前回で手持ちのUS盤も無くなったのでビートルズUS盤シリーズはこれにて終了、と思っていたが、これもUS盤だった。
ということで、今回の「レコード評議会」は…
「マジカル・ミステリー・ツアー」のUSステレオ盤と USモノラル盤。
「マジカル・ミステリー・ツアー」は、Capitolによる編集アルバムだが、CD化以降に9番目のオリジナル・アルバムの位置付けとなったもの。あまりにも普通に存在するアルバムとなっているのでうっかりしていたが、紛れもなくUS盤だ。
Magical Mystery Tour
US盤(Scranton Pressing)(1967年)モノラル
Capitol
MAL 2835
Side1:MAL▼-1-2835-F9 IAM
Side2:MAL▼-2-2835-F7 IAM
Side1
1. Magical Mystery Tour
2. The Fool On The Hill
3. Flying
4. Blue Jay Way
5. Your Mother Should Know
6. I Am The Walrus
Side2
1. Hello Goodbye
2. Strawberry Fields Forever
3. Penny Lane
4. Baby You're A Rich Man
5. All You Need Is Love
A面は、テレビ映画「Magical Mystery Tour」のサウンドトラック。イギリスなどでは2枚組EPだが、アメリカではEPは売れないということで、アルバム片面に収録したもの。
B面は、この頃のシングル曲をまとめて収録したもの。
Capitolによる編集盤は別のアルバム収録曲やシングル曲の寄せ集めということで悪名(?)が高いが、この編集盤「マジカル・ミステリー・ツアー」はオリジナル・アルバムに位置付けられただけあって、非常にまとまりが良い。A面もB面も曲の色合いが同じで統一感がある。
このブログ「レコード評議会」の最初の記事にも書いた通り「マジカル・ミステリー・ツアー(EAS盤)」は私が最初に買ったレコードであり、一際思い入れが強いアルバムだ。
そんな訳でUS盤でも聴きたいと、第四次ビートルズ・マイブーム(2010年代後半)の時にDiscogsで海外のセラーから買ったのがこのモノラル盤だ(36ドル;当時の為替レートで4,500円程度)。
ジャケットはゲートフォールド・カバーで、開くとテレビ映画場面のブックレットが綴じ込まれている。
以下はその一部
で、肝心な音だが、どんなものかと言うと…
明瞭な音と言って良い。
音の滲みもなく、パキッとした感じのドライな音だ。
一方で、水気の無い乾いた響きと言ったらいいのか、音に潤いや膨らみがもう少しあったら良いのに… と思うところもある。
あえて悪い言い方をすると、音が硬く、無味乾燥な感じがしないでも無い。
決して悪い音では無い。
音がヘタっている訳でも無いし、明瞭な音のだが、針との相性が悪いのだろうか?
それとも、Capitolカーブで再生すると良い音で鳴るのだろうか?
改めて言うが、決して悪い音では無い。
ベースもしっかりと鳴っているし、チェロやヴィオラなどの弦楽器、フルートやトランペットなどの管楽器の鳴りも良い。
あと少しだけ何かがあれば、すごく良い音で鳴るような気がするのだが…
と、いつまでも悶々としていても仕方がないので、次に行く。
Magical Mystery Tour
US盤(Scranton Pressing)(1967年)ステレオ
Capitol
SMAL 2835
Side1:SMAL-1-2835-B22 IAM
Side2:SMAL-2-2835-A21³ IAM
こちらはステレオ盤。これも第四次ビートルズ・マイブーム(2010年代後半)の時に中古レコ屋で買ったものだ(1,000円と格安だった。今はその値段では買えないだろう)。
さて、音はどうか?
実はこのブログの最初の記事で、日本再発のEAS盤をUS盤と比較して以下の通り評している。
「USキャピトル・オリジナル・ステレオ盤と比べても、EAS盤の方が1割増くらいカッティングレベルが高く、音にキレもある。US盤よりくっきりした音で(真空管とトランジスタとのカッティングの差もあるので、一概にどちらが良いとは言えないが)、先入観無しに聴いたら、EAS盤の方が良いと言う人も多いのでは。」
つまりその時の印象としては、国内再発のEAS盤とUS盤は好みの違い程度の差、むしろEAS盤の方が良いかも?と感じていたのだ。
しかし今回US盤を記事にするに当たり、改めてしっかりとクリーニングしてから針を下ろしてみたところ…
これが素晴らしく良い音なのだ。
Magical Mystery Tour
ブラス・セクションが飛び出して来る。キレの良い音で活き活きしている。ベースの輪郭も明確。ボーカルやコーラスの響きも素晴らしく良い。
The Fool On The Hill
ポールのボーカルが近く、まるでそこで歌っているかのよう。フルート、リコーダー、ハーモニカの響きもリアル。
Flying
インスト。映画のバックグラウンド・ミュージックなのだが、音だけで聴けてしまう。
フランジャーを掛けたジョージのボーカル、逆回転によるテープ・エフェクト、ハモンドオルガンによるドローン音などが空気を震わせる。
Your Mother Should Know
ポールのボーカルが近い。後半に進むに従ってボーカルとコーラスが厚みを増し、さらに手前に近づいて来る。ベースの鳴りが素晴らしく、動きが良く見える。
I Am The Walrus
チェロのひっかくような音の存在感がすごい。後半は擬似ステレオだが、クリアな音は変わらない。リンゴのドラムがシンプルながら、グルーヴ感がすごい。
以上、A面。これ以上無いほど、最高の音と言って良い。
Hello Goodbye
ヴィオラの存在感がすごい。コーラスも素晴らしい響き。リンゴがドラムを叩く姿が見える。
Strawberry Fields Forever
通常のステレオとは違う貴重なミックス違い(※1)。ジョンの声が入って来た瞬間にハッとする。まるでジョンがスタジオでマイクを前に歌っているかのようにリアル。弦をひっかくようなチェロの音も最高。
Penny Lane
Baby You're A Rich Man
All You Need Is Love
この3曲は残念ながら擬似ステレオ(※2)。だが音そのものは活き活きとしていて、鮮度も高い。擬似ステレオのくせに素晴らしく良い音。
以上、B面。こちらも素晴らしい音。特に"Strawberry Fields Forever"でのリアルなジョンのボーカルが最高だ。
いやはや、これは「大当たり」。
開放感のある音。勢いのある音。スーッと伸びる音。リアルな音。
鮮度が抜群で、今まで気が付かなかった音が鮮明に聴こえてくる。
響きも素晴らしく、明らかにCDやデジタル配信では味わえない音だ。
こんな音が溝に刻まれていたのか!と吃驚。
(クリーニングは大事だな、と改めて思った次第です。)
ということで、「マジカル・ミステリー・ツアー」のUSモノラル盤は悪く無いがあと少し何かが欲しい音、USステレオ盤は最高に素晴らしい「大当たり」の音、という結果でありました(←あくまでも私の手元にある盤に限っての結果です)。
以上、全6回にわたってお送りしてきたビートルズUS盤シリーズはこれにて終了。
US盤、良いものもある、悪いものもある。
玉石混交なのだが、それだけに「大当たり」が出た時の歓びは大きい…
※1:Strawberry Fields Forever のステレオのミックス違いは以下の通り。
・ボーカル:現行CDなどの通常バージョンやドイツ盤(同じ音源)では、ほとんどエコーがかかっていない。US盤(EAS盤も)では、テイク7とテイク26との繋ぎ目の前まではエコーがはっきりとかかっている。このため、繋ぎ目の前後でボーカルの雰囲気がかなり変わる。
・2度目と3度目の「Let me take you down...」の後のソードマンデル:通常バージョンやドイツ盤では、定位が右から左へ横切る。US盤(EAS盤も)は定位が中央のまま。
・その他:楽器の定位やフェードアウトのタイミングが違ったりしている。
※2:この3曲がリアル・ステレオで「マジカル・ミステリー・ツアー」に収録されるのは、1973年のドイツHörzu盤。