レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

Oranges & Lemons / XTC【UK盤】

このアルバム、大手レコード店に面出しで並んでいたものをジャケ買いした記憶がある(レコードではなく、CDだが)

 

中期ビートルズというか、サイケ時期のビートルズというか、サージェント・ペパーやマジカル・ミステリー・ツアー、イエロー・サブマリンと似た匂いをこのジャケットに感じ、購入した。正にジャケ買い

 

で、聴いたところ、これが大当たり。

正にジャケットのイメージそのままの音が聴こえてきた。

 

 

ということで、今回の「レコード評議会」はこれ。

 

 

XTC

Oranges & Lemons

UK盤(1989年)

Virgin 

V 2581

Side1:V 2581 A-1U-1-1  D

Side2:V 2581 B-1U-1-1  D

Side3:V 2581 C-1U-1-1  D

Side4:V 2581 D-1U-1-1  D


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Side1

  1. Garden Of Earthly Delights

  2. The Mayor Of Simpleton

  3. King For A Day

  4. Here Comes President Kill Again

Side2

  1. The Loving

  2. Poor Skeleton Steps Out

  3. One Of The Millions

  4. Scarecrow People

Side3

  1. Merely A Man

  2. Cynical Days

  3. Across This Antheap

Side4

  1. Hold Me My Daddy

  2. Pink Thing

  3. Miniature Sun

  4. Chalkhills And Children

 

 

XTCの「オレンジズ・アンド・レモンズ」(9枚目のアルバム)。

 

XTC(エックス・ティー・シー)というバンド名は Ecstasy(エクスタシー)をもじったもの。

 

アルバム名は、英国の童謡であるマザーグースの「Oranges and Lemons(オレンジとレモン)」から来ている。

 

 

このレコードは、2015年頃に手に入れたもの。CDで愛聴していたのだが、ディスク・◯ニオンでレコードを発見、これは買いだろ!と購入したものだ。

 

このアルバムは、そもそもCDフォーマットを念頭に制作されたものであり、全15曲で60分強あるため、レコードだと2枚組になる。

 

レコードだとジャケットが大きいのだが(当然だが)、このデザインだけにとても映える。

 

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イエロー・サブマリン感が満載だ。

 

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で、実はこのジャケット・デザインには元ネタがある。それがこれ☟

 

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それってパクリじゃないですか? というほどの元ネタ感。

パクリではなく、パロディ?オマージュ

 

ミルトン・グレイザーMilton Glaserが1966年に米国のラジオ局 WOR FM 98.7 のために描いたポスターだ。

 

ミルトン・グレイザーとは米国のグラフィックデザイナー、イラストレーター。有名どころではこんな作品がある。

 


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左:誰もが知っている「I Love New York」のロゴ

右:ボブ・ディランの1967年リリースの「グレイテスト・ヒッツ」に付属していたポスター

 

 

まあ、パクリ、パロディ、オマージュ、何であれ、このジャケットは秀逸だ。

アルバムの中身をよく表しており、イエロー・サブマリン感サイケデリックをイメージしてジャケ買いをした、その期待を裏切らない。

 

ジャケットのイメージそのままの音が収められている、というか、収められている音をジャケットにするとこうなる、といった感じだ。

 

 

さて、アルバムの中身を語る前に、メンバーについて触れておこう。

この時のバンド・メンバーは以下の3人(1977年デビュー当時のメンバーには、ドラマー、キーボーディストがいたが脱退)

 

アンディ・パートリッジAndy Partridge

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当初からのメンバー。

ギター、ボーカル、作曲(7〜8割は彼の作曲)

彼の曲はポップでありつつ、捻りが効いていて「ひねくれポップ」と呼ばれている。音楽性の幅が広くマニア気質で色々と吸収したのだろう)、どの曲もセンスの良さを感じる。ジョン・レノンポール・マッカートニーを足して2で割った感じ(?)の天才的なメロディ・メイカ

 

コリン・モールディングColin Moulding

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当初からのメンバー。

ベース、ボーカル、作曲(2〜3割は彼の作曲)

素直な曲が多く、アンディのような捻りは無いが、分かりやすく、万人向けなのだろう、シングル・カットされてヒットする割合が高い。また、多彩かつツボを押さえた彼のベース・プレイは、ポール・マッカートニーに匹敵するほど素晴らしい。

 

デイヴ・グレゴリーDave Gregory

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1979年より(3rdアルバムより)バンド加入。

ギター、キーボード。

彼の加入後、バンドのカラーが明らかに変わった。パンクっぽい感じから、ギター・ポップに変わり、さらに音楽性の幅が広がった。様々な音を取り入れたという意味ではジョージ・ハリスンの立ち位置か。多彩なサウンドへの彼の貢献は大きい

 

以上3人に加え、サポート・メンバーとして、こんな方々もレコーディングに参加している。

 

パット・マステロットPat Mastelotto

ドラム。Mr.ミスターでドラムを務め、後にキング・クリムゾンにも参加。

 

マーク・アイシャムMark Isham

トランペット。ジャズや映画音楽での仕事を中心に、様々なジャンルで活躍。

 

 

で、アルバムの中身なのだが、ジャケットのイメージ通り、カラフルな楽曲が並んでいる。

 

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好きな曲を中心にいくつか紹介すると…

   A:アンディ・パートリッジ作曲

   C: コリン・モールディング作曲

  ⭐️の数:個人的に好きな度合い

 

1-1 Garden Of Earthly Delights (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

アラブっぽい(インドっぽくもある)メロディが散りばめられたカラフルなサイケ・ポップ。サイケ時期のビートルズをアップデートした感じ。

ちなみに、イントロ後の0.1秒ほどの無音部分は、2001年のリマスターでカットされてしまったが、この処理ははっきり言っていただけない。残念なことに、現在のストリーミングではカットされたものしか聴くことが出来ない。

 

ちなみに「Garden Of Earthly Delights」とネットで検索したところ、初期フランドル派の画家ヒエロニムス・ボス(1450年頃 - 1516年)が描いた三連祭壇画「快楽の園」と出てくる。何か関係があるのか?

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1-2 The Mayor Of Simpleton (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

シングル・カット曲。シンプルなポップ・ソングだが、これぞ天才的なメロディ・メイカーの作る曲。そして、ベース・ラインがこれまた素晴らしい。


1-3 King For A Day (C) ⭐️⭐️⭐️⭐️

シングル・カット曲。素直な曲調だが、逆回転ギターっぽい音など、サウンドは凝っている。

 

2-1 The Loving (A) ⭐️⭐️

シングル・カット曲。ライブでの歓声がSEで被さる。シンプルなギターソロが気持ち良い。


2-4 Scarecrow People (A) ⭐️⭐️⭐️

捻りまくった変な曲。コミック・ソングっぽい感じもする。フィドルの音も入っている。

 

3-1 Merely A Man (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️

シングルにもなりそうなギター・ポップ。英国バロック調のトランペットが素晴らしい。絶対に"Penny Lane"を意識していたはず。

 

3-2 Cynical Days (C) ⭐️⭐️⭐️⭐️

少し気怠い感じの曲。ミュート・トランペットがジャズっぽい雰囲気を醸している。

 

4-1 Hold Me My Daddy (A) ⭐️⭐️

エンディングのカリビアン・ビートがリゾート感があって気持ち良い。

 

4-3 Miniature Sun (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️

ジャズ・フュージョンにも分類できそうな曲。こういう曲も書けるのが、アンディの持つ音楽性の幅の広さ。


4-4 Chalkhills And Children (A) ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

これもジャズのフレーバーが散りばめられた曲で、気怠く、静寂で、不思議な雰囲気。聴くほどに良さが滲み出てくる、隠れ名曲。

 

 

ということで、ポップなものをベースにしつつも、サイケっぽいもの、ジャズっぽいもの、ワールド・ミュージックっぽいもの、コミック・ソングっぽいもの…と、色々な音楽がカラフルに散りばめられている。

言わば、様々な音楽で彩られた万国博覧会だ。

 

が、それでもやっぱり、紛れもなく、どうしようもなく英国的

色々な要素の音楽が混ぜこぜになっていても、これは英国の音楽だよな、と思う。

 

あれやこれやと色々な音楽を取り込みつつも、それでもやっぱり英国的なのは変わらない。

それって、かつて大英帝国として、7つの海を支配、世界中に進出し、様々なものを取り込みつつも、英国的な気質は変わらない、というのと何だか共通する(…かな?)。

 

一方で、自分で言っていて、英国的英国の音楽っていうのが何なのか、実のところよく分からない。

英国トラッド英国フォークが音楽の根底にある、ということなのか?、逆にブルース感やソウル感が無い、ということなのか?

 

 

さて、最後にこのレコードの音について書いておこう。

 

ギター:音の粒立ちが良く、音の輪郭もくっきりとしている。また音の伸びもとても良い。ギター・ポップ・バンドの気持ち良いギターが最高の音で聴ける。

 

ベース:音に芯があり、輪郭もはっきりしており、これまた聴いていて気持ち良い。ポール・マッカートニーにも匹敵するセンス溢れるプレイを余すところなく味わえる。

 

ドラム:CDで聴いていた時には気が付かなかったが、単純なエイト・ビートではなく、曲に合わせて、リンゴ・スターばりに多彩なプレイをしているのがよく分かる。

 

トランペット:5曲だけだが、存在感大。管楽器の響きをしっかりと感じることができる。

 

ボーカル:コーラスの響きも奥行きがあって気持ち良い。

 

 

で、何と言っても、とてもアナログ感を感じる音だ。

 

アナログ・レコードなのだから、当然アナログ感はあるに決まっているでしょう?と言われるかも知れないが、ここで言うアナログ感とはそういう意味では無い。

 

1980年代後半になるとデジタル録音が主流となってくるが、デジタル音源のレコードはハイレゾがあるケースが多い。

ハイレゾ感の例はこちらの記事をどうぞ。)

 

だが、このアルバムは1989年リリースにもかかわらず、ハイレゾではなく、60年代、70年代のアナログ感を感じる音、という意味でのそれだ。

 

もしかするとデジタル録音ではなく、アナログ録音か?

1989年、90年代直前で、アナログ録音ってことはあるのか?

 

で、あれこれ調べてみたところ、手元にあるCDの裏面右下にこんな説明文を見つけた。

 

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このCDに収録の音楽はアナログ機器で録音されています。その音源は可能な限り厳密にCDに収められています。テープに収められている音をCDはその高解像度により余すことなく伝えます。

 

本当にアナログ録音だったのか!

アナログ音源によるレコードゆえのアナログ感だったということか… へぇー

 

吃驚するとともに、やっぱりそうだったのか…と納得。

 

きっとアンディ・パートリッジ(←マニア気質)アナログ・レコードアナログ録音にこだわったのだろうな…

 

 

ということで、素晴らしいアルバム、レコードだということを再確認したのであった。

 

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(おまけ)

きっと、このようなやりとりがあったに違いない。

 

レコード会社「今回のアルバムはCDを基準にして制作するので、そのつもりで」

アンディ「アナログ・レコードの方が好きだ。CDはあまり好きではないのだが…

レコード会社「売るためには時代に合わせた対応が必要だ。変なこだわりは捨てるように」

アンディ「分かった。ただCDのみではなく、アナログ・レコードでもリリースさせてもらいたい」

レコード会社(いちいちうるさいな)分かったから、CDだと60分くらいは必要なので、レコーディングは頼むぞ」

アンディ「それならアナログ・レコードでは2枚組になるが、承知してもらいたい」

レコード会社(ほんとうるさいな)分かったから、しっかり頼むぞ」

アンディ「あと、レコーディングはアナログで行うから」

レコード会社「ん?デジタル録音でなくて良いのか?デジタルの方が音が良いんじゃないか?」

アンディ「アナログ録音の方が良い。アナログ・レコードにはアナログ音源の方が良い」

レコード会社(はぁ?)作るのはCDだが…」

アンディ「アナログ録音のものでCDを作れば良い。今までもそうなのだから、そうさせてもらいたい」

レコード会社(デジタルよりアナログ録音の方が安く済むしな、こちらとしても有り難いわ)よし分かった、ではそのように手配しよう。よろしく頼むぞ」

アンディ「今回のアルバムは2枚組か、コリンの曲はどれくらい入れるかな…」

レコード会社「いや、だからCDを作るんだって言っているだろ…」