前回の「レコード評議会」で、ハル・ウィルナー(Hal Willner)のプロデュースによるトリビュート・アルバム「星空に迷い込んだ男:クルト・ワイルの世界」を採り上げた。
彼のプロデュースによるトリビュート・アルバムには、他にもニーノ・ロータ、セロニアス・モンク、チャールズ・ミンガスを採り上げたものがある。
そんなハル・ウィルナーが手掛けたアルバムにこんなものがある。
another Hand
ドイツ盤(1991年)
Elektra
7559-61088-1
SIDE A:WMME Alsdorf 755 961088-1-A 6
SIDE B:WMME. Alsdorf 755 961088-1-B 5
side a
1. First song
2. moniCa jane
3. come To me, nina
4. hObbies
5. another Hand
Side b
1. Jesus
2. weirD from one step Beyond
3. CEE
4. medley: prayers for Charlie from the devil at four O'clock - The lonely from the Twilight zone
5. dukes & counts
デビッド・サンボーンの1991年アルバム「アナザー・ハンド」。
デビッド・サンボーンはジャズ・フュージョン界のアルト・サックス奏者。
リーダー・アルバムを20枚以上リリースしており、R&Bに影響を受けたファンキーなプレイ、またメロウなプレイは、その独特な音色も相まって「サンボーン節」「泣きのサンボーン」などと言われている。
彼のプレイはフュージョン系やロック・ポップス系の様々なミュージシャン達のアルバムでも数多く聴くことができる。
例を挙げると、ブレッカー・ブラザーズ、マイク・マイニエリ、ジャコ・パストリアス、ボブ・ジェームス、ジョージ・ベンソン、アル・ジャロウ、マンハッタン・トランスファー、マイケル・フランクス、ジェームス・テイラー、カーリー・サイモン、ポール・サイモン、リンダ・ロンシュタット、ケニー・ロギンス、スティービー・ワンダー、ポール・バターフィールド、トミー・ボーリン、トッド・ラングレン、デビッド・ボウイ、ビリー・ジョエル、ローリング・ストーンズ…(まだまだある。スタジオ・ミュージシャンのようだ…)
ということで、純粋なジャズと言うよりフュージョンの人であり、大規模なジャス・フェスのようなところで、特に夕暮れから夜に映えるタイプ、といったイメージがある。
(実際90年代初めにジャス・フェスで観たが、エラく盛り上がっていた。)
そんなデビッド・サンボーンだが、このアルバムには"Chicago Song"や"Snakes"といったファンキーなものも、"Hideaway"や"Benny"といったメロウなものも無い。
いつものデビッド・サンボーンからは全く想像できない、内省的でシリアスなトーンのコンテンポラリー・ジャズだ。
そこでプロデューサーを見てみると、この時期の盟友であるマーカス・ミラー(Marcus Miller)が手掛けているのはA5とB5の2曲のみ。残る8曲は全てハル・ウィルナーが手掛けている。
彼が集めたプレイヤーは、チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden、ベース)やビル・フリゼール(Bill Frisell、ギター)など、いつものデビッド・サンボーンとの共演が思い浮かばない人ばかり。
選曲についてもチャーリー・ヘイデンの"First Song"やヴェルヴェット・アンダーグラウンドの"Jesus"など、いつものデビッド・サンボーンでは想像しづらい曲が多い。
その結果、アルバム全体が内省的でシリアスなトーンになっており、いわゆる異色作だ。
だが、そんなデビッド・サンボーンも決して悪くない。"First song"や"Jesus"は名曲・名演と言える。
で、デビッド・サンボーンのいつもとは違った一面を引き出したのが、ハル・ウィルナーという訳だ。
プロデューサー次第で、同じミュージシャンでもアルバムのトーンがここまで変わるのだな、と…
ちなみに、1992年リリースの次作アルバム「アップフロント(Upfront )」、プロデューサーはマーカス・ミラーに戻っている。サウンドもいつもの「サンボーン節」。
やっぱりこっちのほうがウケが良いのでしょう…
(おまけ情報)
なお、このレコードはドイツ盤としているが、Discogsによるとアナログ・レコードの製造はドイツのみ。
1991年ともなると、CDのみでの発売も多く、アナログ・ファン向けにドイツでのみ製造し、各国に輸出されたのだろう。