またしてもビートルズとなりますが、趣向を変えて(?)、未発表アルバムを採り上げます。
未発表アルバムということは、公式にリリースされたものでなはい、ということです。
最近では、プライベート盤とか非公式盤とかいう言い回しで、ディスク◯ニオンなどの大手レコード店にも置いてありますが、要はブートレッグ、海賊盤です。
アーティストが認めていないものであり、権利を侵害するものでもあるので、宜しくないものとは認識しています。
ですが、好きなアーティストの未発表曲や未発表アルバムがあるとなれば、聴いてみたくなるのが人情。
それがビートルズともなれば、なおさらです。
今回採り上げるこの未発表アルバム、いやこの海賊盤は、今から30数年前、第二ビートルズ・マイブームの時に入手したものです。(大学の近くにあった小さな輸入レコード店で値段は2千円程度だったと記憶しています。)
海賊盤は販売する方も購入する方も宜しいことではないのですが、相当昔のことでもあり、今や時効ということで、お許しいただければと思います。
ということで、
今回の「レコード評議会」は、幻の未発表アルバムであるこの海賊盤…
Get Back with Let It Be and 11 other songs
製造国不明(ドイツ盤?)(1987年?)
Tonto (Apple Records、EMI Electrola)
TO 643
A1:One After 909
A2:Link Track
A3:Save The Last Dance For Me
A4:Don't Let Me Down
A5:Dig A Pony
A6:I've Got A Feeling
A7:Get Back
B1:For You Blue
B2:Teddy Boy
B3:Two Of Us
B4:Maggie May
B5:Dig It
B6:Let It Be
B8:Get Back Reprise
ビートルズのアルバム「ゲット・バック」。
幻の未発表アルバムであり、世界一有名な未発表アルバムとも言える。
後に、フィル・スペクターがリプロデュースして、アルバム「レット・イット・ビー」となる訳だが、もともとは「ゲット・バック」としてリリースされる予定だった。
グリン・ジョンズがリリースに向けて編集し、アセテート盤まで作られながら、お蔵入りしてしまったものだ。
1969年5月28日の1stミックスと1970年1月5日の2ndミックスがある。
私が持っている海賊盤は1stミックスの方だ。
ちなみに2ndミックスでは、"Teddy Boy"が除かれ、"I Me Mine"と"Across The Universe"が加わる。
アルバムタイトルは、ファーストアルバムの「Please Please Me with Love Me Do and 12 other songs」をもじって「Get Back with ◯ and ◯ other songs」に、
ジャケットは、ファーストアルバムと同じ構図(EMI本社の吹き抜けからメンバーが見下ろしている)で同じカメラマン(アンガス・マクビーン)により撮影された写真(※)が使われる予定だったと言う。
※ この時に撮影された写真のうちの1枚が、後に「ザ・ビートルズ1967年〜1970年」(通称:青盤)のジャケットに使われる。
この海賊盤のタイトルは「Get Back with Let It Be and 11 other songs」となっている。
他の1stミックスの海賊盤には「Get Back with Don't Let Me Down and 9 other songs」というのもある。
また2ndミックスの海賊盤では「Get Back with Don't Let Me Down and 13 other songs」というのもある。
ジャケットには、当初予定通りの写真が使われている。
左上には Apple / EMI ELECTROLA とのロゴがあるが、ドイツ盤を模しているのだろう。
manufactured by ElectrolaーWest Germany と裏ジャケットの下にも記載されている。
海賊盤なので、本当にドイツで製造されているのかは甚だ疑わしいが…
で、裏ジャケットはと言うと…
デザインはアルバム「レット・イット・ビー」とシングル「レット・イット・ビー」のパクリだ。
アルバム「レット・イット・ビー」の裏ジャケット
シングル「レット・イット・ビー」のピクチャースリーブ
海賊盤「ゲット・バック」の裏ジャケット
コメントもパクリだ。
こちらがアルバム「レット・イット・ビー」のコメント
This is a new phase BEATLES album...
essential to the content of th film, LET IT BE was that they performed live for many of the tracks; in comes the warmth and the freshness of a live performance; as reproduced for disc by Phil Spector
こちらが海賊盤「ゲット・バック」のコメント
This is a new phase BEATLES album...
essential to the content of th film, GET BACK was that they performed live for many of the tracks; in comes the warmth and the freshness of a live performance; as produced for disc by George Martin
しかも、アルバム「ゲット・バック」のプロデューサーはジョージ・マーチンではないし…(実質プロデューサーの役割を負っていたのはグリン・ジョンズなので、produced for disc by Glyn Johns とするべきでしょう…)
と、まあ、なんだかんだとケチを付けてきた訳だが、だからと言って、嫌いではない。
もろに海賊盤といったような雑なジャケットとは違い、それらしく見えるように頑張っているところに好感が持てるし、何と言うか、ビートルズへの愛情を感じる。
しかも、ローディーのマル・エバンスが、ファンクラブ発行の「BEATLES MONTHLY」に寄せたレポートも付いている。
1969年8月にアルバムリリース予定とのアナウンスや収録曲の解説が書かれていたりと、かなり貴重な資料だ。
冒頭のコメントが面白い。
10年前の曲を収録!
ビートルズ、スキッフルの"Maggie May"を演奏!
リンゴのボーカル無し!(←わざわざアナウンスすることなのか?)
リラックスしたビートルズ(※)、"Love Me Do"を演奏するも、このLPには収録されず!(←わざわざアナウンスすることなのか?)
※ 渾身の演奏をするビートルズ、といった意味かも…
では、内容の方はと言うと、これがなかなか良い。
海賊盤にも関わらず、音も悪くない。
ベースもよく聴こえるし、しっかりとした音圧もある。
状態の良いアセテート盤から盤起こしされたものらしく、70〜80年代の編集盤と比べてもさほどの遜色は無い。
で、曲についてだが、the complete BEATLES recording sessions:ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ(マーク・ルーイスン著)を参考に、録音データを読み解くと、これがまた面白い。
A1:One After 909
録音日:1969年1月30日(木) Rooftop Concert
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンと同じ演奏。
アップル・コア屋上におけるRooftop Concertでの演奏なのだが、ここでの演奏は「ゲット・バック」ではこの曲のみ。
ボーカルが、右にジョン、左にポールと振り分けられている(「レット・イット・ビー」収録バージョンでは2人とも中央に配置されている)。
エンディングにはRooftop Concertでの喋りが入っている(ポール:Thanks Mo! ジョン: I'd like to say thank you on behalf of the group and ourselves, I hope we passed the audition 周囲の笑い声)。
Rooftop Concertの最終曲"Get Back"を演奏した後の喋りをここに繋げているのだが、「レット・イット・ビー」ではB面ラスト"Get Back"のエンディングに入っている。
個人的には、ボーカルが左右に振り分けられている、この「ゲットバック」収録バージョンの方が好み。ジョンの3度上でポールが歌っているのがはっきりと分かる。
A2:Link Track
録音日:1969年1月22日(水)
"Instrumental Number 42"、"I'm Ready"ないしは"Rocker"と記載されることもある、即興演奏のようなインストナンバー(冒頭で少しだけ歌が入っている)。
A3:Save The Last Dance For Me
録音日:1969年1月22日(水)
遊びで演奏したような曲で、最後に"Don't Let Me Down"のサビ部分が歌われる。
A2とA3は続けて演奏されたらしいのだが、次曲の前振りとして、ここに収められたのだろう。
A4:Don't Let Me Down
録音日:1969年1月22日(水)
シングル・バージョンは1月28日(火)の演奏であり、別テイク。
ジョンもポールも所々で掛け声を入れており、まだリハーサル段階といった感じ。
A5:Dig A Pony
録音日:1969年1月24日(金)
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンは1月30日(木) Rooftop Concertでの演奏であり、別テイク。
イントロとアウトロに、All I want is you とのボーカルが入っている(「レット・イット・ビー」収録バージョンではカットされてしまう)。
演奏は完成しているが、ジョンが歌の途中で笑ってしまったり、エンディングで Yes I do と変な声を入れている。
それにしても、イントロとアウトロの All I want is you をフィル・スペクターは何故わざわざカットしてしまったのだろう?「レット・イット・ビー…ネイキッド」でもカットされている…。あった方が良いと思うのだが…
A6:I've Got A Feeling
録音日:1969年1月24日(金)
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンは1月30日(木) Rooftop Concertでの演奏であり、別テイク。
実際に前曲から続けて演奏されたものだが、リハーサルっぽさが残る。最後まで演奏されず、途中で終わってしまっている。
A7:Get Back
録音日:1969年1月27日(月)、1月28日(火)
1月27日(月)のベストテイクに、1月28日(火)のReprise部分を繋いだもの。
シングル・バージョンと同じ演奏。
但し、シングルではボーカルやリードギターにややエコーが掛かっているのに対し、こちらはエコーが掛かっていない。
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンも基本は同じ演奏。
但し、同アルバム収録バージョンにはReprise部分が無い。
なお、ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズによると、シングル・バージョンは1月28日(火)の演奏、「レット・イット・ビー」収録バージョンは1月27日(月)の演奏と書かれているが、どう聴いても同じ演奏。
B1:For You Blue
録音日:1969年1月25日(土)
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンと基本は同じ演奏。
但し、同アルバム収録バージョンには中間部分に1970年1月8日(木)にオーバーダブされたボーカルが入っている(Walk, walk cat walk / Go, Johnny, go / Same old the twelve bar blues / Elmore James got nothing on this baby)。
B2:Teddy Boy
録音日:1969年1月24日(金)
後に、ポールのソロアルバムで正式リリースされる曲のビートルズ・バージョン。
曲の途中でひどいハウリングがしたり、ジョンが途中で歌いだしたり(Take your partners and do-si-do…)、かなりラフな演奏。
B3:Two Of Us
録音日:1969年1月24日(金)
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンは1月31日(金)のものであり、別テイク。
完成度は同アルバム・バージョンには劣るものの、これはこれで悪くない。
B4:Maggie May
録音日:1969年1月24日(金)
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンと同じ演奏。
クォリーメン時代にはステージでも演奏していたという、スキッフル・ナンバー。
なお、「レット・イット・ビー」では"Maggie Mae"と記載されているが、「ゲット・バック」では"Maggie May"と記載されている。
B5:Dig It
録音日:1969年1月26日(日)、1月24日(金)
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンと基本は同じ演奏。
但し、同アルバム・バージョンは1分に満たないものだが、こちらは4分半と長い。
Like A Rolling Stone… のところが一番盛り上がるのは変わらないが…
エンディングでのジョンの子供っぽい喋りは、1月24日(金)演奏時のもの(That was "Can You Dig It" by George Wood, now we'd like to do "Hark The Angels Come")。
B6:Let It Be
録音日:1969年1月31日(金)、4月30日(水)
シングル・バージョン、アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンと基本は同じ演奏。
但し、各バージョンによって、オーバーダブやミックスが違う。
追加録音は以下の通り。
①1969年4月30日(水)録音:レスリー・スピーカーを通したギターソロ。
②1970年1月4日(日)録音:ディストーションの掛かったギターソロ。ブラス、チェロ、ドラム、マラカス、バック・ボーカル
「ゲット・バック」収録バージョンは、①のギターソロをオーバーダブしたもの(← 一発録りのコンセプトだったはずだが、ギターソロをオーバーダブしている)。
シングル・バージョンは、①のギターソロ、ブラス等をオーバーダブしたもの。エンディング近くでは②のギターをオーバダブ。ブラスやドラムのミックスは控えめ。
「レット・イット・ビー」収録バージョンは、②のギターソロ、ブラス等をオーバーダブしたもの。ブラスやドラムのミックスは大きめ。ドラムのハイハットにはディレーが掛けられている。
「ゲット・バック」収録バージョンのシンプルな演奏だけでも、十分に完成度は高い。
音が重なっていないため、後半のピアノのミスタッチは目立つが、それもライブ感があって良い。
録音日:1969年1月31日(金)
アルバム「レット・イット・ビー」収録バージョンと基本は同じ演奏。
但し、同アルバム・バージョンでは、1970年4月1日(水)録音のストリングス、ブラス、コーラス、ドラムがオーバダブされる。
ストリングスなどを勝手にオーバーダブされたことにポールは激怒するのだが、こちらのシンプルな演奏を聴くと、その気持ちも分かる。
B8:Get Back Reprise
録音日:1969年1月28日(火)
A7の続きの演奏。
悪ふざけのようなアドリブのボーカルを聴くことができる。
以上、各曲について見ていったが、ラフな演奏やリハーサルのようなものも多く、通して聴くと、ビートルズが曲を作っていく過程を聴いているような感じがする。
もし、アルバム「ゲット・バック」が当時リリースされていたら、どのような反応だったのだろう?
素の姿が感じられる、ライブ感があるなど、好意的な評価だろうか?
それとも、緊張感が無い、完成度が低いなど、イマイチな評価だろうか?
まあ、どちらの評価もありそうだ…
個人的には、幻の未発表アルバムというフィルターもあるのだろうが、これはアリだ思うし、結構愛聴している。
しかし、最近ビートルズばかりで、「ビートルズ評議会」と化してきたな…
「レコード評議会(a.k.a.ビートルズ評議会)」に改称したほうがいいかな…