レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

Cloud Nine / George Harrison【US盤】

ジョージ・ハリスンのアルバムを2回にわたって採り上げてきた。

 

Somewhere In England(1981)

Gone Troppo(1982)

 

となると、ジョージが80年代にリリースしたもう一枚のアルバムを採り上げない訳にはいかない。

 

ということで、今回の「レコード評議会」はこのアルバム。

 

 

George Harrison

Cloud Nine

US盤(Allied pressing)(1987年)

Dark Horse Records

1-25643

Side1:1-25643-A SH 1 ❀ ɑ B-29014-SH1 △18120 1-1

Side2:1-25643-B SH-1 ❀ ɑ B-29015-SH1 △18120-X 1-1


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Side1

 1. Cloud 9

 2. That’s What It Takes

 3. Fish On The Sand

 4. Just For Today

 5. This Is Love

 6. When We Was Fab

Side2 

 1. Devil’s Radio

 2. Someplace Else

 3. Wreck Of The Hesperus

 4. Breath Away From Heaven

 5. Got My Mind Set On You

 

 

前作から5年のブランクを経て、1987年11月2日にリリースの「クラウド・ナイン」。

 

アメリカのビルボード・チャートで最高8位、1988年度年間ランキングでも31位、ミリオン・セラーとなった大ヒット・アルバムだ。

 

 

ワーナー・ブラザースに収録曲の差し替えを命じられ、そしてジョンへの想いを収録することにもなった「想いは果てなく〜母なるイングランド」。

業界ワーナー・ブラザースに嫌気が差してプロモーションを全く行わず、セールス面では失敗作となった「ゴーン・トロッポ」。

 

それ以降、副業の映画制作に力を入れ、音楽活動に関しては半ば引退状態となっていたジョージだったが、1986年8月公開の映画「上海サプライズ」の制作過程で、ELOエレクトリック・ライト・オーケストラの活動を休止したばかりのジェフ・リンと知り合う。

 

ジェフ・リンは熱狂的なのビートルズ・ファン(彼の自宅のレコード棚にはビートルズバルトークのレコードしかない、とイギリスの音楽誌に書かれたことがあるとのこと)

そんなジェフ・リンとの出会いにより、音楽への情熱が蘇ったジョージ。

 

で、意気投合した2人は1987年1月からアルバム制作を開始、共同プロデュースにより出来上がったのが、この「クラウド・ナイン」という訳だ。

 

参加メンバーも、リンゴ・スターエリック・クラプトンエルトン・ジョンジム・ケルトナー(売れっ子セッション・ドラマー)、ゲイリー・ライト(元スプーキー・トゥースのボーカル・キーボード)など、とても豪華。

 

 

で、曲はと言うと、やはりこの2曲が突出して目立っている。

 

Got My Mind Set On You

ジェームス・レイが1962年にリリースしたシングルのB面"I've Got My Mind Set on You"のカバー。

アルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード・チャートで1位を獲得。ジョージ復活の狼煙を上げる大ヒットとなった。

ちなみに元ビートルズのメンバーによるシングル・チャート1位獲得は、本作が最後。

 

原曲はラテンのリズムにオーケストラとコーラスも入ったムード歌謡っぽい曲だが、ジョージによるカバーはシンプルでストレートなアレンジ。断然こちらの方が良い。

ビートルズはセンスのあるカバーを数多く手掛けていたが、それはここでも健在だ。

 

なお、この曲はB面の最後に置かれているのだが、"Everybody's Trying To Be My Babyみんないい娘"(「ビートルズ・フォー・セール」のB面最後に置かれている、ジョージが歌うカール・パーキンスのカバー)に引っ掛けているのだろう。

 

 

When We Was Fab

ジェフ・リンとの共作。シングル・カットもされ、ビルボード・チャート23位とヒットした。

何と言ってもこの曲は、FAB4ビートルズ時代のことを歌った曲であり、ビートルズのパロディと言うかオマージュと言うか、とにかくビートルズ感が満載だ。

 

One Two ♪ と冒頭からしビートルズ感が満載。カウントの掛け声もそれっぽいし、ドラムはリンゴだとすぐ分かる。

チェロが入ってくると"I Am The Walrus"の世界に突入。

リンゴのドラムも"I Am The Walrus"や"Hello, Goodbye"を彷彿とさせる(と言うか、スネアの音などはそのまんま)

whoo というコーラスも"I Am The Walrus"。

ティンパニが入るところやストリングスは"A Day In The Life"。

do do do do do というコーラスは"Here Comes The Sun"の Here comes the sun, do do do do から来ているのか?

そして、エンディングにはジョージお得意のインド、これは"Within You Without You"だな。

そしてこの曲をA面の最後に置いたのも、間違いなく"I Am The Walrus"(US盤「マジカル・ミステリー・ツアー」のA面最後)を意識してのことだろう。

 

なお、プロモーション・ビデオもビートルズ感が満載。


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上段:演奏しているのは右からリンゴ、ジョージ、セイウチ(Walrus)の被り物姿のポール(ほんとは違うが、そういうことにしておけば良いよ、とポールも言ったとか)。その前を通るのはニール・アスピノール(元ビートルズのローディー、後にアップル・コアの社長)。そして彼が手にする「イマジン」のレコードにはジョンの横顔。FAB4が一同にそろった訳だ。

下段左:言わずと知れた「サージェント・ペパー」姿のジョージ。

下段右:アップル・レコードの青リンゴも登場する(ギターの下)。

 

ついでに、シングル盤のジャケットはこれ。

クラウス・フォアマン(ヴーアマン)による「リボルバー」ジャケットのジョージと、「クラウド・ナイン」時のジョージ。

 

(熱狂的なビートルズ・ファンであるジェフ・リンがジョージを操ってビートルズを再現した曲、というのは意地悪な見方か? まぁ、そうだとしても、ビートルズ復活みたいで、嬉しいけどね)

 

 

その他も、なかなかに良い曲が並んでいる。

個人的に好きな曲は以下の通り。

 

Cloud 9

1曲目に置かれたアルバム・タイトル曲。

cloud nine / cloud 9 とは、最高の幸せ、意気揚々といった意味の言い回し(I'm on cloud nine:この上なく幸せだ、最高だ、という風に使う)

音楽への情熱を取り戻したジョージの気持ちを表している、そんな感じのアップビートな曲… と思って聞くと、渋いスロー・ナンバー。ジョージとエリック・クラプトンのギターの掛け合いも渋い。

狙って"外した"のだろう。ジョージのやりそうなことだ。

 

That’s What It Takes

ジョージ、ジェフ・リン、ゲイリー・ライトの3人の共作。

ELOっぽいサウンドだが、メロディが綺麗で素直に良い曲。エリック・クラプトンのギター・ソロも良い感じ。

 

Someplace Else

映画「上海サプライズ」で使われていた曲(そこではシンセのストリングス付きのアレンジだった)。妻オリビアをイメージして作られた曲だそうだが、これもメロディが綺麗で素直に良い曲だ。

 

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以上に挙げた他にも、3枚目のシングル・カット"This Is Love"とか"Fish On The Sand"、"Just For Today"は人気がある。



ということで、ジェフ・リンの力も借りて、吹っ切れたと言うか、何か突き抜けた感じのジョージ、正に復活のアルバム。

ミリオン・セラーも獲得し、キャリアの中でも重要な位置を占める、素晴らしいアルバムだ。

 

 

ただ、ジョージらしいアルバムか?と言うと、うん?という気がしないでもない…

 

想いは果てなく〜母なるイングランド」や「ゴーン・トロッポ」の方が、あゝジョージだなぁ、と思うのだ。

ジェフ・リン、良い仕事をしていると思うが、彼のカラーが強いためか、"ジョージらしさ"で言うならば前2枚の方に軍配が上がるかなぁ、と。

 

ということで、80年代のアルバムを個人的に好きな順に並べると、

ゴーン・トロッポ

想いは果てなく〜母なるイングランド

クラウド・ナイン

になるかな…

 

ただ、突き抜けた新しいジョージ、と言う風に考えれば、やっぱり素晴らしいアルバムではある。

 

 

さて最後に、持っているレコードについて書いておこう。

ジャケットの左上に "Lent for promotional use only" というスタンプが押してある。プロモーション盤プロモ盤)というやつだ。

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プロモ盤は、レコード会社からラジオ局などに宣伝用として配布された、見本盤・非売品レコードのこと。

殆どの場合、プロモ盤は最初期にプレスされたものなので音は良いはず、と思って手に入れたのだが、期待通りに新鮮で良い音でした。

 

 

 

(おまけ)

映画「上海サプライズ」はゴールデンラズベリー賞(別名ラジー賞アカデミー賞授賞式の前夜に「最低」の映画を表彰するもの)で7部門にノミネートされている。

1986年終わりが近づく頃、ジョージとジェフ・リンとの間でこのようなやりとりがあったのではないか?と勝手に想像している。

 

ジョージ「あの映画、評判イマイチだね。ラジー賞を取ったりして(笑)。それならそれで名誉なことだね」

ジェフ「ジョージ、映画じゃなくて、やっぱり音楽で狙っていこうよビートルズのメンバーと組んでアルバムを作るチャンスだ)

ジョージ「音楽か…  ワーナーにはウンザリしてるんだけどね」

ジェフ「何言ってるんだよ。"ジョージ・ハリスン" なんだから、好き勝手にやったら良いじゃないか(ジョージとアルバムを作るぞ)」

ジョージ「そうか?」

ジェフ「そうだよ、"ジョージ・ハリスン" なんだからさ。そうだ、一緒にアルバムを作ろうよビートルズとアルバムを作るぞ)

ジョージ「そうだな、ワーナーの奴らのことなんて考えずに、好きなことをやれば良いんだよな」

ジェフ「年明け1月からスタジオに入ろう。そうと決まれば、リンゴも呼ぼうよ。僕も一緒に曲を作るよ(これで僕もFAB4の仲間入りだ!いや、レノン/マッカートニーならぬ、ハリスン/リンだ!ビートルズを復活だ!)」

ジョージ「エリックも呼んでみようかな」

ェフ「これはもう、アカデミー賞とかラジー賞どころじゃないよ(もう映画なんてどうでも良いじゃないか)。ミリオン・セラーを狙おうよ!ビートルズ復活だ!もうサイコー!、I'm on cloud nine)

 

以上、ホントに勝手な想像です。

 

 

 

(感謝、そして決意)

B-SELSのご店主のおすすめが無ければ「ゴーン・トロッポ」には出会わなかったかも知れない。

聴くほどに、ジョージらしさに溢れる良いアルバムだなぁ、と思うとともに、そんなアルバムを教えてくれたご店主に感謝です。

 

あと、10月8日の日記に「レコード評議会」をまたまたご紹介いただきました。ありがとうございます。

 B-SELS2023年10月8日の日記

 

と、その日記に書かれているのだが、前回お伺いした際に試聴させていただいた「アビイ・ロードノルウェーB面マト2 売れたのか〜。あの盤もスゴイ音だったもんな〜。

 

レコードはCDやストリーミングと違って、1枚1枚音が違う。その時に手に入れないと、二度と出会うことはない。そんな一期一会みたいなところがあるのがレコード。

 

また、一期一会を求めて、B-SELSに行こう…