で「B-SELSで買ったレコード」シリーズは一旦終了となった訳だが、ビートルズ熱は火がついたら最後、簡単に冷めることは無い。
ということで、今回の「レコード評議会」もビートルズ関係にしようと思う。
そこで手持ちのレコードから選んだのがこれ。
デンマーク盤(1970年)
Apple Records
6E 062 04348
Side1:YEEX 150-1
Side2:YEEX 151-1
Side1
1. Can't Buy Me Love
2. I Should Have Known Better
3. Paperback Writer
4. Rain
5. Lady Madonna
6. Revolution
Side2
1. Hey Jude
2. Old Brown Shoe
3. Don't Let Me Down
4. Ballad Of John And Yoko
1970年2月にリリースされたアメリカ編集盤アルバム「ヘイ・ジュード」のUKマザーのデンマーク盤。
通常のUK盤ステレオのマトリクスは"YEX"から始まるのだが(モノラルの場合は"XEX")、このレコードはUK Export 盤(エクスポート仕様)の場合に付けられる、Eが一つ多い"YEEX"だ。
1970年当時、このアルバムはイギリスではリリースされなかったが、UK Export 盤が作られ、人口が少なく自国でプレスの無いヨーロッパ諸国向けに輸出された。一方で、デンマーク盤はイギリスから送られてきたUKマザーをもとに自国でプレスされたものとなっている。
レコード番号にある"6E"はデンマークを意味するEMIカントリーコードで、センターレーベルには"Made In Denmark"とある。
ただ、ジャケットはドイツ製(当時は西ドイツ)。左上に記載されている"1C 062-04 348"の"1C"はドイツを意味している。
Discogsを見ると、US製のジャケットを使っているものもあるらしい。
ジャケットのみ輸入して使ったということなのだろうが、何だかアバウトな感じがする。
次にアルバム名に目を向けてみる。
当初は「THE BEATLES AGAIN」とする予定だったが、リリース直前で「HEY JUDE」に変更となったため、修正が間に合わず、US盤初期のセンターレーベルには「HEY JUDE」ではなく「THE BEATLES AGAIN」と表記されている、というのは有名な話だ。
で、このレコードはと言うと、センターレーベルもジャケット背表紙も「HEY JUDE」と表記されている。
だが、センターレーベルをよくよく見てみると「HEY JUDE!」と「 ! 」が付いている。
Discogsを見てみたところ、日本盤とドイツ盤のセンターレーベルは「HEY JUDE」となっているが、UK Export 盤も含めてほとんどの国は「HEY JUDE!」と「 ! 」が付いている。
ちなみに曲名の方にはシングル・リリース時と同様に「 ! 」は付いていない。
ここで一つ思い付いたのだが、こんな経緯だったのではないだろうか。
当時マネジメントをしていたアラン・クラインは、1970年2月に編集アルバムをリリースすべく準備を進めていた。
アルバム名は「THE BEATLES AGAIN」と関係者に周知され、各国のレコード会社はジャケットやセンターレーベルなどの製造に取り掛かっていた。
ところが、メンバー間の関係がますます悪化、「ビートルズよ、再び」というのはシャレにならない状況となってきた(このアルバム名にメンバーが反対したのかも知れない)。
そこで、無難なものにしておこうと、収録曲で大ヒットした「HEY JUDE」に変更することとなった。
このアルバム名の変更をアラン・クラインは緊急扱いで関係者に連絡した。
ファックスやテレックスの文章にはこう書かれていた。
We’ve decided to change the album title from THE BEATLES AGAIN to HEY JUDE!
(アルバム名を THE BEATLES AGAIN から HEY JUDE に変更することにしました!)
この急な変更を強調して伝えるために文章末尾に「 ! 」を付けたのだ。
だが、受け取った各国のレコード会社のほとんどは、この文章を「アルバム名をHEY JUDE! に変更」と認識してしまった。
こうして、ほとんどの国では「HEY JUDE!」と「 ! 」が付いたセンターレーベルが作られた。
一方、いくつかの国では以下のような対応をした(国民性が表れている…?)。
日本、ドイツなど:シングルの曲名には「 ! 」が無いので、アルバム名も同じはずだと考え、アラン・クラインに確認を取って「HEY JUDE」とした。
フランス:いまさら変更するのは無理だとして、連絡を無視し、「THE BEATLES AGAIN」のままリリースした。
アメリカ:センターレーベルを既に大量に作ってしまっていたため、当初は「THE BEATLES AGAIN」のままリリースし、在庫が捌けた後に「HEY JUDE」とした。
いかがでしょう? そんな感じがしませんか?
なお、ジャケットにおけるアルバム名の表記はどうなったのかと言うと…
「HEY JUDE」と背表紙に(UK Export 盤は天井部分にも)表記されているものと、アルバム名の表記が無いものがある。
その一方で「HEY JUDE!」や「THE BEATLES AGAIN」と表記されているものはどうやら無いようだ(ネット等で見る限り見当たらない)。
いずれにせよ、かなりテキトーな感じがする。
さて、曲目を見てみると、キャピトルによるアメリカでの編集アルバムへの未収録曲が並んでいる。
1964年 A1. Can't Buy Me Love
1964年 A2. I Should Have Known Better
1966年 A3. Paperback Writer
1966年 A4. Rain
1968年 A5. Lady Madonna
1968年 A6. Revolution
1968年 B1. Hey Jude
1969年 B2. Old Brown Shoe
1969年 B3. Don't Let Me Down
1969年 B4. Ballad Of John And Yoko
A1〜2は、映画「A Hard Day's Night:ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」のユナイテッド・アーティスツによるサウンドトラックには収録されているが、キャピトルによる編集アルバムには収録されていなかったもの。
A3〜B4は、イギリスでのオリジナル・アルバムを含めアルバム未収録のシングル曲。
ちなみに、このデンマーク盤のセンターレーベルには誤って"Paper Back Writer"と表記されている("Paperback Writer"が正しい)。
こうして見ると、一曲一曲は良い曲が並んでいるのだが、どうにもツギハギな感じがする。
コンピレーション盤なのでそもそも統一感を求めるものではないのだが、それにしてもバランスが悪く、特にA1〜2の2曲は完全に浮いている気がしてならない。
いっそのこと、その2曲の代わりに、"The Inner Light"と"Get Back"を入れた方が収まりが良いと思うのだが、どうだろう。
では、肝心の音は?と言うと、これは文句無しに素晴らし音だ。
UKマザーで人口が少ないデンマーク・プレスということなので、間違いはない。
このレコードがリリースされた1970年当時のデンマークの人口は約500万人(英国の1/10、日本の1/20)。ゆえにレコードのプレス枚数も少なく、鮮度の高い音が期待できる訳だが、正に期待通りの良い音だ。
新鮮な音で、ギターなど高音のキレが良い。
ベースやドラムなど低音の輪郭もしっかりしていて、鳴りも良い。
ボーカル、コーラスも響きが良く、ジョンやポールがそこにいるのを感じることができる。
ということで、アバウト、テキトー、ツギハギと散々ケチを付けてきた訳だが、音が素晴らしいので、このアルバム、かなりのお気に入りである。
と言うか、アバウト、テキトー、ツギハギはダメかというと決して嫌いではない。
むしろ、それこそが面白く、これこそがビートルズ各国盤の魅力の一つなのだ。
そんな訳で、このアルバム、大のお気に入りである。