前2回にわたって、映画「2001年宇宙の旅」(1968年) に使われて超有曲名になった「ツァラトゥストラはかく語りき」を採り上げてきた。
今回の「レコード評議会」はその「ツァラトゥストラ」繋がりということで、このアルバムを採り上げる。
Prelude
US盤(1973年)
CTI Records
CTI 6021
Side1:RVG 87678 A (ゝ VAN GELDER ⌂
Side2:RVG 87678 B (ゝ VAN GELDER ⌂
Side1
1. Also Sprach Zarathustra (2001)
2. Spirit Of Summer
3. Carly & Carole
Side2
1. Baubles, Bangles And Beads
2. Prelude To Afternoon Of A Faun
3. September 13
1973年にCTIからリリースされたデオダートのアルバム「ツァラトゥストラはかく語りき(原題 Prelude)」。
エウミール・デオダートはブラジル・リオデジャネイロ生まれのミュージシャン、アレンジャー。
1960年代からブラジルでアルバムをリリースするなど活躍。1967年頃にアメリカへ渡り、アレンジャーとして活躍し、このアルバムでメジャー・デビューとなった訳だ。
ちなみにCTIとはプロデューサーであるクリード・テイラーの会社ということで、Creed Taylor Incorporated(またはCreed Taylor International)の略称なんだとか。
収録曲を簡単に紹介すると以下の通り。
Also Sprach Zarathustra (2001)
「2001年宇宙の旅」に触発された選曲(プロデューサーのクリード・テイラーによる選曲だろう)。ベタな選曲で気恥ずかしい気もするが、先入観を捨てて聴くとなかなか良い。エレピの響きがクロスオーバー感を醸し出している。
Spirit Of Summer
デオダートのオリジナル。ゆったりとしたストリングスがまるで映画音楽のよう。
Carly & Carole
デオダートのオリジナル。曲名はカーリー・サイモンとキャロル・キングのことらしいが(但しその雰囲気は全く無い)、ブラジリアン・フレーバーの曲。
Baubles, Bangles And Beads
(輝く腕輪とビーズ玉)
ミュージカル「キスメット」の劇中歌。元はボロディンの「弦楽四重奏曲第2番」第2楽章の第2主題を拝借した曲。
Prelude To Afternoon Of A Faun
(牧神の午後への前奏曲)
ドビュッシーの管弦楽曲(バレエ・リュスによりバレエで使われた際、その振り付けがスキャンダルとなっている)。フルートの響きがクロスオーバー感を醸し出している。
September 13
デオダートとビリー・コブハム共作のオリジナル。1972年9月13日にレコーディングされた曲ということから、このタイトルが付けられたらしい(このアルバムのレコーディング・セッションは1972年9月)。
全体を通して「ブラジリアン・ジャズとクラシックを足して2で割ったもの」といった感じ。
これはフュージョンと言うよりもクロスオーバーの方がしっくりくる。
クロスオーバー、このサウンドは1970年代初め頃にしか味わえない。
デオダートがピアノとエレピを演奏。その他の楽器はスタジオ・ミュージシャンによる演奏なのだが、知っている人を抜き出すだけでも以下の通り。リーダー・アルバムもリリースしている凄腕のミュージシャンが並んでいる。
パーカッション:アイアート・モレイラ、レイ・バレット
ドラム:ビリー・コブハム
ベース:スタンリー・クラーク、ロン・カーター
ギター:ジョン・トロペイ
フルート:ヒューバート・ロウズ
注:ロン・カーターはスタジオ・ミュージシャンでは無いな
この手のアルバムは演奏の質が命なのだが、凄腕のスタジオ・ミュージシャン達がプロフェッショナルな仕事をしている。
そして、改めてマトを見て「そうだったのか!」と驚いたのが、"RVG"、"VAN GELDER"の刻印。
あのルディ・ヴァン・ゲルダーがレコーディング、マスタリング、カッティングしたものだったのだ。
ルディ・ヴァン・ゲルダーは、主にジャズで活躍した伝説のレコーディング・エンジニア。
サヴォイ、プレスティッジ、インパルス!、ヴァーヴ、CTI など数多くのレコード会社でレコーディングに携わっているが、特にブルーノートとの関係が深く、あの独特なブルーノート・サウンド(※)はこの人に負うところが大きい。
※ ブルーノート・サウンド:「骨太な、黒い、存在感のある、密度の濃い、ゴリゴリした」音(←あくまでも私のイメージです)。
そんなルディ・ヴァン・ゲルダーが、このようなクロスオーバーな作品もレコーディングしていたのか… と吃驚したという訳。
では、この盤の音はどうなのか?と言うと、これが素晴らしく良い音がする。「ルディ・ヴァン・ゲルダー=間違い無い」と脳内に刷り込まれているのだろうが、改めて聴いても良い音であり、やっぱり間違い無い。
もちろんブルーノート・サウンドとは違うのだが、存在感のある音という意味では同じ。
思うに、ルディ・ヴァン・ゲルダーのカッティングはラウド・カット気味なのだ。
ということで、
「クロスオーバーなサウンド」
「凄腕スタジオ・ミュージシャン達の仕事」
「ルディ・ヴァン・ゲルダーの仕事」
を楽しむことが出来るこのアルバム、結構お気に入りである。
ちなみに、ジャケット内側にこんなことが書かれている。
19.50ドル(当時の為替レートで7,000円)で、ジャケット写真のポスター(28cm×36cm)が好きな色で手に入ります… って、CTIはそんな商売もしていたのか…