2022年11月に開始した「レコード評議会」。
まえがきを除くと、最初の議題は当然にビートルズだった。
では、2つ目の議題は何だったかと言うと、スティーリー・ダンだった。
しかも同じアルバムでUS盤、UK盤、イスラエル盤と3枚一緒に採り上げていた。
にも関わらず、それから150近く採り上げた議題の中に スティーリー・ダンは登場していない。
こいつは宜しくない…
ということで、ちょっと珍しいこんな盤を採り上げることにした。
日本盤(1978年)
ABC Records
YX-8140-AB
SideA:AB-358-495
SideB:AB-358-496
SideA
1. Do It Again
2. Dallas
3. Sail The Waterway
4. Black Friday
SideB
1. Aja
2. Kid Charlemagne
3. Rikki Don't Lose That Number
1978年リリースの日本独自編集盤「Steely Dan」。
まず目を惹くのはジャケットの女性。
名盤「Aja:彩 (エイジャ) 」(1977年) のジャケットと同じ、日本人モデルの山口小夜子。
「Aja:彩 (エイジャ) 」のプロモーション用ポスター
ちなみにオビには以下の通り書かれている。
デビュー・ヒット「ドゥ・イット・アゲイン」から「彩AJA」までスティーリー・ダンの軌跡を収めたベスト・アルバム‼︎
未発表曲「ダラス」「セイル・ザ・ウォーターウェイ」も収録‼︎
スティーリー・ダンのメロウな音の世界があなたを包む----------。
推薦のことば
「彩AJA」のジャケットに私の写真が使われたのをきっかけにスティーリー・ダンの音楽に親しむようになり彼等の大ファンになってしまいました。
軽快なリズムの中に幾重にも織りたたんだような彼等のサウンドのベールは私の心を優しく包みこんでくれます。
心の和みを求めているあなたに「スティーリー・ダン」をおすすめします。
肝心の収録曲については、全7曲のうち5曲は以下アルバムから代表曲が1曲づつ収録されている。
1st「Can't Buy A Thrill」(1972年) から "Do It Again"
3rd「Pretzel Logic:プリッツェル・ロジック (さわやか革命) 」(1974年) から "Rikki Don't Lose That Number:リキの電話番号"
4th「Katy Lied:嘘つきケイティ」(1975年) から "Black Friday"
5th「The Royal Scam:幻想の摩天楼」(1976年) から "Kid Charlemagne:滅びゆく英雄"
6th「Aja:彩 (エイジャ) 」(1977年) から "Aja:彩 (エイジャ) "
そして残る2曲はアルバムの目玉とも言うべき "Dallas" と "Sail The Waterway"。
幻のデビュー・シングルの曲だ。
1stアルバム「Can't Buy A Thrill」(1972年10月) に先立って1972年6月にこれら2曲をA面B面とするデビュー・シングルがリリースされるも、直ぐに回収されたのだという。
スティーリー・ダンらしくないという理由でリリース後1週間で回収された、といったことが雑誌記事やネット情報に書かれている。
また、そもそも正式にリリースされていない、との情報もある。
ともあれ、幻のデビュー・シングルであることに変わりは無い。
それ以降、この2曲は日の目を見ない状態であったが、1977年にイギリスでリリースの独自EP「Four Tracks From Steely Dan」(12インチ4曲入り) に収録され、世に出ることとなった。
そしてその流れを受け、この2曲を目玉とする日本独自編集盤「Steely Dan」が制作された、という訳だ。
「幻の•••」となると、聴きたくなってしまうのはファンの性(さが)、業(ごう) 。
「Get Back」「Lifehouse」「 Rock Is Dead - Long Live Rock!」 「Smile」「The Black Album」
では、そんな目玉の2曲、どんな曲なのか…
Dallas
シングルA面。モノラル。ドラムのジム・ホッダーがボーカル。ジェフ・バクスターのスティールギターが印象的なカントリータッチの曲。
Sail The Waterway
シングルB面。モノラル。ドナルド・フェイゲンがボーカル。「Come on and sail the waterway(さあ、この水路を進んで行こう)」と高らかに歌われるストレートなアメリカン・ロック。
悪く無い。佳作と言って良いだろう。
ただ、悪くは無いが、佳作止まり…
毒気やひねりが無く、洗練や都会的な雰囲気も感じられない。
要するに、スティーリー・ダンらしくない…
しかも、何故かモノラル…
他の曲は当然ステレオなのだが、この2曲はモノラルなのだ。
Discogsなどで調べてみると、1972年6月リリースのシングル(幻のデビュー・シングル)自体がモノラルだったらしい。
アルバム「Can't Buy A Thrill」に収録されなかったこともあり、ステレオミックスは存在しない様だ。
加えて、イギリス独自EP「Four Tracks From Steely Dan」も日本独自編集盤「Steely Dan」も、音源はこのシングルからの盤起こしらしい。
マスターテープは既に廃棄されてしまっていたのだろう。
うーむ、"Dallas" も "Sail The Waterway" もこのアルバムの目玉でありながら、スティーリー・ダンらしくない、モノラル、盤起こし…
何とも微妙だ…
その一方で、このアルバムをベスト盤として捉えようとしても、2ndアルバム「Countdown To Ecstasy:エクスタシー」(1973年) からの曲が抜けている…
これまた微妙だ…
ということで、何とも微妙なアルバムなのである。
かと言って、嫌いか? 気に入らないアルバムか? と問われれば、そんなことも無い。
微妙なアルバムだなぁ、とケチを付けながら聴くのも乙なもの。
そんな意味で、割とお気に入りのアルバムなのである。
最後に "Dallas" と "Sail The Waterway" についてドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーはどう思っていたのか、について…
- 盤起こしをしていることから分かる様に、この2曲のマスターテープは(おそらく)廃棄されている。
- 全曲集である「Citizen Steely Dan 1972-1980」にもこの2曲は収録されていない。
- 二人はこの2曲を復刻したイギリス独自EP「Four Tracks From Steely Dan」について "stinko"(酔っ払った、へべれけの、悪臭のする、くだらない)と呼んでいる。
二人にとって、この2曲は黒歴史だったのだな…