久しぶりに「レコード評議会」に戻ってきた。
(今回は「ビートルズ評議会」ではありません。)
さて、何を議題にするか?
ということで、以前から採り上げようと思っていた盤がある。
R. Strauss
Also Sprach Zarathustra
Karl Böhm
Berliner Philharmoniker
ドイツ盤(1970年代半ば)
Deutsche Grammophon
136 001 SLPEM
Side1:M 4 136 001 = 12 S1 320
Side2:2 xxx E72 ◇Z1 H 00 136001 = 18 S2
カール・ベーム(指揮)
1. 日の出
2. 世界の背後を説く者について
3. 大いなる憧れについて
4. 喜びと情熱について
5. 墓場の歌
6. 学問について
7. 病より癒え行く者
8. 舞踏の歌
9. 夜の流離い人の歌
ニーチェの同名の著作にインスピレーションを得て、リヒャルト・シュトラウスが作曲した交響詩。
最近は「ツァラトゥストラはこう語った」と訳されることが多いようだが、「ツァラトゥストラはかく語りき」の方が雰囲気がある。
いくつかの場面を音で描写したもので、9部から構成されている。
それぞれ表題が付けられているが、切れ目無く演奏される(レコードでは"病より癒え行く者"の前半までがA面、後半からがB面となる)。
演奏は、カール・ベーム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。
1958年に録音されたもので、クラシックの名門レーベル、ドイツ・グラモフォンから発売されたレコードだ。
1958年に発売されたものが初盤(オリジナル盤)。そのジャケット・デザインはこんな感じ。
で この盤は再発盤。
Grand prix du disque とのシールが貼られている。ChatGPTによると「Grand Prix du Disque(グランプリ デュ ディスク)は、フランスの音楽賞の一つで、優れた音楽アルバムやアーティストに贈られる賞のことです。これは、音楽の様々なジャンルにわたり、高い芸術的な成果を認めるために贈られるものであり、フランス文化省などが主催しています。」とのこと。
明確な発売時期は不明だが、Discogsを参考にデッドワックスを読み解くと、B面が1972年、A面が1973年から1978年の間にドイツ・ハノーファーのレコード工場でカッティングされたということが分かる。
B面/Side2:2 xxx E72 ◇Z1 H 00 136001 = 18 S2
"◇Z1"の意味するところは、1971年9月から1972年5月の間にドイツ・ハノーファーにあるドイツ・グラモフォン社のレコード工場でカッティングされたもの。
"E72"の意味するところは、1972年5月にカッティングされたもの。
A面/Side1:M 4 136 001 = 12 S1 320
"320"の意味するところは、1973年1月から1978年2月の間にドイツ・ハノーファーにあるレコード工場(その間Phonodisc GmbH社の下で運営されていた)でカッティングされたもの。
当初1958年に発売されたレコードなのだが、人気があったため、何回かリカットされ、再発されたという訳だ。
では何故、そんなに人気があったのか?
おそらく、いや間違いなくこの曲の冒頭(「日の出」の部分)が1968年に公開の映画「2001年宇宙の旅」に使われたからだろう(※)。
※ この曲のタイトルを「2001年宇宙の旅」と思っている人も少なからずいたのではないかと思われる。
しかもこのベーム&ベルリン・フィルの演奏は「2001年宇宙の旅」のサントラ盤に収録された演奏なのだ。
「映画で使われたのは、この演奏だったのか」(※)ということで、それは人気も出るというものだ。
※ ところが実際に映画で使われたのは、カラヤン&ウィーン・フィルの演奏だった。この件は長くなるのでここでは書かない。
ということで、あれこれ背景を書き連ねてきたが、肝心の音はどうか?と言うと…
再発盤ではあるものの、テープの保存状態が良いのだろう、音の鮮度は保たれている。
ワイドレンジで、高音域がスッと伸びる、きれいでクリアな音。
ドイツ・グラモフォンは自然な響きの上品な音という印象があるが、正にそういった音だ。
だが、何となく物足りない感じがする。
上品ではあるものの、裏を返せば大人しい音で、一つ一つの音に力が足りない感じがする(もちろんフォルテ、フォルティッシモの音は大きいのだが…)。
そもそもドイツ・グラモフォンの上品な音作りが個人的にあまり好みでは無いのかも知れない。
だったら何故に議題に採り上げたのか?
実はここまでは前振りで、本論はここから。
R. Strauss
Also Sprach Zarathustra Op.30
Karl Böhm
Berliner Philharmoniker
イタリア盤(1970年代半ば)
Deutsche Grammophon
136 001 SLPEM
Side1:136001 1 1 520 24 *
Side2:136001 2 1 520 24 *
独自カッティングのイタリア盤。
デッドワックスにある"520"の意味するところは、1968年から1985年の間にイタリア・トリビアーノにあるレコード工場(Phonoster社)でカッティングされたもの。
この盤は、地元の中古レコ屋で300円で買ったもの。
ドイツ・グラモフォンのイタリア盤ねぇ、まあ300円だし、試しに聴いてみるか…ということで手にしたものだ。
発売時期が明確には分からないが、ジャケットやセンターレーベルの感じから、1970年代半ばと思われる。
いずれにしても、ドイツ初盤から20年ほど経ってから作られたものだ。
ということで、さほど期待をせずに聴いたところ…
音がぐいぐいと押し出して来るように鳴る。
音がぐるぐると渦を巻いているように鳴る。
音が濃密で、一つ一つの音に粘りがある。
特に弦楽器のうねるような音が凄い。
このジャケットの写真のような音とも言える。
クラシックのレコードでこんな音は聴いたことが無い。
何でこんな音がするのだろう?
まさかフランジャーでエフェクトを掛けている?って、さすがにそんなことはないだろう。
もしかすると、コンプレッサーを強く掛けているのか?
ということは、いわゆるラウド・カットということか?
この音は本来のドイツ・グラモフォンの音では無いのだろう。
だが、この音はクセになる。引き込まれる音だ。
ドイツ・グラモフォンの独自カッティングのイタリア盤、これは良い。
ということで、お気に入りの一枚となっている。
それにしても、こういうレコードとの出会いはホント面白い(しかも300円…)。
これからはドイツ・グラモフォンのレコードはイタリア盤で買おう。
ということで、Discogsでイタリア盤を何枚か買ってみたのだが、送られてきた盤は全てドイツでカッティングされたマザーを使ったものばかり(デッドワックスにはドイツ・ハノーファーのレコード工場でカッティングされたことを意味する"◇"または"320"が刻まれている)。
あれから独自カッティングのイタリア盤には出会えていない。